核心解説
この問題は、急性肩関節痛の原因鑑別と、特徴的な身体所見(自動運動障害 vs 他動運動良好)の解釈を問うています。特に、
石灰沈着性腱板炎 (Calcific Tendinitis of the Rotator Cuff) の病態生理を正確に理解しているかが鍵となります。
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 本症例のポイントは、「自動運動は困難だが、他動運動はほぼ全方向に可動する」という点です。これは、筋自体の炎症や疼痛による反射的な筋収縮抑制(自動運動の障害)がある一方で、関節構造そのものや腱の器質的な癒着・断裂がないため、他動的には動かせることを示しています。
石灰沈着性腱板炎 は、腱板にリン酸カルシウム結晶が沈着し、これが急激に滑液包内に破綻することで、激しい炎症反応(急性石灰性腱周囲炎)を引き起こします。この炎症による激痛のため、患者は自動的には肩を挙上できませんが、腱板自体の断裂や関節包の癒着がないため、他動的には動かすことができます。この臨床像が本症例に完全に合致します。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
混同注意!
- ①番の
腱板断裂 (Rotator Cuff Tear):自動運動も他動運動も障害されます。断裂した腱が筋の収縮力を伝達できないため、自動挙上は不可能ですが、他動的に挙上しようとしても、断裂部の痛みと筋力低下により、検査者が腕を支えても患者はその位置を保持できません(drop arm sign)。
- ③番の
肩関節脱臼 (Shoulder Dislocation):関節の適合性が失われているため、自動運動・他動運動ともに強く制限され、かつ上腕骨頭の逸脱による「肩峰下の陥凹(Hill-Sachs deformity)」などの外見上の変形を伴います。
- ④番の
上腕骨頭骨折 (Fracture of the Humeral Head):骨折による骨片の不安定性と激痛のため、自動運動・他動運動ともに制限されます。腫脹や皮下出血、圧痛も顕著です。
- ⑤番の
肩関節周囲炎(五十肩)(Frozen Shoulder / Adhesive Capsulitis):徐々に進行する関節包の癒着と拘縮が特徴で、自動運動だけでなく他動運動も著しく制限されます(global restriction)。
関連概念の整理 (Related Concepts):
- 急性肩痛の鑑別では、「自動運動の可否」と「他動運動の可否」の組み合わせが極めて重要です。本症例のような「自動×、他動○」のパターンは、石灰沈着性腱板炎の他に、痛風発作や偽痛風が肩に生じた場合も類似の所見を示すことがあります。
- 石灰沈着はエックス線検査 (X-ray) で、腱板上(特に棘上筋腱)に高吸収域として描出されるため、確定診断に有用です。
概念整理: 急性肩関節痛の鑑別キーは「自動運動 vs 他動運動」の解離。解離があれば「腱板実質の器質的断裂・癒着がない炎症性疾患(石灰沈着性腱板炎など)」を疑う。解離がなければ器質的障害(断裂・脱臼・骨折・癒着)を考慮する。
一目で比較!:
| 疾患 | 発症様式 | 自動運動 | 他動運動 | 特徴 |
| 石灰沈着性腱板炎 | 急性(突然発症) | 困難 | 良好 | 石灰の滑液包内破綻による炎症 |
| 腱板断裂 | 外傷後が多い | 困難 | 困難(drop arm sign) | 腱の断裂、筋力低下 |
| 肩関節周囲炎(五十肩) | 慢性(徐々に進行) | 制限 | 制限(全方向性) | 関節包の癒着と拘縮 |
| 肩関節脱臼 | 外傷直後 | 不能 | 不能(変形あり) | 関節適合性の喪失 |
| 上腕骨頭骨折 | 外傷直後 | 不能 | 不能(腫脹・圧痛) | 骨片の不安定性、激痛 |
看護過程ポイント: アセスメントでは、疼痛の部位・性状(灼熱痛か)、発症時刻・誘因(外傷の有無)、他動的可動域の程度を正確に評価する。看護診断としては「
急性疼痛 (Acute Pain)」が優先される。介入では、安静保持、三角巾での患肢固定、NSAIDsなどの消炎鎮痛薬の内服または外用、冷却療法(急性期)の実施が中心となる。患者教育として、急性期の安静の重要性と、症状が落ち着いた後の段階的なリハビリテーションの必要性を説明する。
暗記のコツ: 「石灰沈着性腱板炎=自動運動×(痛くて上がらない)、他動運動○(関節は壊れてないから動く)」と覚えましょう。「炎」は「炎症」=「腫れて痛いけど、構造は保たれている」とイメージすると良いです。
国試頻出ポイント: 肩関節疾患の鑑別は頻出。特に「自動運動と他動運動の解離」に着目した問題は、国試で必ずと言って良いほど出題されます。事例問題では「患者が自分で腕を挙げられないが、看護師が動かすと動く」という状況設定で出題され、その原因を問われます。
出題パターン注意!: 単純な知識問題だけでなく、「50代男性、夜間に突然肩の激痛で目が覚めた。自分で腕を上げようとすると激痛が走る。受診時の所見:自動運動不能、他動運動は全方向に可能。最も考えられるのは?」という状況設定問題(事例問題)に発展して出題されます。このパターンをマスターしておきましょう。