70歳の女性で、右人工股関節全置換術後1日目である。ベッド上での右下肢の自動運動を評価したところ、股関節と膝関節の屈曲は… | MyMerci
運動機能障害のある患者の看護
問題

70歳の女性で、右人工股関節全置換術後1日目である。ベッド上での右下肢の自動運動を評価したところ、股関節と膝関節の屈曲は可能だが、足関節の背屈と底屈の自動運動が全くできないことがわかった。この患者に最も疑われる合併症はどれか。

解説
人工股関節全置換術後、特に後側方アプローチでは、術中の牽引や圧迫により総腓骨神経が損傷されることがある。総腓骨神経は足関節の背屈と足指の伸展を支配するため、その麻痺により下垂足(足関節背屈不能)が生じる。股関節・膝関節の屈曲が可能であることから、大腿神経や坐骨神経の主要枝は保たれていると考えられる。

詳細解説

核心解説 この問題は、人工股関節全置換術 (Total Hip Arthroplasty, THA) 後の神経合併症を問うています。特に、術式(後側方アプローチ)と術後の自動運動評価から、どの神経が損傷されたかを鑑別する能力が求められます。

核心概念の分析 (Key Concept)
問題の患者は、右人工股関節全置換術後1日目です。股関節と膝関節の屈曲は可能 である一方、足関節の背屈と底屈が全く不可能 という症状がポイントです。
・股関節屈曲: 腸腰筋 (Iliopsoas)(大腿神経支配)
・膝関節屈曲: ハムストリングス (Hamstrings)(坐骨神経脛骨枝支配)
・足関節背屈: 前脛骨筋 (Tibialis Anterior)(総腓骨神経支配)
・足関節底屈: 腓腹筋 (Gastrocnemius)(脛骨神経支配)
つまり、股関節と膝関節の運動が保たれているということは、大腿神経坐骨神経 の主要機能は温存されていることを示します。一方、足関節の運動(背屈・底屈)が完全に消失しているのは、総腓骨神経 (Common Peroneal Nerve) またはその枝(浅腓骨神経、深腓骨神経)が障害されたことを強く示唆します。総腓骨神経麻痺では、下垂足(足関節背屈不能)が特徴的であり、本例では底屈も不能であるため、総腓骨神経の完全麻痺が疑われます。

正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! 正解は ④総腓骨神経麻痺 です。
人工股関節全置換術(特に後側方アプローチ)では、術中に下肢を牽引したり、肢位を保持する際に、大腿骨近位部を走行する 総腓骨神経 が圧迫・牽引されやすいです。この神経は、膝関節の外側を通り、下腿前面に分布して足関節背屈・足指伸展を司るため、その麻痺は下垂足(Drop Foot)を呈します。問題文の通り、足関節の自動運動が完全にできないという所見は、総腓骨神経麻痺に典型的です。

誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 深部静脈血栓症 (Deep Vein Thrombosis, DVT):下肢の腫脹、発赤、疼痛、熱感、Homans徴候が特徴であり、自動運動の完全な消失は来しません。DVTは運動制限というより、疼痛による運動時不快感が主です。
閉鎖神経麻痺:閉鎖神経は大腿内転筋群を支配し、股関節の内転障害を来します。足関節の運動は障害されません。
大腿骨頭の脱臼:股関節の激痛、患肢の短縮・外旋・内転位などの変形が特徴で、足関節の自動運動単独の障害は来しません。
大腿神経麻痺:大腿神経は腸腰筋(股関節屈曲)と大腿四頭筋(膝関節伸展)を支配します。問題では「股関節屈曲は可能」とあるため、大腿神経機能は保たれていると考えられます。大腿神経麻痺では、膝関節伸展不能(階段昇降困難)や大腿前面の感覚障害が生じますが、足関節の運動は障害しません。

関連概念の整理 (Related Concepts)
・人工股関節全置換術の術後合併症には、脱臼、感染、神経麻痺(総腓骨神経、坐骨神経、大腿神経)、深部静脈血栓症、肺塞栓症、脚長差、骨折などがあります。
・特に後側方アプローチでは脱臼と総腓骨神経麻痺のリスクが高く、前方アプローチでは大腿神経麻痺のリスクがやや高いことを覚えておきましょう。
混同注意! 坐骨神経麻痺では、股関節伸展、膝関節屈曲、足関節の全ての運動(背屈・底屈)が障害されます。本例では膝関節屈曲が可能であるため、坐骨神経本幹は保たれていると判断できます。

概念整理: 人工股関節全置換術後の神経麻痺は、術式と症状の組み合わせで鑑別する。股関節・膝関節の運動が保たれ、足関節のみ完全麻痺 → 総腓骨神経麻痺を第一に疑う。
一目で比較!:
神経主な運動支配障害時の主症状
総腓骨神経足関節背屈・足指伸展下垂足、足関節背屈不能
脛骨神経足関節底屈・足指屈曲足関節底屈不能、尖足変形
坐骨神経膝関節屈曲・足関節全て下肢全体の運動麻痺
大腿神経股関節屈曲・膝関節伸展膝伸展不能、階段昇降困難

