核心解説
この問題は、術後の高齢患者における転倒恐怖と自己効力感低下に対する看護師の声かけを問うています。中心となるのは
心理的支援 と
リハビリテーション看護 (Rehabilitation Nursing) の原則です。Aさんは「また転びそうで怖い」「元のように歩ける自信がない」と、現実的な目標達成への不安と自己効力感 (Self-Efficacy) の低下を示しています。このような状況では、患者の努力や現状の肯定的な変化を認め、小さな成功体験を積み重ねることで自信を取り戻せるような支援が優先されます。
正解の根拠 (Answer Rationale)
③「少しずつ歩けるようになってきていますよ」が最も適切です。
最重要! この声かけは、Aさんの現在のリハビリの成果(杖歩行練習中であること)を具体的に認め、ポジティブなフィードバックを与えています。これにより、Aさんは自身の進歩を再認識し、「できている」という感覚が自信(自己効力感)の回復につながります。転倒恐怖や不安を抱える患者への第一歩として、事実に基づいた励ましが効果的です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
①「リハビリテーションの回数をもっと増やしましょう」:
混同注意! Aさんの訴えは「恐怖心」と「自信のなさ」であり、リハビリの量(回数)の問題ではありません。無理に回数を増やすことは、かえって疲労や更なる不安を招き、転倒リスクを高める可能性があります。まずは心理面の安定が優先です。
②「カルシウムを多く含んだ食品を摂りましょう」:栄養指導(骨粗鬆症予防)は長期的な視点では重要ですが、Aさんの今の「転びそうで怖い」「自信がない」という切実な訴えに直接応えたものではありません。ニーズと乖離したアドバイスです。
④「退院先は介護老人保健施設にしましょう」:
混同注意! Aさんの希望は「早く家に帰りたい」であり、現時点で退院先の変更(施設入所)を提案することは、患者の希望を否定し、不安を増強させる可能性があります。退院後の生活については、リハビリの経過やADLの回復状況を評価した上で、本人の意向を尊重しながら検討すべきです。
関連概念の整理 (Related Concepts)
高齢者の転倒予防と心理的支援:高齢者は転倒後、転倒恐怖症 (Post-Fall Syndrome) を発症しやすく、活動制限がADL低下をさらに加速させます。看護師は、安全な環境調整とともに、患者の自己効力感を高める支持的コミュニケーションが重要です。
自己効力感 (Self-Efficacy) を高めるには、「達成体験(小さな成功体験を積む)」が最も効果的とされています。
概念整理: 術後高齢者の転倒恐怖に対する看護は、
心理的安定と自己効力感の回復が最優先。患者の現状の肯定的変化を認め、成功体験を積み重ねられるよう支援する。生理的ニーズ(栄養、排泄)や社会的ニーズ(退院先)のアセスメントは、心理的準備が整った後に並行して行う。
一目で比較!:
| 状況 | 患者の心理状態 | 適切な声かけの方向性 |
|---|
| リハビリが進まず焦っている | 無力感、焦り | 「少しずつでも確実に進歩していますよ」(現状の肯定) |
| 痛みや疲労でリハビリを拒否 | 痛みへの恐怖、消耗感 | 「無理しないで大丈夫です。今日はここまで頑張りましたね」(休息の許可) |
| 転倒の恐怖が強い | 不安、自信喪失 | 「今日は杖を使ってここまで歩けましたね。とても上手です」(具体的成功体験の強調) |
看護過程ポイント:
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アセスメント: 転倒恐怖の程度、自己効力感、ADL遂行能力、疼痛、バランス能力、補聴器使用状況(コミュニケーション)。
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看護診断:
転倒リスク状態 (Risk for Falls)、
身体可動性障害 (Impaired Physical Mobility)、
不安 (Anxiety) または
非効果的対処 (Ineffective Coping)。
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計画・実施: 段階的な目標設定、安全な環境調整(手すり、床の滑り止め)、補聴器の確認(指示の聞き間違い防止)、ポジティブフィードバック、恐怖の言語化の促進。
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評価: 歩行距離・安定性の向上、転倒恐怖の軽減、自己効力感の改善(「もう少し頑張れそう」という発言)。
暗記のコツ: 患者の訴え(主観的情報)にまず共感するのが基本。「恐怖」「不安」「自信がない」に対しては、①感情の受容(「そう感じるのは当然ですね」)→ ②事実に基づくポジティブなフィードバック(「今日は〇〇ができましたね」)の順で考える。
国試頻出ポイント: 高齢者の大腿骨頸部骨折術後の看護は頻出。特に、転倒予防、術後合併症(せん妄、深部静脈血栓症、肺塞栓症)、リハビリテーション、退院支援(在宅復帰か施設入所かの判断)がセットで問われる。
出題パターン注意!: 単純に「正しいリハビリの内容」を問う問題ではなく、患者の心理状態(不安、恐怖)に応じた看護介入の優先順位を問う問題に発展しやすい。「身体的介入(リハビリ増加、栄養指導) vs 心理的介入(励まし、共感)」の優先度を判断できるかがポイント。