核心解説
この問題は、
慢性閉塞性肺疾患 (Chronic Obstructive Pulmonary Disease, COPD) 患者の退院後の生活動作における呼吸負荷(呼吸筋への負担)を評価するものです。COPDでは、肺の過膨張により横隔膜が平低化し、換気効率が低下しています。この状態では、
呼吸補助筋(胸鎖乳突筋、斜角筋、肋間筋など) が安静時でも活動し、呼吸仕事量が増大しています。日常生活動作 (Activities of Daily Living, ADL) の中で、特に上肢の挙上や体幹の固定を必要とする動作は、呼吸補助筋を呼吸以外の目的に使用させるため、呼吸負荷が著しく増大します。逆に、呼吸補助筋を自由に使える姿勢や動作は、負荷が小さくなります。
正解の根拠 (Answer Rationale):
正解は
④ 買い物した荷物をカートで運ぶ です。
最重要! カートを使用して荷物を運ぶ動作では、患者さんはカートに体重を預け、上肢を固定せずに体幹を支えることができます。この姿勢は、
呼吸補助筋が呼吸運動に専念できる ため、呼吸負荷が最も小さくなります。カートは歩行の補助具としても機能し、活動のエネルギー消費を抑える効果もあります。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
混同注意!
①
食べる直前に調理する: 調理動作は、立位で両上肢を使い、鍋やフライパンの重量を支えるため、呼吸補助筋が固定されやすく、呼吸負荷が大きくなります。特に「食べる直前」に慌てて調理すると、動作が速くなり、さらに負荷が増大します。
②
部屋全体に掃除機をかける: 掃除機を押したり引いたりする動作は、体幹と上肢の筋力を要し、呼吸補助筋が体幹の安定化に使われるため、呼吸負荷が大きくなります。部屋全体を連続して行うことは、持久力も要求されます。
③
頭より高い位置に洗濯物を干す:
特に注意! 上肢を頭上に挙上する動作は、胸郭の拡張を制限し、呼吸補助筋を上肢の固定に使用するため、呼吸負荷が最も大きい動作の一つです。COPD患者のADL指導では「頭上への動作は避ける」ことが基本です。
関連概念の整理 (Related Concepts):
COPD患者のADL指導では、
省エネルギー法 (Energy Conservation Techniques) が重要です。動作のペース配分(ゆっくり行う、休憩を挟む)、座位での作業の推奨、上肢挙上の回避、滑りの良い素材の衣服の選択などが含まれます。また、
パルスオキシメータ (Pulse Oximeter) を用いた動作時の酸素飽和度 (SpO2) モニタリングも指導に活用されます。
概念整理: COPD患者の呼吸負荷は、
呼吸補助筋の使用可否 と
胸郭の拡張制限 の2点で評価します。上肢挙上、体幹の固定、前かがみ姿勢は負荷を増大。カートの使用、座位、壁や机への体重預けは負荷を軽減します。
一目で比較!:
| 動作 | 呼吸負荷 | 理由 |
| カートで荷物運搬 | 低い(正解) | 上肢自由、体重を預けられる |
| 調理(立位) | 高い | 上肢固定、体幹安定化 |
| 掃除機かけ | 高い | 体幹・上肢筋力使用 |
| 頭上に物を干す | 最も高い | 胸郭拡張制限、呼吸補助筋固定 |
看護過程ポイント:
-
アセスメント (Assessment): 動作時の呼吸数、SpO2低下の有無、Borg scale(呼吸困難感スケール)の評価、使用している呼吸補助筋の観察。
-
看護診断 (Nursing Diagnosis): 「非効果的気道クリアランス」「活動耐性低下」「セルフケア不足(入浴、更衣、調理)」などが優先されます。
-
計画・実施 (Plan & Intervention): 退院指導では、省エネルギー法を具体的な動作で指導。家族(今回は妻)への教育も重要です。
暗記のコツ: 「COPDのADLで負荷が大きい=腕を上げる(頭上動作)・息を止めて力を入れる(掃除機、重い物を持つ)。負荷が小さい=腕を下ろして何かに寄りかかれる(カート、机)。」とイメージしましょう。
国試頻出ポイント: COPD患者のADL指導は頻出事項です。特に「省エネルギー法」「呼吸補助筋」「酸素療法中の活動」との組み合わせで出題されます。事例問題で、具体的な動作の優先順位を問う形式が典型です。
出題パターン注意!: 単なる知識問題として「頭上の動作は負荷が大きい」を覚えるだけでなく、「Aさんは退職した。家事に専念する。」という情報から、退院後のADLを具体的にイメージし、看護師がどのように指導すべきかを問う、応用力が試される問題です。