看護過程ポイント: 術後は アセスメント:下肢の自動運動の範囲、感覚(特に下腿外側・足背)、疼痛、腫脹の有無を定期的に評価する。看護診断:術後合併症リスク状態(総腓骨神経損傷、DVT、脱臼)。計画・実施:神経麻痺が疑われた場合は直ちに医師へ報告(SBAR)、足関節の装具(AFO)準備、早期リハビリテーションの開始。DVT予防としての弾性ストッキングやフットポンプも並行して行う。
暗記のコツ: 「総腓骨神経」=「総じて腓(ひらがな:こむら)がえしができない」と覚える。腓骨の外側を走り、足首を背屈(つま先を上に向ける)する神経。逆に「脛骨神経」はふくらはぎの後ろ側(下腿後面)を通り、足首を底屈(つま先を下に向ける)する。
国試頻出ポイント: 人工股関節全置換術の合併症は毎年のように出題される。特に術後合併症(脱臼・神経麻痺・DVT・感染)の症状とアセスメントは、状況設定問題で問われやすい。
出題パターン注意!: 「術後1日目に患者が『足が上がらない』と訴えた。看護師のアセスメントとして正しいのはどれか」のような状況設定問題や、「この患者に必要な看護ケアはどれか」と続く発展問題も想定される。

臨床シナリオ

臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
70歳女性、変形性股関節症に対して右人工股関節全置換術(後側方アプローチ)が行われ、術後1日目。ベッドサイドで自動運動を評価したところ、「足首が動かない」と患者が訴え、足関節の自動運動が完全に消失しているのを確認しました。股関節と膝関節の屈曲は可能で、下肢に腫脹や発赤はありません。足背の感覚も「触られている感じがしない」と訴えています。

看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment)
1. 観察:バイタルサイン(体温、脈拍、血圧、呼吸、SpO2)を測定。下肢の外観(腫脹、発赤、熱感、変形の有無)を観察。Homans徴候(足関節を背屈した際のふくらはぎの疼痛)はDVTの疑いがあるため、痛みに注意しながら実施。
2. アセスメント:足関節の自動運動完全消失と足背の感覚低下は、総腓骨神経麻痺 を示唆。股関節・膝関節の運動が保たれていることから、坐骨神経本幹や大腿神経の障害は否定できる。DVTは運動制限よりも疼痛と腫脹が主症状であり、現時点では否定的。
3. 最重要! 報告:医師にSBARで報告。
S(状況):「右THA術後1日目の70歳女性です」
B(背景):「術後経過は順調でしたが、足関節の自動運動ができないと訴えています」
A(アセスメント):「足関節背屈・底屈ともに不能で、足背の感覚も低下しています。股関節と膝関節の自動運動は可能です。総腓骨神経麻痺の可能性が高いと考えます」
R(提案):「神経学的評価と、必要に応じて足関節装具の処方について相談したいです」
4. 介入:医師の指示に基づき、足関節装具(AFO: Ankle Foot Orthosis) の装着、下垂足予防のための足関節の他動的運動(関節可動域訓練)、褥瘡予防のための踵部の除圧。患者と家族へ麻痺の原因(術中の神経への圧迫)と経過(多くの場合、時間経過とともに改善するが、完全回復までに数週~数ヶ月かかることもある)を説明し、不安の軽減を図る。
5. 評価:経時的に自動運動の回復度合い、感覚の改善、装具のフィット感を評価する。

患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions)
注意! 下垂足があると、歩行時に足先を引きずり転倒リスクが著しく高まる。歩行開始時には必ずAFOを装着し、歩行補助具(歩行器やT字杖)を適切に使用する指導を徹底する。
・DVTとの鑑別が難しい場合があるため、下肢の腫脹、発赤、熱感、Homans徴候の有無も同時に評価する。DVTが否定されない限り、弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置(IPC)の使用を継続する。
・神経麻痺の回復過程では、筋萎縮や拘縮予防のため、理学療法士と連携したリハビリテーションが重要。

看護プロトコル: 術後下肢の自動運動評価は、少なくとも1日1回は必ず実施する。評価項目:股関節(屈曲・伸展・外転・内転)、膝関節(屈曲・伸展)、足関節(背屈・底屈)、足指(屈曲・伸展)。異常があれば、発見時刻、症状(自動運動の程度、感覚障害の範囲と程度)、対応、報告内容を詳細に記録する。
先輩看護師の一言: 「人工股関節の手術後、患者さんが『足が上がらない』と言ってきたら、『すぐに先生に報告しないと』と直感で動けるようになってくださいね。国試で覚えた知識は、患者さんの安全を守るための武器です。『この症状はどの合併症か』というアセスメント力は、夜間・休日でも一人で判断しなければならない場面で必ず役立ちます!」

重要概念

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