核心解説
この問題は、
アルツハイマー型認知症 (Alzheimer's Disease, AD) の初期に出現する中核症状 (Core Symptom) を正しく理解しているかを問うています。
アルツハイマー型認知症では、記憶を司る海馬 (Hippocampus) から萎縮が始まるため、最初に顕著となるのが新しい情報を記憶にとどめる能力の低下、すなわち近時記憶障害 (Recent Memory Impairment) です。事例のAさんに見られる「受診日を間違える」「書道教室の日時を忘れる」といった行動は、まさにこの近時記憶障害を反映しています。認知症の診断には
MMSE (Mini-Mental State Examination) が広く用いられ、30点満点中、23点以下が認知症の疑いとされ、Aさんの18点は中等度の認知機能低下を示しています。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! Aさんに出現している症状は「少し前に決めた予定(受診日や書道教室の日時)を覚えていられない」という、典型的な
近時記憶障害です。これはアルツハイマー型認知症の最も初期かつ中核的な症状であり、病態として海馬の障害が密接に関連します。選択肢②の「近時記憶障害」が正解です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
⚠️ 以下の内容は、選択肢横のコメントではなく、この解説セクション内で行う詳細な分析です。
①番「脱抑制 (Disinhibition)」は、前頭側頭型認知症 (Frontotemporal Dementia) などで見られる、社会的な抑制が効かなくなる行動障害です。アルツハイマー型認知症の初期にはあまり見られません。
③番「実行機能障害 (Executive Dysfunction)」は、計画を立てたり、複数の作業を同時に行う能力の低下です。進行すると見られますが、事例の「日時を忘れる」というエピソードは記憶障害が主であり、実行機能障害が最優先の症状とは言えません。
④番「物盗られ妄想 (Delusion of Theft)」は、アルツハイマー型認知症の中期以降に見られることが多い周辺症状 (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, BPSD) の一つです。事例ではこの症状は報告されていません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
混同注意! 認知症の中核症状と周辺症状(BPSD)は明確に区別する必要があります。
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中核症状 (Core Symptoms): 脳の器質的障害に直接起因する症状。記憶障害、見当識障害、判断力低下、実行機能障害など。薬物治療の効果は限定的。
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周辺症状 (BPSD): 中核症状に環境や心理社会的要因が加わって出現する二次的な症状。徘徊、興奮、妄想、抑うつ、睡眠障害など。非薬物療法と環境調整が重要。
概念整理:
アルツハイマー型認知症 (Alzheimer's Disease) の病態は、
アミロイドβ (Amyloid-beta) の沈着とタウタンパク (Tau Protein) の過剰リン酸化による神経細胞の変性・脱落です。特に記憶に関わる海馬から萎縮が進行するため、初期症状として
近時記憶障害 (Recent Memory Impairment) が必発です。
一目で比較!:
| 認知症の種類 | 初期の特徴的症状 | 好発部位 |
|---|
| アルツハイマー型 (AD) | 近時記憶障害 (Recent Memory) | 海馬 (Hippocampus) |
| レビー小体型 (DLB) | 幻視 (Visual Hallucination) パーキンソニズム | 大脳皮質・脳幹 |
| 前頭側頭型 (FTD) | 脱抑制 行動障害 人格変化 | 前頭葉・側頭葉 |
| 脳血管性 (VaD) | 実行機能障害 まだら認知症 歩行障害 | 大脳白質・大脳基底核 |
看護過程ポイント:
アセスメント: MMSEスコア(30点満点)の解釈と、HDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール)も併用。生活歴(元教員であること)や社会活動(書道教室、体操教室)の継続状況を把握。
看護診断: 「慢性混乱 (Chronic Confusion)」「記憶障害 (Impaired Memory)」
介入: 予定を伝える際は、大きめのカレンダーやホワイトボードに書き出す。服薬管理支援。本人のペースを尊重し、自尊心を傷つけない対応が重要。
暗記のコツ: 「
アルツハイマー = 海馬 = 近時記憶」と三点セットで覚えましょう!海馬は新しい情報を長期記憶に移す「玄関」のような場所です。この玄関が壊れると、新しい人が入れない=新しい出来事を覚えられない、となります。
国試頻出ポイント: 認知症の種類と特徴的症状の組み合わせは国試の定番です。特に「アルツハイマー型認知症の初期症状は?」と聞かれたら、まず「近時記憶障害」を選ぶこと。事例問題で「受診日を忘れる」「約束を覚えていない」というキーワードを見たら、即座にこの症状を疑いましょう。
出題パターン注意!: 「Aさん(アルツハイマー型認知症)が『財布を盗られた』と興奮している。この症状は何か?」という発展問題では、中核症状ではなく周辺症状(BPSD)の「物盗られ妄想」を選びます。問題文をよく読んで、症状の出現パターンを見極める練習をしておきましょう。