核心解説
この問題は、
高齢者の脱水 (Dehydration in the Elderly) の病態生理を理解しているかを問うています。加齢に伴う身体組成の変化と、生体の水分調節機能の変調を正確に把握することが鍵です。高齢者は複数の要因が重なり、脱水症 (Dehydration) を発症しやすく、その予防と早期発見は看護において非常に重要です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は
② 筋肉量の減少 と
③ 細胞内液量の減少 の2つです。
体内の水分(体液)の約60%は細胞内液 (Intracellular Fluid, ICF) であり、その大部分は筋肉細胞内に貯蔵されています。
最重要! 加齢により筋肉量(骨格筋量)が減少(サルコペニア)すると、細胞内液の総量(水分貯蔵能)が低下します。その結果、わずかな水分喪失(発熱、下痢、利尿薬の使用など)でも容易に脱水状態に陥ります。つまり、「筋肉量の減少」は「細胞内液量の減少」に直結するため、両方を正しく選ぶ必要があります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意!
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① 骨量の減少: 骨量減少(骨粗鬆症 (Osteoporosis))はカルシウム代謝や骨折リスクに関与しますが、水分バランスには直接影響しません。よって誤りです。
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④ 渇中枢の感受性の亢進: 高齢者では、むしろ渇中枢の感受性が
低下 します。そのため、体内が脱水状態になっても口渇 (Thirst) を感じにくくなり、自発的な水分摂取が不足しがちです。これは脱水の重要な危険因子です。「亢進」は反対の現象なので誤りです。
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⑤ 抗利尿ホルモンの反応性の亢進: 高齢者では、抗利尿ホルモン (ADH: Antidiuretic Hormone) の分泌や、腎臓におけるADHへの反応性も
低下 することが知られています。その結果、尿濃縮能が低下し、体内に水分を保持する力が弱まります。これも脱水リスクを高める要因です。「亢進」は反対の現象なので誤りです。
関連概念の整理 (Related Concepts)
高齢者の脱水リスク要因として、上記以外にも以下の点を併せて覚えておきましょう。
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腎機能の低下: 腎血流量や糸球体濾過量 (GFR) の減少により、水分や電解質の調節能力が低下します。
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摂取量の減少: 食欲不振や嚥下機能の低下、認知機能の低下による水分摂取の忘れなどが複合的に影響します。
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疾患・薬剤の影響: 下痢・嘔吐を伴う感染症、利尿薬の使用、発熱などが脱水を誘発します。
概念整理:
高齢者の脱水リスク因子
- 生理的変化: 筋肉量減少 → 細胞内液量減少、渇中枢感受性低下、ADH反応性低下、腎機能低下
- 環境・行動的変化: 水分摂取機会の減少、認知機能低下、身体機能低下
- 疾患・治療関連: 発熱、下痢、利尿薬、下剤の使用
一目で比較!:
若年者 vs 高齢者の水分調節
| 項目 | 若年者 | 高齢者 |
| 体液総量 (対体重比) | 約60% | 約50-55% (減少) |
| 筋肉量 | 多い | 少ない (サルコペニア) |
| 渇中枢感受性 | 正常 | 低下 |
| 腎濃縮能 | 正常 | 低下 (ADH反応性低下) |
| 脱水リスク | 低い | 高い |
看護過程ポイント
アセスメント: 高齢者の脱水症状は非典型的なことが多く、口渇の訴えが少ない。皮膚のツルゴール低下、口腔内乾燥、起立性低血圧 (Orthostatic Hypotension)、意識レベルの変化(せん妄 (Delirium) など)、尿量減少に注意する。
看護診断: 「
体液量不足リスク (Risk for Deficient Fluid Volume)」
計画・実施: 定時・決め量での水分摂取を促す(1日1500ml程度を目安、心不全など禁忌がない場合)。経口摂取が困難な場合は、必要に応じて皮下補液や静脈内輸液 (Intravenous Fluid Therapy) を検討する。
評価: 体重変動、バイタルサイン (Vital Signs)、尿量、血清Na値・BUN値、皮膚・粘膜の状態を継続的に評価する。
暗記のコツ
「高齢者の脱水リスク = 貯める場所がない(筋肉減少)+ 気づかない(渇中枢低下)+ 溜めておけない(腎機能低下)」と覚えましょう。この3つのキーワードで、選択肢を整理できます。
国試頻出ポイント
高齢者の脱水は、単独の知識問題としてだけでなく、
肺炎 や
誤嚥性肺炎 (Aspiration Pneumonia)、
感染症、
薬剤性低血圧 などの様々な疾患と関連付けた事例問題で頻出です。脱水が
せん妄 (Delirium) の誘因となることも非常に重要です。
出題パターン注意!
「高齢者の術後管理」や「熱中症予防の指導」といった文脈で、脱水の予防策や観察項目を問う形でも出題されます。単なるリスク因子の暗記にとどまらず、臨床判断に活かせる知識として整理しておきましょう。