核心解説
この問題は、看護師国家試験で頻出の
臨死期 (Terminal Stage / Dying Phase)における身体的変化を問うています。死にゆく過程は、生命維持に不可欠な諸機能が中枢から末梢へと不可逆的に停止していくプロセスです。病態生理を理解せずに丸暗記しようとすると、各臓器の変化を混同しやすくなります。
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! ③番の「不規則な呼吸が出現する」が正解です。死が近づくと、呼吸中枢を含む
脳幹機能 (Brainstem Function)が低下します。これにより、呼吸の深さとリズムが不規則になる
チェーンストークス呼吸 (Cheyne-Stokes Respiration)や、あごの筋肉を使って空気を飲み込むような
下顎呼吸 (Mandibular Respiration / Gasping Respiration)が出現します。これらは臨死期の特徴的な所見です。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①番「尿量が増加する」:
混同注意! 臨死期には、
循環血液量の減少 (Decreased Circulating Blood Volume)と腎血流の著しい低下により、腎臓の尿生成機能が廃絶し、
乏尿 (Oliguria) または無尿 (Anuria)となります。
②番「全身の筋肉が硬直する」: これは死後に出現する
死後硬直 (Rigor Mortis)の説明です。臨死期にはむしろ全身の筋緊張が低下し、筋肉は弛緩します。
④番「頸動脈が触れなくなった後、橈骨動脈が触れなくなる」: 臨死期の血圧低下に伴い、末梢の動脈から順に触知困難になります。そのため、まず
橈骨動脈 (Radial Artery)が触れなくなり、次に中枢側の
頸動脈 (Carotid Artery)が触れなくなるのが正しい経過です。
関連概念の整理 (Related Concepts): 臨死期の身体的变化は「死のサイン」を時系列で理解することが重要です。
死戦期呼吸 (Agonal Respiration)も不規則呼吸の一種であり、心停止直後に見られることがあります。また、死後変化(死斑、死後硬直、屍蝋化など)と臨死期の生体の変化は明確に区別しましょう。
概念整理: 臨死期の核心は
脳幹機能の低下 (Brainstem Depression)です。これが呼吸中枢、循環中枢、体温調節中枢に影響を及ぼします。結果として、
不規則呼吸、
血圧低下・頻脈、
体温調節障害(発熱または低体温)が出現します。同時に、意識レベルも低下します。
一目で比較!:
| 状態 | 筋緊張 | 尿量 | 呼吸 | 脈拍触知順 |
| 臨死期 (Dying Phase) | 弛緩 (Flaccid) | 乏尿・無尿 | 不規則 (Cheyne-Stokes, Mandibular) | 橈骨→頸動脈の順に消失 |
| 死後 (After Death) | 硬直 (Rigor Mortis) | 産生なし | 停止 | 全く触れず |
看護過程ポイント:
アセスメント: 呼吸パターンの変化(深さ、リズム、頻度)、血圧の推移、末梢循環の状態(皮膚色、四肢の冷感)、尿量を観察します。
看護診断: 「死の過程に伴う非効果的呼吸パターン」や「死の過程に対する恐怖/不安」などが考えられます。
看護介入: 不規則な呼吸音は家族に不安を与えるため、「苦しそうに見えるかもしれませんが、自然な過程です」と丁寧に説明します。安楽な体位を保ち、口元や気道内の分泌物があれば吸引や口腔ケアを行います。
暗記のコツ: 「死のサインは中枢から末梢へ」と覚えましょう。脳(呼吸中枢)→不規則呼吸、心臓(循環中枢)→血圧低下、腎臓→乏尿、筋肉→弛緩。末梢から機能が停止するので、脈は遠い橈骨動脈から消失します。
国試頻出ポイント: 「臨死期の呼吸パターン」は毎年と言っていいほど出題される核心ポイントです。チェーンストークス呼吸と下顎呼吸の語句自体を問う問題や、写真・イラストで呼吸波形を選ばせる問題に備えましょう。
出題パターン注意!: 単純な知識問題から、「末期癌の患者の呼吸が不規則になり始めた。看護師の対応として適切なのはどれか?」という状況設定問題(事例問題)に発展します。この場合も、「自然な経過であることを説明し、家族の不安を軽減する」という看護の基本姿勢が問われます。