68歳の女性。慢性便秘症のため、週2回のペースで訪問看護師による摘便を受けている。訪問時に患者から「昨日からお腹が張って… | MyMerci
排泄機能障害のある患者の看護
問題

68歳の女性。慢性便秘症のため、週2回のペースで訪問看護師による摘便を受けている。訪問時に患者から「昨日からお腹が張って痛い。吐き気もする。」と訴えがあった。腹部は全体に膨満しており、圧痛がある。訪問看護師の対応として最も適切なのはどれか。

解説
腹部膨満、疼痛、悪心・嘔吐はイレウス(腸閉塞)の可能性を示唆する症状である。イレウスが疑われる場合、摘便や浣腸は腸穿孔のリスクを高めるため禁忌である。経口下剤も腸閉塞時は禁忌である。まずは医療機関での精査(腹部X線検査など)と治療が必要であり、速やかに受診を勧める。

詳細解説

核心解説 この問題は、在宅療養中の高齢者が突然発症した 急性腹症 (Acute Abdomen) 、特に イレウス(腸閉塞)(Ileus / Intestinal Obstruction) の可能性を迅速にアセスメントし、適切な初期対応を選択できるかを問うています。
患者は慢性便秘症の既往があり、訪問看護師が定期的に摘便を行っている背景があります。「腹部膨満」「疼痛(圧痛)」「悪心」の3徴候は、腸閉塞の古典的な症状です。特に、これまでと異なる強い症状の出現は、単なる便秘の悪化ではなく、器質的または機能的な腸閉塞への進展を強く疑う必要があります。
最重要! 腸閉塞が疑われる状態では、腸管壁は浮腫んで脆弱になっており、浣腸や摘便による機械的刺激が 腸穿孔 (Intestinal Perforation) を引き起こすリスクが非常に高くなります。また、腸蠕動が停止している状態での経口下剤の投与は、腸管内圧をさらに上昇させ、穿孔や腹膜炎のリスクを高めるため禁忌です。訪問看護師に求められる最優先の対応は、状態の安定化を図りつつ、速やかに医療機関へ繋ぐ判断 です。 正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! 選択肢⑤ 「医療機関への受診を勧める」 が最も適切です。
理由:腹部膨満、圧痛、吐き気は イレウス(腸閉塞) の典型的な兆候です。イレウスが疑われる場合、在宅での対処(浣腸、摘便、下剤投与)はすべて禁忌であり、まずは医療機関での診断(腹部X線、CT検査)と治療(イレウス管挿入、輸液、手術など) を最優先する必要があります。訪問看護師は、自身のケアの範囲を超えていると判断し、患者の安全を確保するために医師の診察を受けるよう勧めることが正しい判断です。 誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意!経口下剤の内服を促す:腸閉塞時は腸蠕動が低下・消失しており、経口下剤は効果が期待できないばかりか、腸管内圧を上げて穿孔のリスクを高めるため禁忌です。
グリセリン浣腸を実施する:浣腸は腸管内圧を急激に上昇させ、脆弱になった腸壁を破る危険があります。イレウスが疑われる場合の浣腸は絶対的禁忌行為です。
摘便を実施する:摘便も浣腸と同様に直腸やS状結腸への物理的刺激となり、穿孔のリスクがあります。また、腸閉塞の原因が直腸より上部にある場合、摘便では症状は改善しません。
腹部マッサージを指導する:腸蠕動を促す目的で行われますが、イレウス時には蠕動運動自体が停止しているか、病的亢進している可能性があり、マッサージは症状を悪化させる恐れがあります。安易に行うべきではありません。 関連概念の整理 (Related Concepts)
イレウス(腸閉塞)と単純性便秘の鑑別は非常に重要です。便秘では通常、腹部膨満はあっても強い持続痛や圧痛、悪心・嘔吐を伴うことは稀です。混同注意! イレウスは機械的イレウス(物理的な閉塞:癌、癒着、ヘルニアなど)と機能的イレウス(麻痺性イレウス:術後、腹膜炎、電解質異常など)に分類されます。どちらも浣腸・摘便・下剤は禁忌です。また、高齢者の便秘は日常的に見られる症状ですが、「いつもと違う」という訴え を見逃さないことが、訪問看護師の重要な役割です。 概念整理: イレウス(腸閉塞)の3主徴:腹痛・腹部膨満・嘔吐(悪心)+ 排便停止・ガス停止。診断には腹部X線検査(ニボー像、鏡面像)が有用。看護師は経鼻胃管による減圧(イレウス管挿入)の準備と管理、脱水に対する輸液管理、バイタルサインのモニタリングが重要。穿孔や腹膜炎への移行に注意する。
一目で比較!:
症状単純性便秘イレウス(腸閉塞)
腹痛軽度~中等度の鈍痛強い疝痛(間欠的)または持続痛
腹部膨満軽度~中等度高度で進行性
吐き気・嘔吐まれ頻繁に出現(特に高位閉塞)
排便回数減少、硬便完全に停止(ガスも出ない)
圧痛通常なしあり(腹膜刺激兆候があれば要注意)

