核心解説
この問題は、
膀胱癌 (Bladder Cancer) に対する
膀胱全摘除術 (Total Cystectomy) 後の合併症として生じる
勃起障害 (Erectile Dysfunction, ED) の原因を問うています。Aさんのテストステロン値は正常範囲内であることから、内分泌的な原因は否定され、手術による
神経損傷 (Nerve Injury) が最も有力な原因となります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept):
膀胱全摘除術では、前立腺や精嚢を含めて切除するため、前立腺の被膜周囲を走行する
骨盤内臓神経 (Pelvic Splanchnic Nerve) や
海綿体神経 (Cavernous Nerve) が損傷されるリスクが極めて高いです。これらの神経は副交感神経系に属し、勃起に不可欠な海綿体への血流増加を調節しています。したがって、術後のEDは主に
神経因性 (Neurogenic) の機序によるものです。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale):
選択肢②「神経損傷」が正解です。
最重要! 骨盤内の手術(膀胱全摘、前立腺全摘、直腸切断術など)では、勃起に関わる自律神経(骨盤神経叢)が温存しにくいため、術後EDの頻出原因となります。Aさんの検査値(テストステロン正常)もこの診断を支持します。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①「性ホルモン分泌の低下」は、テストステロン値が基準範囲内であるため否定されます。EDの原因として内分泌性は約2-5%と稀です。
③「糖尿病」は、HbA1c 5.4%(正常値)と血糖102mg/dL(正常値)から否定されます。糖尿病性神経障害によるEDは長期罹患後に生じますが、本例では該当しません。
④「喫煙」は血管内皮障害による動脈性EDのリスク因子ですが、
混同注意! 本例では手術という明確な原因があり、テストステロン値も正常であるため、喫煙単独での急な発症とは考えにくいです。喫煙は長期的なリスク因子ですが、術後急性期のEDの主因は神経損傷です。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts):
骨盤内手術後のEDは、
神経温存術式 (Nerve-Sparing Surgery) の適応によって発生率が異なります。また、術後の
陰茎リハビリテーション (Penile Rehabilitation) としてPDE5阻害薬(シルデナフィルなど)の早期投与が行われることがあります。テストステロン値とHbA1c値を同時に評価することで、内分泌性・代謝性の原因を除外する臨床推論の流れを理解しましょう。
概念整理: 膀胱全摘除術後EDの原因は、骨盤内臓神経・海綿体神経の損傷による神経因性EDが最多。テストステロン値が正常であれば内分泌性は否定的。血管性(動脈性・静脈性)は動脈硬化や喫煙など長期的リスク因子によるが、本例では手術が直接原因。
一目で比較!:
| 原因分類 | 機序 | 代表的疾患/状況 |
| 神経因性 | 自律神経(骨盤神経叢)損傷 | 膀胱全摘後、前立腺全摘後、直腸切断術後、脊髄損傷 |
| 内分泌性 | テストステロン低下 | 性腺機能低下症、加齢、視床下部・下垂体腫瘍 |
| 血管性 | 動脈硬化、静脈閉鎖不全 | 糖尿病、高血圧、喫煙、脂質異常症 |
| 薬剤性 | 降圧薬(β遮断薬、サイアザイド系利尿薬)、抗うつ薬(SSRI) | 高血圧治療中、うつ病治療中 |
看護過程ポイント:
アセスメント: 術後のED出現を早期に発見するため、排尿状態と合わせて勃起機能の変化を問診。テストステロン値、HbA1c、喫煙歴を確認。
看護診断: 「性機能障害 (Sexual Dysfunction)」
計画・介入: 医師への報告(神経温存の有無、PDE5阻害薬の適応判断)、患者・パートナーへの心理的サポート(EDは治療可能な合併症であることを説明)、必要に応じて泌尿器科や性機能専門外来への紹介を調整。
評価: 術後経過に応じた勃起機能の回復状況、患者の心理的受容度。
暗記のコツ: 「骨盤内の手術=骨盤神経叢損傷=神経因性ED」と覚えましょう。テストステロンは「ホルモン=内分泌」と紐づけて、正常値なら「ホルモン原因ではない」と判断。
国試頻出ポイント: 膀胱癌・前立腺癌の術後合併症としてのEDは頻出。テストステロン値やHbA1cを絡めた「原因の鑑別」問題がよく出題されます。単に「EDは神経損傷」と暗記するのではなく、なぜ他の選択肢が除外されるか(検査値の解釈)まで含めて理解しておきましょう。
出題パターン注意!: 本例のような「検査値を含む事例+術後合併症」のパターンは、状況設定問題(連問)に発展しやすいです。例えば「AさんのEDに対して看護師が最初に行うべきことは?」という設問に発展し、選択肢に「テストステロン補充療法の提案」「PDE5阻害薬の内服指導」「患者とパートナーへの心理的サポート」などが並ぶことが想定されます。