核心解説
この問題は、
心周期 (Cardiac Cycle) の中でも特に「
等容性収縮期 (Isovolumetric Contraction)」の生理学的特徴を問うています。心周期は、心臓の1回の拍動における収縮(Systole)と拡張(Diastole)の一連の流れを指します。等容性収縮期は、心室が収縮を開始した直後、すべての弁(房室弁と動脈弁)が閉じており、心室容積が変化しない(等容性)まま内圧のみが急上昇する極めて重要な時期です。このメカニズムを理解することが、心臓のポンプ機能を正しく把握する鍵となります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は④番「左心室の内圧は大動脈圧よりも低い」です。
等容性収縮期では、
左心室 (Left Ventricle) が収縮を始め、内圧が急上昇します。しかし、この時点ではまだ内圧が
大動脈 (Aorta) の圧力(拡張期血圧)を超えていないため、
大動脈弁 (Aortic Valve) は閉じたままです。大動脈弁が開くのは、左心室圧が大動脈圧を超えた時点(駆出期の開始)です。
最重要! この「圧較差 (Pressure Gradient)」が弁の開閉を決定するという原理は、心周期全体を理解する基本です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
①番:
混同注意! 「僧帽弁は開いている」は誤りです。等容性収縮期では、心室圧が心房圧を上回るため、
僧帽弁 (Mitral Valve) は確実に閉じています。これにより血液の心房への逆流を防ぎます。僧帽弁が開いているのは、拡張期の充満期です。
②番:「大動脈弁は開いている」は誤りです。上記の通り、左心室圧が大動脈圧より低いため、大動脈弁は閉じています。大動脈弁が開くのは次の駆出期です。
③番:「左心室の容積は最小である」は誤りです。左心室の容積が最小になるのは、駆出期の終わり(収縮期末期)であり、等容性収縮期の開始時点では、まだ拡張期末期の血液が充満した状態です。等容性収縮期を通じて容積は変化しません(一定)。
関連概念の整理 (Related Concepts)
等容性収縮期と対になる重要な概念が「
等容性弛緩期 (Isovolumetric Relaxation)」です。これは拡張期の初期に、すべての弁が閉じて心室容積が変わらず内圧のみが低下する時期です。両者を比較することで、心周期のダイナミクスがより明確になります。また、心臓の弁の開閉タイミングを時系列で整理することは、心音(I音、II音)の発生メカニズムの理解にも直結します。
概念整理: 等容性収縮期は、心周期の中で「
収縮開始 → 弁の同時閉鎖 → 内圧上昇のみ → 駆出開始」という流れの鍵となるフェーズです。この期間は、心室が「圧力をためる」ための準備期間と言えます。
一目で比較!:
| 時期 | 房室弁 (僧帽弁/三尖弁) | 動脈弁 (大動脈弁/肺動脈弁) | 心室容積 | 心室圧 |
|---|
| 等容性収縮期 | 閉 | 閉 | 不変 (最大) | 急上昇 (大動脈圧未満) |
| 駆出期 | 閉 | 開 | 減少 | 大動脈圧以上 (ピーク) |
| 等容性弛緩期 | 閉 | 閉 | 不変 (最小) | 急低下 |
| 充満期 | 開 | 閉 | 増加 | 低い (心房圧に近い) |
看護過程ポイント:
アセスメント: 心音の聴取では、I音(房室弁閉鎖音)は収縮期の開始、II音(動脈弁閉鎖音)は拡張期の開始を示します。等容性収縮期の異常は、心雑音(特に収縮期雑音)の発生原因となります。例えば、
僧帽弁閉鎖不全症 (Mitral Regurgitation) では、等容性収縮期にもかかわらず血液が左心房へ逆流するため、全収縮期雑音が聴取されます。
暗記のコツ: 「
等容性 = 同じ容積(Isovolumetric = Same Volume)」と覚えましょう。収縮期と拡張期の両方に「等容性」の時期があることを意識すると、弁の状態が「すべて閉じている」と連想しやすくなります。
国試頻出ポイント: 心周期の各期における「弁の状態」「心室容積の変化」「心室圧と動脈圧の関係」は、毎年必ずと言っていいほど出題されます。特に、等容性収縮期と等容性弛緩期の比較、および各期に対応する心音の発生タイミングは、正答率を左右する重要項目です。
出題パターン注意!: 近年は単純な知識問題に加え、「心不全患者の血行動態の変化」や「心筋梗塞後のポンプ機能低下」といった臨床状況と関連付けた出題が増えています。例えば、「左心室の等容性収縮期の圧上昇速度(dP/dt)が低下している場合、何が疑われるか?」といった応用問題にも対応できるよう、病態生理と結びつけて学習しましょう。