看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
「65歳、2型糖尿病の患者。大腸癌のため開腹手術を予定。術前検査で空腹時血糖
200 mg/dLを指摘される。患者は『手術が心配で、昨夜からあまり食べられなかった』と話している。」
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
アセスメント:直近の血糖値の推移、使用中の糖尿病薬(インスリン製剤・経口血糖降下薬)、低血糖の自覚症状の有無、食事摂取量を確認。
2.
計画と実施:医師と連携し、
持続皮下インスリン注入 (CSII)または
持続静脈内インスリン注入 (CII)のプロトコルを開始する準備を行う。血糖値に応じた調整可能なインスリン療法が安全です。
3.
モニタリング:術前は1-2時間ごと、術中・術後も頻回(1-2時間ごと)に血糖値を測定。低血糖症状(冷や汗、動悸、意識レベルの変化)にも常に注意を払う。
4.
患者教育:血糖モニタリングの重要性と、低血糖症状について説明する。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
・絶飲食中も、血糖コントロールのために
ブドウ糖含有輸液 (Glucose-containing IV fluids)が持続的に投与されることがあります。インスリン単独投与は禁忌です。
・経口血糖降下薬(特にSU剤)は、術前日に中止されることが多いです。必ず医師の指示を確認してください。
・低血糖が疑われた場合は、直ちに血糖値を測定し、必要に応じて
ブドウ糖の静脈内投与 (IV glucose administration)などの対応を行います。
看護処置と与薬フロー
| 状況 | インスリン対応の原則 | 看護師のアクション |
| 術前・絶飲食 | 基礎インスリンは通常50%減量など調整。速効型インスリンは血糖値に応じてスライドスケールで投与。 | 医師の調整指示を確認。血糖値測定を頻回に行い、スライドスケールに従って投与。 |
| 術中 | 持続静脈内インスリン注入(CII)が一般的。血糖値140-180mg/dLを目標に調節。 | 麻酔科医と連携。輸液ポンプの設定と血糖モニタリングを厳重に行う。 |
| 術後・経口摂取開始前 | 持続静脈内または持続皮下インスリン注入を継続。経口摂取開始に合わせて経口薬または皮下注射に切り替え。 | 血糖値と食事摂取量をモニタリング。低血糖に備えてブドウ糖製剤をベッドサイドに準備。 |
先輩看護師からの一言
「糖尿病の患者さんの術前管理で、『血糖値の数字』は単なるデータではありません。それは『創がきれいに治るかどうか』『感染と戦う力が保たれているか』を表す、最も重要なバイタルサインのひとつです。手術室に送る前に、血糖コントロールを最善の状態に整えてあげることが、私たち看護師ができる最高のプレオペレーション(術前準備)です。数字に振り回されるのではなく、数字を味方につけて患者さんを守りましょう!」