核心解説
この問題は、地震という災害ストレス状況下で、複数の傷病者が同時に来院した際の
トリアージ (Triage) と
看護介入の優先順位 (Priority of Nursing Intervention) を問うています。特に、外傷による出血性ショックが疑われるAさん、高齢で転倒後腰痛のあるBさん、そして精神的ストレスから過換気が疑われるCさんの3者を比較し、最も生命の危険が高い患者から対応する「緊急度・重症度」に基づく判断が鍵となります。
Cさん(14歳女子)は、
頻呼吸 (Tachypnea)、頻脈 (Tachycardia)、低血圧 (Hypotension)、手のしびれ(テタニー徴候)を呈しています。これは、強い精神的ストレスによる
過換気症候群 (Hyperventilation Syndrome) の典型的な症状です。しかし、注意すべきは、Cさんのバイタルサインの中に
血圧94/40mmHg という
ショック (Shock) を示唆する低血圧が含まれている点です。過換気症候群では、通常、血圧は正常範囲内かやや上昇するため、この低血圧は他の原因(例えば、内因性の血管迷走神経反射や脱水など)の可能性も示唆します。したがって、初期対応で
最も優先度が高いのは、バイタルサインの異常を再評価し、ショックの有無を確認することです。
1.
正解の根拠 (Answer Rationale): 正解は④
Cさんの経皮的動脈血酸素飽和度〈SpO2〉の測定 です。
最重要! Cさんは頻呼吸であるため、
SpO2を測定して低酸素血症 (Hypoxemia) の有無を確認することが最優先です。過換気症候群では、PaCO2が低下するためSpO2は正常~上昇することが多いですが、低血圧を伴うことから、肺塞栓症(Pulmonary Embolism)など重篤な呼吸器疾患の可能性も否定できません。呼吸状態と酸素化を客観的指標で評価することは、初期対応の第一歩です。
2.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
-
混同注意! ①
Bさんの着衣の交換: Bさんは意識清明でバイタルサインは安定しており、腰痛を訴えているものの、緊急性は高くありません。排尿による濡れは不快ですが、生命の危険には直結しないため、CさんやAさんの対応より優先度は低いです。
- ②
Bさんの既往歴の確認: Bさんは腰痛があるため、既往歴(骨粗鬆症の有無など)の確認は重要ですが、緊急処置の優先順位としては、CさんやAさんの生命を脅かす状態への対応が優先されます。
- ③
Cさんの四肢の保温: 過換気症候群では、末梢血管収縮による四肢冷感がみられることがありますが、根本的な原因(過換気)への対応(声かけ、呼吸法指導)が優先されます。保温だけでは低血圧の改善にはつながらず、優先度は高くありません。
3.
関連概念の整理 (Related Concepts):
-
混同注意! 過換気症候群 vs 肺塞栓症: どちらも頻呼吸・動悸・しびれを呈しますが、肺塞栓症では
低酸素血症(SpO2低下)と胸痛が特徴です。SpO2測定は両者の鑑別に極めて重要です。
-
トリアージ (Triage): 災害時など限られた医療資源で最大の効果を得るために、患者の緊急度・重症度を分類するシステム。生命の危険が高い「赤(最優先)」から、軽症の「緑」まであります。この事例では、外傷性ショックが疑われるAさんが最も緊急度が高い可能性があります。
概念整理:
過換気症候群 (Hyperventilation Syndrome)は、不安やストレスにより呼吸中枢が刺激され、過呼吸となる状態。PaCO2低下→呼吸性アルカローシス (Respiratory Alkalosis)→末梢神経過敏(テタニー:手指・口囲のしびれ、痙攣)を生じる。バイタルサインは頻脈、血圧正常~上昇。しかし、本例では
低血圧を伴うため、より重篤な疾患の可能性を考慮する必要がある。
一目で比較!
| 患者 | 主訴 | 疑われる病態 | 緊急度 | 初期対応の優先度 |
|---|
| Aさん(44歳男性) | 殿部痛、低血圧、Hb低下 | 外傷性出血性ショック (Traumatic Hemorrhagic Shock) | 最高(赤) | 圧迫止血、輸液ルート確保、医師報告 |
| Bさん(80歳女性) | 腰痛、意識清明、バイタル安定 | 圧迫骨折 (Compression Fracture) 疑い | 中(黄) | 安静保持、診察待ち、情報収集 |
| Cさん(14歳女子) | 頻呼吸、低血圧、手のしびれ | 過換気症候群 vs ショック状態 | 高(橙) | SpO2測定、呼吸状態評価、声かけ |
看護過程ポイント:
アセスメント:Cさんのバイタルサイン(特に血圧と呼吸数)と症状(手のしびれ)の関連性を分析。過換気症候群の可能性が高いが、低血圧を軽視せず、他のショック原因を否定する。
看護診断:非効果的呼吸パターン(Ineffective Breathing Pattern)/不安(Anxiety)/ガス交換障害のリスク(Risk for Impaired Gas Exchange)。
計画・実施:まずSpO2を測定。異常があれば酸素投与を準備。低血圧が持続する場合は医師に報告し、静脈路確保を準備。患者に寄り添い、安心感を与えながらゆっくり呼吸をするように促す。
暗記のコツ: 「過換気=低CO2=アルカローシス=テタニー(しびれ)」と覚えましょう。しかし、必ず
SpO2と血圧を確認!低血圧を見逃すと大事故につながります。
国試頻出ポイント: 過換気症候群は、ストレス状況下の若年女性に多く、症状とバイタルサイン(特に血圧)の評価、そして初期対応としてSpO2測定と呼吸法指導が頻出です。同時に、低血圧を伴う場合の鑑別診断(肺塞栓症、ショックなど)も問われます。
出題パターン注意!: 単純な「過換気症候群の症状はどれか」という知識問題から、「事例のように複数の患者がいる中で、どの患者に最初に対応すべきか」という
優先順位を判断させる応用問題に発展します。常に「最も生命の危険が高い患者」を優先する視点を持ちましょう。