看護学のコア解説
この問題は、
周術期 (Perioperative period)における
2型糖尿病 (Type 2 diabetes mellitus)患者の血糖管理と、看護師の適切な介入について問うています。特に、術前の不安定な血糖値に対する対応と、患者の不安への対応が統合されています。
重要概念の分析 (Key Concept)
周術期の糖尿病患者では、
ストレス性高血糖 (Stress hyperglycemia)のリスクが高まります。手術という身体的ストレスにより、コルチゾールやカテコラミンなどのストレスホルモンが分泌され、インスリン抵抗性が増加し、血糖値が上昇しやすくなります。術前の絶食(NPO)状態と、前夜に投与された持効型インスリンの作用が重なり、血糖値の変動リスクが高まっています。血糖値
180 mg/dLは、理想的な術前血糖コントロール(一般的に目標は110-180 mg/dLの範囲)の上限に近く、特に手術前には是正が望ましい値です。高血糖状態での手術は、創部感染リスクの増加、創傷治癒の遅延、電解質異常などを引き起こす可能性があります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
ここがポイント! 選択肢①「スライディングスケールに基づき速効型インスリンを投与し、麻酔科医に報告する」が正解です。その根拠は以下の通りです。
1.
プロトコルに基づく介入:多くの施設では、術前・術中の血糖管理のために「スライディングスケール (Sliding scale insulin protocol)」という医師の指示が事前に出されています。これは測定した血糖値に応じて、速効型インスリン(例:レギュラーインスリン、リスプロなど)の投与量を決定する方法です。看護師はこの指示に基づき、自律的に介入することが求められます。
2.
チーム連携:血糖値が目標範囲を超えていることを麻酔科医に通知することは、
チーム医療 (Team-based care)の基本です。麻酔科医は術中の管理を担当するため、患者の状態を把握しておく必要があります。
3.
患者の安全確保:手術前に血糖値を可能な限り適正範囲に近づけることで、術中・術後の合併症リスクを低減します。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意!
② 「血糖コントロールが改善するまで手術をキャンセルし、再スケジュールする」:
180 mg/dLという血糖値は、緊急に手術をキャンセルすべきほどの重度の高血糖ではありません。看護師が単独で手術をキャンセルする決定を下すことは、職権範囲を超えています。まずはプロトコルに沿った介入を行い、主治医や麻酔科医と相談すべきです。
③ 「糖尿病患者にとって許容範囲の血糖値なので、計画通り手術を進める」:確かに許容範囲内ではありますが、
最適化 (Optimization)の観点からは改善の余地があります。また、患者自身が「手術がキャンセルになるのでは」と不安を感じているため、この対応は患者の心理的ニーズにも応えていません。
④ 「術中の低血糖を予防するためにオレンジジュースを与える」:これは
危険な介入です! 患者は術前絶食(NPO)状態です。経口摂取は誤嚥のリスクがあり、麻酔導入前に絶対に禁止されています。また、現在は高血糖状態にあるため、糖分摂取は状態をさらに悪化させます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
周術期の血糖管理目標は、厳格すぎるコントロールによる低血糖リスクと、高血糖による合併症リスクのバランスを取ることです。一般的な目標は、術前・術中・術後を通じて
110-180 mg/dLに維持することが推奨されています。持効型インスリンは、基礎分泌をカバーするため、絶食中でも通常は中止されませんが、用量調整が必要な場合があります。
概念のまとめ
・周術期の糖尿病患者はストレス性高血糖のリスクが高い。
・術前血糖値の目標は一般的に110-180 mg/dL。
・看護師はスライディングスケールなどの指示に基づき自律的に介入し、チームに報告する。
・術前絶食(NPO)中の経口糖分摂取は禁忌。
一目で比較!
| 状況 | 適切な看護介入 | 避けるべき介入 |
|---|
| 術前NPO、血糖値180mg/dL | スライディングスケールによる速効型インスリン投与、麻酔科医へ報告 | 経口糖分摂取、看護師単独での手術キャンセル決定 |
| 術前NPO、血糖値60mg/dL(低血糖) | 医師へ緊急連絡、IVアクセス確保、D50Wなどの静脈内ブドウ糖投与の準備 | 経口摂取(誤嚥リスク) |
解剖生理と薬理のポイント
・
ストレスホルモン (Stress hormones)(コルチゾール、アドレナリン、グルカゴン):肝臓での糖新生を促進し、インスリンの作用を抑制するため、血糖値を上昇させる。
・
持効型インスリン (Long-acting insulin)(例:グラルギン、デテミル):基礎インスリン分泌を補充。作用時間が長い(24時間程度)ため、絶食中でも通常は投与継続されるが、用量調整が必要な場合がある。
・
速効型インスリン (Rapid-acting insulin)(例:リスプロ、アスパルト):食後や随時の高血糖是正に使用。スライディングスケールで用いられる。
暗記のコツとゴロ合わせ
「
術前はスライドで報告」
「スライド」=スライディングスケールによるインスリン投与。
「報告」=麻酔科医や主治医への報告。これをセットで覚えましょう。
国試頻出ポイント
周術期管理、特に糖尿病患者の術前絶食(NPO)と薬剤調整、血糖コントロールは超頻出テーマです。血糖値の具体的な数字(正常、要注意、緊急対応が必要な値)と、その状況に応じた看護介入(経口摂取可能か、静脈内投与か、インスリンの種類)をセットで覚えることが必須です。
国試出題パターンの変化に注意!
単に「血糖値180mg/dLの対応は?」と問うだけでなく、本問のように「患者の不安への言葉かけ」という心理社会的要素を絡めた問題や、「持効型インスリンを前夜に打っている」という薬理学的要素を組み合わせた複合問題が増えています。介入の「根拠」と「患者の反応への対応」の両方を考えられるようにしましょう。