核心解説
この問題は、
大腿骨頸部骨折 (Femoral Neck Fracture) に対する
人工股関節置換術 (Total Hip Arthroplasty, THA) 後の、特にリスクの高い合併症である
深部静脈血栓症 (Deep Vein Thrombosis, DVT) のアセスメントを問うています。患者背景として、
肥満 (BMI 33) と長期の
運動不足 (在宅勤務でほぼ外出なし) があり、これらは静脈還流の低下と血液凝固能の亢進を引き起こし、DVTのリスクを著しく高めます。術後の安静による下肢不動もリスクをさらに増大させるため、DVTの早期発見が極めて重要です。
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! ③番の
Homans徴候 (Homans' Sign) は、足関節を他動的に背屈させた際に下腿腓腹部に疼痛が生じる徴候であり、深部静脈血栓症 (DVT) の身体的診察所見の一つです。肥満+下肢手術+術後安静という高リスク患者において、この徴候の有無を観察することは、DVTの早期発見・早期対応のために最も優先すべき看護観察の一つです。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①
混同注意! Courvoisier徴候 (Courvoisier's Sign) は、無痛性の胆嚢腫大を認めるもので、膵頭部癌などの胆汁うっ滞性疾患でみられます。人工股関節置換術とは無関係です。
②
混同注意! Blumberg徴候 (Blumberg's Sign) は、腹部の圧迫後、急に手を離したときに疼痛が増強する「反跳痛 (Rebound Tenderness)」であり、急性腹膜炎の徴候です。整形外科手術とは関連しません。
④
混同注意! Romberg徴候 (Romberg's Sign) は、閉眼時に直立保持が困難になる徴候で、脊髄後索障害や感覚性失調を評価するものです。術後のDVT評価とは直接関係しません。
関連概念の整理 (Related Concepts):
DVTの予防には、
弾性ストッキング (Elastic Compression Stockings) や
間欠的空気圧迫装置 (Intermittent Pneumatic Compression, IPC) の装着、早期離床・足関節の底背屈運動の励行が重要です。また、Homans徴候はDVTの感度が必ずしも高くないため(陰性でもDVTを否定できない)、片側性の下肢の腫脹・発赤・熱感・表在静脈の怒張などの他の所見も併せて観察する必要があります。
概念整理:
深部静脈血栓症 (DVT) のリスク因子と身体的所見
Virchowの三徴(血流うっ滞、血管内皮障害、血液凝固能亢進)に基づき、本症例では肥満・長期臥床(血流うっ滞)と下肢手術(血管内皮障害)が重なっています。身体所見としては、Homans徴候の他に、下腿周径の左右差、圧痛、浮腫、発赤、発熱(局所の熱感)を観察します。最も重篤な合併症は
肺血栓塞栓症 (Pulmonary Thromboembolism, PTE) であり、突然の呼吸困難や胸痛、ショック症状に注意が必要です。
一目で比較!:
| 徴候名 | 評価内容 | 関連病態 |
|---|
| Homans徴候 | 足関節背屈時の下腿腓腹部痛 | 深部静脈血栓症 (DVT) |
| Courvoisier徴候 | 無痛性胆嚢腫大 | 膵頭部癌、胆道閉塞 |
| Blumberg徴候 | 腹部反跳痛 | 急性腹膜炎 |
| Romberg徴候 | 閉眼時の立位保持困難 | 脊髄後索障害、感覚性失調 |
看護過程ポイント:
アセスメント: 術後は少なくとも1日2回、両下肢の視診・触診(腫脹、発赤、熱感、圧痛)とHomans徴候を確認します。下腿周径を測定し、左右差を記録します。
看護診断: 「
術後不動症候群 (Postoperative Immobility Syndrome) に関連した
DVTのリスク状態 (Risk for Ineffective Peripheral Tissue Perfusion)」。
計画・実施: 弾性ストッキング装着、IPC装着、足関節運動の指導と励行、早期離床の促進、十分な水分摂取(脱水予防)。
評価: Homans徴候陰性、下肢周径に左右差なし、疼痛・発赤なし、呼吸状態良好(PTEの兆候なし)。
暗記のコツ: 「
ホーマンズ(Homans)は、足(Foot)を背屈(Dorsiflexion)してふくらはぎ(Calf)の痛み(Pain)をチェック → DVTだ!」 と覚えましょう。各徴候の名前と「どこをどう評価するか」をイメージでリンクさせると記憶に定着しやすいです。
国試頻出ポイント: DVTのリスク因子(肥満、下肢手術、悪性腫瘍、長期臥床、妊娠、経口避妊薬など)と、予防策(弾性ストッキング、IPC、早期離床、抗凝固薬)は頻出です。また、
肺血栓塞栓症 (PTE) の症状(突然の呼吸困難、胸痛、咳血、ショック)と緊急対応(酸素投与、体位管理、迅速な医師報告)もセットで押さえておきましょう。
出題パターン注意!: この問題のように、特定の患者背景(肥満、長期臥床)と手術(下肢の大手術)から「最も注意すべき合併症」とその「観察方法」を組み合わせた出題が典型的です。事例問題に発展すると、「術後2日目、患者が突然呼吸困難を訴えた。まず何をするか」という状況判断問題に繋がります。