看護過程ポイント: 【アセスメント】「いつもと違う」症状の訴え(強度、持続時間、随伴症状)を評価。バイタルサイン(特に発熱、頻脈、血圧低下はショックや腹膜炎のサイン)と腹部所見(視診、聴診、触診)を観察。【看護診断】「イレウス(腸閉塞)リスク状態」または「急性疼痛」「体液量不足リスク状態」。【介入】絶食・経鼻胃管挿入の準備、医師への報告、緊急受診の手配。【評価】症状の悪化(穿孔、腹膜炎)がないか継続観察。
暗記のコツ: イレウスの「イ」は「痛い(腹痛)」の「イ」、「レ」は「冷や汗(冷汗)」の「レ」、「ウ」は「うっ滞(膨満)」の「ウ」、「ス」は「すっきりしない(排便・排ガス停止)」と覚えましょう。または「腹痛・膨満・嘔吐(悪心)=3P(Pain, Puff, Puke)」と覚えると便利です。
国試頻出ポイント: イレウスは「絶対的禁忌行為(浣腸・摘便・下剤)」と「緊急受診の判断」がセットで頻出。また、高齢者や術後患者の麻痺性イレウス、癌患者の機械的イレウスの鑑別も問われます。
出題パターン注意!: 近年は単純な知識問題に加えて、訪問看護や病棟での事例問題として出題される傾向があります。患者の訴えから「単なる便秘」と誤認せず、イレウスの可能性を疑い、適切な対応(禁忌行為をせずに医療機関へ繋ぐ)を選択できるかが問われています。

臨床シナリオ

臨床実践ガイド 臨床シナリオ (Clinical Scenario)
あなたは訪問看護ステーションの看護師です。慢性便秘症の78歳女性(一人暮らし、要介護1)の週2回の訪問を担当しています。今日の訪問時、患者さんが「昨日の夜からお腹がパンパンに張って、ズキズキと痛む。気持ち悪くて何も食べられない。」と苦しそうに訴えています。腹部は全体に膨満し、軽く触れただけでも「痛い!」と反応があります。腸蠕動音は聴取できません。バイタルサインは体温37.8℃、脈拍98回/分、血圧100/60mmHgとやや低下傾向です。このような場合、あなたはどのように行動すべきでしょうか? 看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment)
1. 観察 (Observation): まずは患者の訴えを傾聴し、症状の出現時期、経過、性状を詳しく聴取します。バイタルサイン(体温、脈拍、血圧、呼吸数、SpO2)を測定し、ショックや感染の兆候がないか確認します。腹部の視診(膨満の程度、手術痕の有無)、聴診(蠕動音の有無、金属音の有無)、触診(圧痛の部位、程度、筋性防御の有無)を丁寧に行います。
2. アセスメント (Assessment): 腹部膨満、圧痛、悪心、バイタルサインの異常(発熱、頻脈、血圧低下傾向)は、イレウス(腸閉塞)に加えて、腸穿孔や腹膜炎への進展も疑わせる緊急性の高い所見です。訪問看護師の判断範囲を超えている と即座に認識します。
3. 報告と連携 (Report & Collaboration): 最重要! まず患者の安全を最優先し、決して浣腸や摘便を行ってはいけません。直ちに主治医または訪問看護ステーションの管理者に電話連絡し、状況を報告(SBARで:Situation「イレウス疑い」、Background「慢性便秘症」、Assessment「腹部膨満・圧痛・悪心・バイタルサイン異常」、Recommendation「至急医療機関での精査が必要」)します。指示に従い、救急車の手配や家族への連絡を行います。
4. 介入 (Intervention): 医師の指示または施設のプロトコルに従い、来院までの間、患者を安静に保ち、必要があれば酸素投与や静脈路確保を試みます(訪問看護の範囲内で)。経口摂取は禁止(NPO)とし、悪心時には嘔吐物による誤嚥を防ぐために側臥位をとらせます。
5. 評価 (Evaluation): 医療機関への搬送後、症状の経過や診断名、治療内容を確認します。この事例を通じて、同様のケースに備えたアセスメントの振り返りを行い、訪問看護記録に詳細を残します。 患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions)
最重要! 在宅ケアでは、医療資源が限られているため、重症化のサインを見逃さず、適切なタイミングで病院へ繋ぐ判断が看護師の最も重要な役割です。「とりあえず様子を見よう」「いつもの便秘だろう」という思い込みは、患者の生命を危険にさらします。特に高齢者は症状が非典型的な場合があり、微熱やわずかな血圧低下も見逃せません。
看護プロトコル: 【観察項目】バイタルサイン、腹部の視診・聴診・触診、嘔吐の有無、排便・排ガスの有無、患者の全身状態(意識レベル、顔色)。【報告基準(SBAR)】状況:急性腹症・イレウス疑い、背景:既往歴・経過、アセスメント:緊急性の高い所見、勧告:至急受診。【記録のポイント】症状出現時間、内容、観察所見、実施したケア(安静、NPO指示など)、医師への連絡内容と指示、搬送先と経過。
先輩看護師の一言: 「在宅で働いていると、患者さんのちょっとした変化が命に関わるサインだと気づくことが本当に大事です。今回のケースで『浣腸してあげよう』と思ったら、それは逆効果どころか命取りになります。『これは自分でなんとかしよう』と思わず、『これは病院で診てもらわないと!』と素早く判断できる勇気と知識を持ってくださいね。国試でも現場でも、患者さんを守るのはあなたのアセスメント力です!」

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