核心解説
この問題は、
低張性脱水 (Hypotonic Dehydration) の病態生理を問うています。A君は大量の発汗により水分とナトリウム (Na+) を喪失した後、塩分を含まない水道水を多量に摂取したため、細胞外液のNa+濃度が正常よりも低下し、
浸透圧が低下した状態です。このとき、細胞外液の浸透圧が細胞内液より低くなるため、浸透圧の高い細胞内へ水が移動し、細胞内液は増加します。結果として、血管内(細胞外液)の水分量はさらに減少し、循環血液量が低下します。この一連の流れを理解することが鍵です。
1.
核心概念の分析 (Key Concept):
脱水 (Dehydration) は、喪失する水分と電解質(特にNa+)のバランスにより、高張性、等張性、低張性の3つに分類されます。本問では、Na+喪失に比べて水分補給が過剰であったため、
最重要! 低張性脱水 (Hypotonic Dehydration) の病態となっています。これは、
水中毒 (Water Intoxication) や
熱痙攣 (Heat Cramps) の病態でもあります。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): ③番の「循環血液量は減少している」が正解です。なぜなら、細胞外液のNa+濃度低下(低Na血症)により浸透圧が低下し、水が細胞内へ移動するため、血管内(細胞外液腔)の水分量が減少するからです。これは、
細胞外液から細胞内液への水分移動が起こるためで、結果として循環血液量(有効循環血液量)は減少します。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
① 細胞内液は減少している。
混同注意! これは誤りです。低張性脱水では、細胞外液の浸透圧が低いため、水は浸透圧の高い細胞内へ移動します。その結果、
細胞内液は増加します。細胞がむくむため、脳浮腫を引き起こす危険性もあります。
② 血漿浸透圧は上昇している。
これも誤りです。Na+濃度が低下しているため、
血漿浸透圧は低下します。浸透圧の計算式(2×Na+ + 血糖 + BUN)を思い出してください。Na+が低下すれば、浸透圧は下がります。
④ ヘマトクリットは低下している。
誤りです。ヘマトクリット (Ht) は、血液中の赤血球の割合を示します。循環血液量が減少すると、血液が濃縮されるため、
ヘマトクリットは上昇します。低下するのは、循環血液量が増加する場合(例:等張性輸液の過剰投与)などです。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts):
脱水の3分類を比較して整理しましょう。
| 脱水の種類 | Na+喪失 vs 水喪失 | 細胞外液浸透圧 | 細胞内液量 | 代表的な原因 |
|---|
| 高張性脱水 | 水喪失 > Na+喪失 | 上昇 | 減少 | 発熱、高齢者の水分摂取不足、糖尿病性ケトアシドーシス |
| 等張性脱水 | 水とNa+が等しく喪失 | 正常 | 不変 | 下痢、嘔吐、出血 |
| 低張性脱水 | Na+喪失 > 水喪失(または水過剰) | 低下 | 増加 | 大量発汗後の水のみの補給、利尿薬の過剰使用 |
概念整理: 低張性脱水の本質は、
細胞外液の低浸透圧です。これにより、水は細胞内へ移動し、
細胞内液増加(細胞浮腫)と
循環血液量減少が同時に起こります。
一目で比較!: 脱水の3分類は、
混同注意! 細胞外液のNa+濃度(浸透圧)の変化で整理しましょう。Na+が高い→高張性、正常→等張性、低い→低張性。
看護過程ポイント:
アセスメント:バイタルサイン(血圧低下、脈拍数増加)、皮膚のツルゴール低下、口渇感(低張性では軽度)、体重減少、意識レベル(低Na血症による脳浮腫で意識障害に注意)。
看護診断:「体液量不足 (Deficient Fluid Volume)」。
介入:経過観察と原因の除去。重度の低張性脱水では、Na+補充のために
生理食塩液や
高張食塩液の投与が必要になる場合があります。
暗記のコツ: 「低張性脱水=水が細胞内へ『引っ越し』するイメージ」と覚えましょう。血管(外)から細胞(内)へ水が移動するため、血管内は空っぽ(循環血液量減少)、細胞はパンパン(細胞浮腫)になります。
国試頻出ポイント: 脱水の種類と、それに伴う検査所見(血清Na値、浸透圧、ヘマトクリット、BUN/Cr比)の変化を問う問題は頻出です。特に、
最重要! 低張性脱水ではヘマトクリットが上昇する(血液濃縮)ことをセットで覚えましょう。
出題パターン注意!: 本問のようなグラフや図を用いた問題、あるいは「大量発汗後の水のみの補給」といった具体的な状況設定(事例問題)での出題が典型的です。「血清Na値 120mEq/L」のような検査値と合わせて出題されることも多いです。