一般・状況設定問題
問題
A君とBさんはともに入院して治療が始まった。発災から10日後、A君、Bさんの治療経過は良好で合併症もなくバイタルサインは安定していた。Bさんから看護師に「Aは好きなお菓子を食べず、私のそばからずっと離れず甘えてきます。昨夜はおねしょをしていたようで、びっくりしました。どうしたらよいのかわかりません」と相談があった。看護師の対応として適切なのはどれか。
午前9時頃、震度5強の地震が発生した。二次救急医療機関の救命救急病棟に勤務する看護師は、自身の身の安全を確保し、揺れが収まると病院の災害発生時のマニュアルに沿って行動を開始した。病棟には人工呼吸器を使用中の患者が1人、輸液ポンプを使用中の患者が3人、酸素療法中の患者3人が入院している。
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1
「お母さんがしっかりしましょう」
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2
「A君が1人になる時間をつくりましょう」
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3
「A君に水分を控えるよう声をかけましょう」
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4
「A君が甘えてきたら抱きしめてあげましょう」
✓ 正解
解説
大災害という強いトラウマ体験後、小児は不安から一時的に甘えや夜尿などの退行現象(赤ちゃん返り)を示すことがあります。これを叱ったり無理に自立させようとせず、スキンシップを増やし安心感を与えることが最も適切です。
詳細解説
核心解説
この問題は、災害時における小児の心理反応 (Psychological Reactions in Children) と、それに対する適切な看護対応を問うています。特に、強いストレス体験後に子どもが示す 退行現象 (Regression) を理解することが鍵です。
核心概念の分析 (Key Concept): 地震のような大災害は、子どもにとって大きなトラウマ体験となります。特に幼児期から学童期前期の子どもは、言葉で不安や恐怖を表現するのが難しく、行動でサインを出します。問題文のA君に見られる「甘え」「好きなお菓子を食べない」「夜尿(おねしょ)」は、全て 最重要! 退行現象 (Regression) の典型的な症状です。これは、心の安全を確保するために、より幼い発達段階に戻ることで不安から自分を守ろうとする無意識の防衛機制です。
正解の根拠 (Answer Rationale): このような状況で最も優先すべき看護介入は、子どもに 安心感 (Sense of Security) と 情緒的安定 (Emotional Stability) を提供することです。④「A君が甘えてきたら抱きしめてあげましょう」は、スキンシップ(身体接触)を通じて「自分は守られている」「ここは安全な場所だ」という感覚を子どもに伝える、最も適切な対応です。これは 愛着理論 (Attachment Theory) に基づいた介入であり、子どもの不安を軽減し、心理的回復を促進します。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
①「お母さんがしっかりしましょう」: 混同注意! 母親を叱咤激励することは、母親の不安を増強させ、結果的に子どもへの悪影響を及ぼす可能性があります。看護師は母親の不安にも寄り添いながら、子どもへの対応方法を具体的に指導する立場です。母親を責めるような発言は不適切です。
②「A君が1人になる時間をつくりましょう」: 混同注意! 退行現象を示す子どもは、分離不安 (Separation Anxiety) が強く、親から離れることを極度に恐れます。1人の時間を作ることは逆効果であり、不安を悪化させます。むしろ、常に親のそばにいられる環境を整えることが重要です。
③「A君に水分を控えるよう声をかけましょう」: 夜尿は腎機能や水分摂取量の問題ではなく、心理的な退行現象が原因です。水分制限は夜尿の根本的な解決にならず、子どもにさらなるストレス(喉の渇き、制限されることへの不快感)を与えるため不適切です。
関連概念の整理 (Related Concepts): 小児のストレス反応には、退行現象の他に 分離不安 (Separation Anxiety)、フラッシュバック (Flashback)、悪夢 (Nightmares) などがあります。また、被災した子どもの心理的ケアでは、遊びを通じた表現の促進(プレイセラピー)や、規則正しい生活リズムの再構築も重要です。看護師は子どもの発達段階を理解し、非言語的なサインにも注意を払う必要があります。
概念整理: 災害ストレスと小児の退行現象。
- 原因: 大災害という強いトラウマ体験。安全な環境が脅かされたことへの恐怖と不安。
- 症状: 甘え、夜尿、指しゃぶり、言葉遣いの幼児化、食欲不振、母親への過度な依存。
- 看護の原則: 叱らない、無理に自立させない。スキンシップを増やし、安心感を与える。母親(養育者)への心理的支援も同時に行う。
