核心解説
この問題は、
手根管症候群 (Carpal Tunnel Syndrome, CTS) の診断に用いられる徒手検査法について問うています。手根管症候群は、
手根管内での正中神経 (Median Nerve) の圧迫によって生じる絞扼性神経障害です。診断には、神経の圧迫を再現する誘発テストが有用であり、その中でも
最重要! ファレンテスト (Phalen Test) と
ティネルサイン (Tinel Sign) が代表的です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は
① ファレンテスト (Phalen Test) です。ファレンテストは、両手の手首を最大に屈曲(手掌を合わせる、あるいは手背を合わせる)させた状態を約1分間保持することで、手根管内圧を上昇させ、正中神経の圧迫症状(母指から示指・中指のしびれや痛み)を誘発する検査です。手根管症候群の診断における感度が高く、スクリーニング検査として第一選択となります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意!
- ② ティネルサイン (Tinel Sign) は、手根管部(手掌基部)を軽く打診し、その遠位に放散するしびれや電気が走るような感覚を確認する検査です。ファレンテストと並んで有用ですが、本問では「診断に有用な徒手検査法」として両者とも選択肢にあります。問題文に特記事項がない場合、より感度の高いファレンテストが正解となることが多いですが、どちらも正解になりうるため、状況によって判断が必要です。ただし、本問では①が正解です。
- ③ フローレンステストは存在しません。類似する名称の検査法はなく、明らかな誤答です。
- ④ フローマン徴候 (Froment Sign) は、
尺骨神経麻痺 (Ulnar Nerve Palsy) を評価する検査です。母指と示指で紙片を挟んだ際に、母指のIP関節が屈曲する(代償動作)ことを確認します。手根管症候群(正中神経障害)とは関連がありません。
- ⑤ アレンテスト (Allen Test) は、
橈骨動脈と尺骨動脈の血流の開存性を評価するための検査です。主に動脈血採血や橈骨動脈カテーテル挿入の前に行われ、手根管症候群の診断には用いません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
手根管症候群の診断には、上記の徒手検査に加え、神経伝導速度検査 (Nerve Conduction Velocity, NCV) や筋電図 (Electromyography, EMG) が確定診断に用いられます。治療は、保存療法(手首の安静・装具固定、NSAIDs内服、ステロイド局所注射)が第一選択であり、効果不十分な場合に手術療法(手根管開放術)が検討されます。
概念整理: 手根管症候群 (CTS) は、手根管という解剖学的狭小部位での正中神経圧迫が原因。症状は母指から環指橈側半分の感覚障害と母指球筋の筋力低下・萎縮。夜間に症状が増強するのが特徴(夜間痛・しびれ)。誘発テストにはファレンテスト(手関節屈曲)とティネルサイン(打診)がある。
一目で比較!:
| 検査法 | 対象神経 | 方法 | 陽性所見 |
|---|
| ファレンテスト | 正中神経 | 手関節最大屈曲1分間保持 | 母指~中指のしびれ誘発 |
| ティネルサイン | 正中神経(手根管部) | 手根管部の打診 | 遠位への放散痛・しびれ |
| フローマン徴候 | 尺骨神経 | 母指と示指での紙片挟み | 母指IP関節の屈曲 |
| アレンテスト | 橈骨動脈・尺骨動脈 | 両動脈圧迫後の手掌の色調回復 | 色調回復の遅延(動脈閉塞) |
看護過程ポイント:
アセスメント: 患者の主訴(夜間のしびれ増強、手を振ると改善するか)、職業(パソコン作業・調理師など手首の反復使用)、身体所見(母指球筋萎縮の有無、知覚障害領域の確認)。
看護診断: 「慢性疼痛」「感覚・知覚変調」「身体可動性障害(手の機能障害)」など。
計画・実施: 安静指示の徹底、夜間装具(手関節中間位固定)の装着指導、疼痛時の冷却や挙上の指導。手術療法が行われた場合は、創部管理と再発予防のための生活指導(手首の負担軽減方法)を実施。
暗記のコツ: 「ファレン(Phalen)は『曲げる(Flex)』」→ 手首を曲げる(屈曲させる)テスト。「ティネル(Tinel)は『叩く(Tap)』」→ 神経を軽く叩いて確認するテスト。語呂合わせで覚えましょう。
国試頻出ポイント: 手根管症候群の症状(正中神経領域の感覚障害・母指球筋萎縮)と、診断に用いる誘発テスト(ファレンテスト、ティネルサイン)の組み合わせは頻出。他の末梢神経障害(肘部管症候群=尺骨神経、梨状筋症候群=坐骨神経など)と鑑別できるようにしておきましょう。