核心解説
この問題は、
尿崩症 (Diabetes Insipidus) の病態生理と、その原因となる
抗利尿ホルモン (ADH / Vasopressin) の分泌器官を問うています。
患者の所見:
多飲 (Polydipsia)・多尿 (Polyuria)、1日尿量
5L(正常1~2L)、尿比重
1.005(正常1.010~1.025)、尿浸透圧
110 mOsm/kg(正常500~800) は、
低張尿 (Hyposthenuria) の典型パターンです。これは、腎臓で水の再吸収を促進するADHが不足または作用不全であることを示しており、そのADHは
最重要!視床下部 (Hypothalamus) で産生され、
下垂体後葉 (Posterior Pituitary Gland) から分泌されます。
正解の根拠 (Answer Rationale)問題文は「この症状の原因と考えられるホルモンの内分泌器官」を尋ねています。症状はADH(バソプレシン)の作用不足による尿崩症を示しており、ADHは下垂体後葉から分泌されます。したがって、正解は「①下垂体後葉」です。
※注意:産生器官は視床下部ですが、分泌器官(貯蔵・放出)は下垂体後葉です。問題文の「内分泌器官」は分泌場所を指すため、下垂体後葉が正答となります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)混同注意! ②甲状腺 (Thyroid Gland):甲状腺ホルモン(T3, T4)は代謝を調節します。低下すると体重増加、亢進すると頻脈・発汗などが現れますが、ADHとは無関係です。
③膵臓 (Pancreas):インスリンを分泌し、血糖値を調節します。糖尿病(Diabetes Mellitus)では高血糖による浸透圧利尿で多尿・口渇を呈しますが、この場合、尿比重・浸透圧は高くなります(濃い尿)。本例は低張尿なので尿崩症が考えられます。
④副甲状腺 (Parathyroid Gland):副甲状腺ホルモン (PTH) はカルシウム・リン代謝を調節します。尿崩症とは無関係です。
⑤副腎 (Adrenal Gland):副腎皮質からはコルチゾール・アルドステロン、副腎髄質からはカテコールアミンが分泌されます。アルドステロンはNa再吸収・K排泄に関与しますが、水の再吸収を直接調節するADHとは別のホルモンです。
関連概念の整理 (Related Concepts)尿崩症は、ADHの分泌不足(中枢性尿崩症 / Central DI)と、腎臓のADH受容体の異常(腎性尿崩症 / Nephrogenic DI)に大別されます。どちらも低張尿・多尿を呈しますが、治療法が異なります(中枢性にはADH補充、腎性にはサイアザイド系利尿薬など)。また、類似疾患の糖尿病では高血糖→浸透圧利尿→高張尿となる点を対比して覚えましょう。
概念整理: 多尿の鑑別は尿比重と尿浸透圧が鍵。低張尿→尿崩症(ADH不足/作用不全)、高張尿→糖尿病(高血糖による浸透圧利尿)。
一目で比較!:
| 項目 | 尿崩症 (DI) | 糖尿病 (DM) |
|---|
| 尿量 | 多尿(3~20L/日) | 多尿(軽度~中等度) |
| 尿比重 | 低い(1.025) |
| 尿浸透圧 | 低い(300 mOsm/kg) |
| 血中ADH | 低い(中枢性)or 正常/高い(腎性) | 正常~高い |
| 血糖 | 正常 | 高値 |
看護過程ポイント: 多尿患者のアセスメントでは、
1日尿量・尿比重・尿浸透圧のモニタリングに加え、脱水・電解質異常(特に高Na血症)の早期発見が重要。必要に応じて輸液療法 (Fluid Therapy) やADH補充(デスモプレシン)の実施・効果判定を行います。
暗記のコツ: 「ADH = おしっこを“あ・ど・ひかえる”(抗利尿)ホルモン」→ これが不足するから「尿崩症(おしっこが崩れるように出る)」と覚える。産生は「視床下部」、分泌は「下垂体後葉」の順番で。
国試頻出ポイント: 尿崩症と糖尿病の多尿の鑑別(尿比重・浸透圧の違い)は頻出。また、中枢性尿崩症の原因(頭部外後、脳腫瘍、下垂体手術後など)も併せて覚えておくと良い。
出題パターン注意!: 事例問題で「頭部外傷後患者の尿量が急に増えた。考えられるのは?」→ 中枢性尿崩症を疑うパターンや、「多尿がある患者にどの検査を行う?」→ 水制限試験・高張食塩水負荷試験などのパターンにも対応できるよう、病態生理から理解しておきましょう。