看護過程ポイント:
- アセスメント: 子どもの行動変化(退行症状)を「問題行動」ではなく「正常なストレス反応」として捉える。母親の不安レベルや対処能力も評価する。
- 看護診断: 不安 (Anxiety) / 非効果的対処 (Ineffective Coping) / 親役割葛藤 (Parental Role Conflict) などが考えられる。
- 計画・実施: 安心できる環境の提供(親と同室、ぬいぐるみなど愛着対象の確保)。母親への具体的な対応方法の教育(「抱きしめてあげてください」「無理に離れさせようとしないでください」)。
- 評価: 退行症状の頻度や程度が軽減しているか、子どもの表情が穏やかになっているか、母親の不安が軽減したか。
国試頻出ポイント: 災害時・入院時など、環境が変化した際の小児の反応(特に退行現象と分離不安)は頻出テーマです。「なぜその行動が起きるのか(病態心理)」と「どう対応すべきか(看護介入)」のセットで覚えましょう。誤答選択肢には、「叱る」「突き放す」「原因とは異なる身体的な対処(水分制限など)」が設定されやすいです。
臨床シナリオ
臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario): 実際の被災地の病院や避難所で、4歳の男児が母親にべったりとくっつき、離れようとしません。以前はできていた一人遊びもせず、夜泣きやおねしょが始まりました。母親は「甘やかしすぎでしょうか?ちゃんとしつけないといけないですよね」と疲れた様子で看護師に相談します。
看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment):
1. 観察: 子どもの行動(甘えの程度、夜尿の頻度、食事摂取状況、睡眠状態)と母親の表情・言動を観察します。
2. アセスメント: これらは 災害後の正常なストレス反応(退行現象) と判断します。決して「しつけの問題」や「親の育て方が悪い」と捉えてはいけません。
3. 報告(SBAR): 「S(状況):4歳男児の母親から、子どもが退行症状を示していると相談がありました。B(背景):発災から10日経過し、子どもは強い不安状態にあります。A(アセスメント):退行現象によるもので、安心感の提供が最優先と考えます。R(提案):母親への指導と、子どもへのスキンシップ強化を計画したいです。」
4. 介入: 母親に「これはどの子どもにも起こりうる自然な反応です。今はたくさん抱きしめてあげてください。無理に離そうとせず、甘えさせてあげて大丈夫ですよ」と具体的かつ肯定的な言葉かけをします。また、子どもの好きな遊び(ブロックや絵本など)を一緒にできる時間を作るよう提案します。
5. 評価: 数日後、子どもの表情が明るくなり、夜尿の頻度が減ったかどうかを確認します。母親の不安が軽減したかも重要な評価指標です。
患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions):
- 最重要! 母親が「厳しくしつけよう」と子どもを叱ったり、無理に1人で寝かせようとしていないか確認する。これにより子どものトラウマが悪化するリスクがある。
- 母親自身も被災者であることを忘れず、母親の心身のケアも並行して行う。母親が疲弊している場合は、一時的に看護師やボランティアが子どもを預かるなどの支援も検討する。
- 退行現象が長期化する場合や、フラッシュバック(悪夢などで突然泣き叫ぶ)、解離症状が見られる場合は、小児精神科医や臨床心理士へのコンサルテーションを検討する。
先輩看護師の一言: 「災害時、子どもは私たちが思っている以上に敏感に周りの変化を感じ取っています。『甘え』や『おねしょ』は、子どもが『助けて!怖いよ!』と全身でSOSを出しているサインです。そんな時こそ、たくさん抱きしめて『大丈夫だよ』と伝えてあげてください。それが子どもにとって最高の治療薬になります。母親にも『お母さんのせいじゃないですよ』と伝え、一緒に子どもを支える姿勢が大切ですよ!」
重要概念
- 退行現象 — 強いストレス体験後、子どもが心理的な安全を確保するために、より幼い発達段階の行動(夜尿、指しゃぶり、甘えなど)に戻る防衛機制。
- 分離不安 — 愛着対象(主に母親)から離れることに対して過度の不安や恐怖を感じる状態。災害後や入院時に小児に頻繁に見られる。
- トラウマ — 個人の対処能力を超える出来事(災害、事故、暴力など)によって生じる心理的・身体的な傷。
- 心理的応急処置 (Psychological First Aid, PFA) — 災害直後などに、被災者に対して心理的な安定を提供するための支援技法。安全確保、安心感の提供、自己効力感の回復などを目的とする。
- スキンシップ (Skin-ship / Physical Contact) — 身体的接触(抱きしめる、手をつなぐ、頭をなでるなど)を通じて、愛情や安心感を伝えるコミュニケーション手段。特に幼い子どもへの情緒的支援に有効。
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