核心解説
この問題は、
一次救命処置 (Basic Life Support, BLS) の初期対応、特に
胸骨圧迫 (Chest Compression)の優先順位を問うています。
最重要! 2020年米国心臓協会 (AHA) ガイドラインおよび日本救急医学会のBLSアルゴリズムでは、反応がなく、正常な呼吸が確認できない(死戦期呼吸を含む)場合、
ただちに胸骨圧迫を開始する(C-A-Bアプローチ)ことが推奨されています。
これは、心停止後の最も重要な救命の連鎖は「迅速な胸骨圧迫」による
脳灌流 (Cerebral Perfusion)の維持であり、人工呼吸や除細動の準備よりも優先されるためです。従来のA-B-C(気道確保・人工呼吸・胸骨圧迫)から、C-A-B(胸骨圧迫・気道確保・人工呼吸)へと優先順位が変更された点が理解の鍵です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は
②番「ただちに胸骨圧迫を開始する」です。
反応がなく、呼吸が確認できない状態は、ほぼ
心停止 (Cardiac Arrest)と判断します。心停止後、脳はわずか4~6分で不可逆的な損傷を受け始めます。このため、まず胸骨圧迫(強く、速く、絶え間なく)を開始し、血液を脳や心臓に送り出すことを最優先します。胸骨圧迫開始後、救助者が複数いる場合や、到着した救急隊・医療従事者と連携して、
気道確保 (Airway) → 人工呼吸 (Breathing) を追加し、AEDによる除細動の準備を進めます。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 各誤答は、古いガイドライン(A-B-C)や、状況設定の誤認に基づいています。
①番「まず救急車を呼び、その後胸骨圧迫を開始する」:
混同注意! 救助者が1人の場合、発見直後から救急車要請(119番通報)と胸骨圧迫は並行して行われますが、実際の手順としては「反応確認 → 呼吸確認 → 119番通報とAED手配 → ただちに胸骨圧迫」が正しい流れです。「救急車を呼んでから」ではなく、「呼びながら」胸骨圧迫を開始します。この選択肢は「まず救急車を呼び、その後」という順序が誤りです。
③番「まず除細動器を準備する」:
混同注意! 除細動 (Defibrillation) は、AEDが到着してから行う処置です。まずは胸骨圧迫を開始し、AEDが到着したら可能な限り早く電極パッドを装着し、リズム解析を実施します。除細動器の準備が優先されるのは、目撃された心停止で、すぐにAEDが手元にある場合などに限られます。一般市民のBLSでは、まず胸骨圧迫が最優先です。
④番「まず気道確保を行い、その後人工呼吸を開始する」:これは古いA-B-Cアプローチです。心停止の原因が窒息など気道閉塞によるものではない限り、C-A-B(胸骨圧迫優先)が現在の標準です。
⑤番「ただちに人工呼吸を開始する」:人工呼吸は胸骨圧迫よりも優先度が低くなりました。特に、救助者が医療従事者でなく、感染リスクなどが懸念される一般市民の場面では、胸骨圧迫のみのハンズオンリーCPRも推奨されています。
関連概念の整理 (Related Concepts)
BLSにおける成人の胸骨圧迫のポイント:
強く (深さ5-6cm) 、速く (毎分100-120回) 、絶え間なく (中断を最小限に) 行うことが重要です。また、
死戦期呼吸 (Agonal Respiration) を「呼吸あり」と誤認しないように注意が必要です。これは心停止直後に見られる不規則で苦しそうなあえぎ呼吸であり、正常な呼吸ではありません。
概念整理:
BLSの基本アルゴリズム (C-A-B)
反応なし + 呼吸なし(死戦期呼吸含む) →
119番通報・AED手配 →
ただちに胸骨圧迫開始 → 30回の胸骨圧迫後、2回の人工呼吸(気道確保後)を繰り返す。AED到着後は、音声ガイダンスに従って除細動を実施。
一目で比較!:
A-B-C vs C-A-Bアプローチ
| 項目 | 旧A-B-C (変更前) | 新C-A-B (現在の標準) |
|---|
| 優先順位 | 気道確保 → 人工呼吸 → 胸骨圧迫 | 胸骨圧迫 → 気道確保 → 人工呼吸 |
| 根拠 | 呼吸が止まった場合に気道確保と人工呼吸が最優先という考え | 心停止が原因のほとんどのケースで、脳への血流維持のための胸骨圧迫が最優先 |
| 結果 | 人工呼吸に時間がかかり、胸骨圧迫開始が遅れる | 胸骨圧迫を迅速に開始でき、脳灌流が維持されやすい |
看護過程ポイント:
観察 (Assessment)
看護師として、患者の反応と呼吸の確認は最優先の観察項目です。応援を呼び、
迅速な胸骨圧迫の開始と、AEDや救急カートの準備を同時に行う判断力が求められます。
暗記のコツ: 「反応なし、呼吸なし」は「心停止(Cardiac Arrest)」。その時のキーワードは「
C-A-B」。C(Chest compression: 胸骨圧迫)が最初!「まずは心臓を動かせ!」と覚えましょう。死戦期呼吸は「呼吸ありと誤認するな!」。
国試頻出ポイント: BLSの流れ、特に一般市民と医療従事者での違い(医療従事者は頸動脈触知を行うことがある)、小児と成人の胸骨圧迫の深さや圧迫部位の違い、AEDの使用方法(電極パッドの貼付位置、ショック中の注意点)と併せて出題されることが非常に多いです。
出題パターン注意!: 単純な順序問題から、「夜間の病棟で患者が突然反応を失った」といった状況設定問題に発展します。状況設定では、看護師は「まず自分が行うこと」と「応援を呼ぶタイミング」の判断が問われます。