核心解説
この問題は、
認知症高齢者 (Elderly with Dementia)、特に
アルツハイマー型認知症 (Alzheimer’s Disease, AD)の患者が、新環境への適応不全から示す
夕暮れ症候群 (Sundown Syndrome)への対応を問うています。Aさんは、見当識障害により「夕方=家に帰って夕食を作らなければ」という過去の習慣や役割が強くよみがえり、不安と焦燥から施設内を歩き回っています。看護の基本は、患者の感情をまず受容し、安全を確保しながら気持ちを落ち着かせることです。行動を否定したり、強い口調で制止することは、かえって興奮や混乱を悪化させるため禁忌です。
1. **
正解の根拠 (Answer Rationale)**: ②「椅子に座ってお話ししませんか」が適切です。
最重要! この対応は、まず患者を安全な場所に誘導し(転倒・徘徊リスクの回避)、その上で「話を聞く」という形で患者の不安や訴えを受容する態度を示しています。椅子に座ることで身体的な落ち着きを促し、会話を通して気をそらす(リダイレクション, Redirection)ことで、帰宅願望から注意を転換させる効果が期待できます。Aさんの「家に帰りたい」という気持ちを一旦否定せず、「そうですね、帰りたいですよね」と共感しつつ、別の活動へ誘導するのが、認知症ケアの基本原則です。
2. **
誤答の分析 (Distractor Analysis)**:
- ①「他の入所者と話をしましょう」:
混同注意! 患者が強い不安や興奮状態にある時に、社会的交流を促すのは時期尚早です。まずは個別に落ち着くのを支援する必要があります。強制的な交流はストレスを増強させます。
- ③「入所中なので家には帰れません」:
禁忌対応! これは患者の現実認識(見当識障害)を無理に正そうとする対応であり、最も避けるべきです。患者は自分の認識(家に帰る)が正しいと強く信じているため、否定されると激しい混乱や怒り、暴力につながるリスクがあります。
- ④「歩くのは危ないのでやめましょう」:
禁忌対応! 行動を強い口調で制止することも、患者の興奮を高めます。危険回避は重要ですが、「歩かないで」と否定する前に、安全な場所に誘導し、注意をそらすことが優先です。転倒リスクがあるからこそ、座ってもらう②の対応が最善です。
概念整理:
夕暮れ症候群 (Sundown Syndrome) と認知症のBPSD認知症に伴う行動・心理症状 (Behavioral and Psychological Symptoms of Dementia, BPSD) の一つ。夕方から夜間にかけて、見当識障害や不安が増強し、徘徊、興奮、大声などの症状が出現する。原因は、疲労、照明の変化(薄暗さ)、体内時計(サーカディアンリズム)の乱れなどとされる。対応の基本は「受容」「気分転換」「安全確保」。
一目で比較!:
認知症患者への「否定」vs「受容」の対応
| 対応タイプ | 具体例 | 結果 |
|---|
| 否定・訂正 | 「家には帰れません」「間違っています」 | 患者の不安・興奮・攻撃性の増強。患者-看護師間の信頼関係の崩壊。 |
| 受容・共感 | 「そうですね、帰りたい気持ち、わかりますよ」 | 患者の安心感。気持ちが落ち着き、気分転換や安全な場所への誘導が可能になる。 |
看護過程ポイント:
アセスメント (Assessment): BPSD出現の時間帯・誘因・内容を詳細に観察(何がきっかけで、どんな行動か、どうなると落ち着くか)。
看護診断 (Nursing Diagnosis): 「非効果的対処 (Ineffective Coping)」関連因子:認知機能低下による不安と見当識障害。「転倒リスク状態 (Risk for Falls)」関連因子:徘徊と環境不慣れ。
介入 (Intervention): 感情を受容した上でのリダイレクション。安全な環境調整(転倒防止のためのベッドを低くする、センサーマット設置)。
評価 (Evaluation): 患者が安全に過ごせ、興奮が鎮まったか。
暗記のコツ:
認知症ケアの3つの「か」「否定しない」「戦わない」「受容から関わる」。患者の言動を現実に合わせようとするのではなく、患者の感情の世界に合わせて対応することを覚えましょう。
国試頻出ポイント: 認知症のBPSDへの対応は毎年頻出。特に「夕暮れ症候群」「帰宅願望」「介護拒否」への対応が、状況設定問題(事例問題)でよく出題されます。選択肢に「否定」「強制」「説得」が含まれていたら、まず疑ってかかりましょう。
出題パターン注意!: 事例問題では、「まず最初に行う看護」「最も適切な対応」「避けるべき対応」の3パターンで出題されます。本問のように「最も適切な対応」を選ぶ場合、患者の安全と尊厳の両方を守る選択肢を選びましょう。