核心解説
この問題は、
自閉スペクトラム症 (Autism Spectrum Disorder, ASD) を持つ幼児(5歳)の母親への適切な声かけを問うています。ASDの特性として、
見通しの立たない状況に対する強い不安やパニック が挙げられます。問題文では、母親が「検査でパニックを起こすのでは」と心配しており、看護師はこの不安に寄り添い、具体的で効果的な支援策を提案する必要があります。A君は「繰り返し説明することで、抑えなくても注射ができるようになった」という経験があり、
プレパレーション(Preparation:準備・心の準備) が有効であることが示唆されています。特にASD児には、言語的な説明よりも
視覚的な情報(絵カード、スケジュール表など)を用いた支援が極めて有効です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! 正解は③「家でA君に説明できる絵カードをお渡しします」です。
ASD児の特徴として、
視覚優位 (Visual Learning) と
同一性保持 (Need for Sameness) があります。見通しを視覚的に示すことで、次に何が起こるかが予測でき、不安が軽減されます。また、家で繰り返し見せられることで、本番に備えることができます。母親の「繰り返し説明することで…」という情報からも、事前の準備が有効であることが読み取れます。絵カードは、採血の流れ(「お部屋に入る」→「椅子に座る」→「腕を出す」→「チクッとする」→「終わり」→「シールをもらう」など)を順序立てて示すことができ、ASD児にとって非常に理解しやすいツールです。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
①「検査があることは当日に説明しましょう」
混同注意! これは一般的な子どものプレパレーションとは逆の対応です。ASD児にとって、当日急に知らされることは大きな不安とパニックを引き起こします。見通しが立たないことこそがASD児の最大のストレス要因であり、事前に十分な準備が必要です。「前日や当日の説明で十分」という考えはASD児には通用せず、むしろ逆効果です。
②「予防接種ができるのであれば心配ありません」
混同注意! 母親の心配を軽く見る発言です。母親は「パニックを起こすのではないか」と具体的に心配しているため、この発言は母親の不安を否定し、共感を示していません。予防接種ができたとしても、検査(成長ホルモン分泌刺激試験)は複数回の採血や安静が必要であり、予防接種とは状況が大きく異なります。母親の不安に真摯に向き合う姿勢が欠けています。
④「看護師3人でA君をしっかりと抑えて採血します」
最重要!混同注意! これは明らかに不適切な対応です。問題文で母親が「繰り返し説明することで、抑えなくても注射ができるようになった」と話していることから、身体拘束は後退であり、A君の成長や主体性を無視した対応です。身体拘束は、子どもに強い恐怖心とトラウマを与え、医療への信頼を損なう可能性があります。医療安全の観点からも、身体拘束は最後の手段であり、まずはプレパレーションなどの非拘束的対応を優先すべきです。
関連概念の整理 (Related Concepts)
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プレパレーション (Preparation): 子どもと家族が検査や処置を受ける際に、その内容を理解し、心理的な準備ができるように支援すること。ASD児には特に視覚的支援(絵カード、スケジュール、ソーシャルストーリー™)が効果的です。
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ディストラクション (Distraction): 処置中の気をそらす技術。シャボン玉やおもちゃ、音楽など。
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セデーション (Sedation): 薬物を用いて鎮静を図る方法。身体拘束の代替として検討される場合もある。
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トラウマインフォームドケア (Trauma-Informed Care): 過去のトラウマ体験(身体拘束など)を考慮したケア。A君の「頑張ろう」と泣きながら叫ぶ行動は、過去のトラウマの表れである可能性が高い。
概念整理
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自閉スペクトラム症 (ASD) の3つの核心特性:
社会的コミュニケーション/相互関係の障害、
限定的で反復的な行動/興味/活動、
感覚過敏/鈍麻。特に「見通しが立たないことへの強い不安」と「視覚優位」が本問の鍵。
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プレパレーションの原則: 早期(事前)・継続的・子どもの発達段階に合わせた・正直な情報提供。ASD児には言語よりも
視覚的情報が有効。
一目で比較!
| 対応 | ASD児への影響 | 看護学的評価 |
|---|
| ① 当日説明 | 強い不安とパニックの誘発 | 逆効果・禁忌に近い |
| ② 心配なしと伝える | 母親の不安を否定 | 共感不足・情報不足 |
| ③ 絵カード提供 | 見通しが立ち不安軽減 | 最も適切・効果的 |
| ④ 身体拘束 | トラウマ・恐怖の再体験 | 後退・倫理的問題 |
看護過程ポイント
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アセスメント: A君の過去の経験(抑えられて予防接種)、現在の反応(恐怖心を抑える様子)、母親の不安レベルと具体的な懸念内容。
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看護診断 (NANDA-I): 不安(Anxiety)【母親】、恐怖(Fear)【A君】、非効果的対処(Ineffective Coping)【状況による】
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計画・実施: ①母親と協力し、A君の理解度に合わせた絵カードを作成。②採血手順をステップごとに視覚化。③処置前に練習の機会を設ける。④処置中はディストラクション(シャボン玉、タブレットなど)を活用。⑤成功体験を積み重ねるため、まずは短時間の見学や模擬練習から開始。
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評価: A君のパニックの有無、泣き叫ぶ程度、母親の安心感。
暗記のコツ
「ASD=
A 明日の見通しが立たないと
S すごく不安
D だから、視覚的支援!」
「絵カードは
「見える安心」 のカタチ」
国試頻出ポイント
ASD児のケアにおける「
視覚的支援 (Visual Support)」と「
見通しを持たせる」ことは、看護師国家試験で繰り返し問われる核心概念です。また、子どもの権利を尊重したケア(身体拘束の回避、プレパレーション)という視点も重要です。
出題パターン注意!
単純な知識問題:「ASD児へのプレパレーションで最も適切なのは?」
から、
状況設定問題(事例問題):「発語が少ないASD児が処置を拒否している。最も適切な看護師の対応は?」
に発展します。事例の細かな情報(母親の言葉、子どもの行動)から、適切な看護介入を選択する力が問われます。