一般・状況設定問題
問題
多発性骨転移がある終末期の大腸癌患者(53歳、女性)が、外科病棟から緩和ケア病棟に夫に付き添われ転棟してきた。転棟時の申し送りについて、緩和ケア病棟の看護師が外科病棟の看護師から収集する情報で最も優先すべきなのはどれか。
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1
疼痛コントロールの状況
✓ 正解
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2
自宅の居住環境
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3
大腸癌の術式
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4
夫の面会頻度
解説
多発性骨転移を伴う終末期がん患者は非常に強い身体的苦痛(がん疼痛)を抱えている可能性が高いため、安楽な生活を保障する緩和ケア病棟では「疼痛コントロールの状況」の把握が最優先課題となります。
詳細解説
核心解説
この問題は、終末期がん患者の転棟時における情報の優先順位を問うものです。患者は多発性骨転移 (Multiple Bone Metastases)を有する終末期の状態であり、緩和ケア病棟への転棟目的は、症状緩和とQuality of Life (QOL)の維持・向上です。特に骨転移による疼痛は非常に強く、患者の安楽を最優先する緩和ケアの現場では、最重要! 疼痛アセスメントと現在のコントロール状況を正確に引き継ぐことが、継続的なケアの基盤となります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
① 疼痛コントロールの状況が最も優先されます。
理由:
1. 身体的苦痛の最優先緩和:終末期がん患者において、特に骨転移による痛みは「がん疼痛 (Cancer Pain)」の中でも強度が高く、患者のQOLを著しく低下させます。緩和ケア病棟では、鎮痛薬の種類・投与量・投与経路、副作用の有無、鎮痛効果(Numerical Rating Scaleなど)を引き継ぎ、迅速に継続した疼痛管理を行う必要があります。
2. 患者の安楽と尊厳の保障:身体的苦痛をコントロールできないままでは、心理的・社会的・スピリチュアルなケア(全人的ケア)に移行できません。まずは痛みを取ることが、すべてのケアの出発点となります。
3. 看護の継続性:外科病棟で使用していた鎮痛薬(例:モルヒネ (Morphine) やオキシコドン (Oxycodone))の情報がないと、緩和ケア病棟到着後に薬剤の調整が遅れ、患者の苦痛が再燃するリスクがあります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
② 混同注意! 「自宅の居住環境」は、退院支援や在宅移行を考える場合に重要です。しかし、本ケースは終末期であり、緩和ケア病棟への転棟直後です。まずは病棟内でのケアを確立することが優先であり、居住環境の情報は転棟時より後に、ケアチームが徐々に収集すればよい二次的な情報です。
③ 「大腸癌の術式」は、病態理解や創部ケアの参考にはなりますが、現在は終末期であり、根治的な治療は終了しています。転棟時の申し送りで最優先すべき情報ではありません。術式よりも、現在の症状や使用中の薬剤が優先されます。
④ 「夫の面会頻度」は、家族支援の観点から重要な情報ですが、患者の身体的苦痛のコントロールが最優先される状況では、後回しにできる情報です。
関連概念の整理 (Related Concepts)
- 緩和ケア (Palliative Care):世界保健機関 (WHO) の定義では、生命を脅かす疾患による問題に直面する患者とその家族のQOLを向上させるアプローチです。疼痛コントロールはその中核をなします。
- SBAR(状況・背景・アセスメント・推奨):転棟時の情報伝達にはSBARフレームワークが有効です。特に「アセスメント (Assessment)」として、痛みの強度や鎮痛効果を数値化して伝えることが推奨されます。
- WHOラダー (WHO Analgesic Ladder):がん疼痛治療の基本原則。非オピオイド(NSAIDs)→弱オピオイド(コデイン (Codeine))→強オピオイド(モルヒネ (Morphine))へと段階的に鎮痛薬を増強します。
概念整理: 終末期がん患者における転棟時の申し送り優先順位は、身体的苦痛の緩和(特に疼痛コントロール)が最優先。次いで呼吸困難・嘔気などの症状コントロール、心理的ケア、家族支援へと続く。
看護過程ポイント:
- アセスメント:転棟時に患者の疼痛の有無・強度・部位・性状・増悪因子・緩和因子をNRSやフェイススケールで評価。鎮痛薬の種類・投与量・投与経路・最終投与時刻を確認する。
- 看護診断 (Nursing Diagnosis):例:急性疼痛 (Acute Pain)、慢性疼痛 (Chronic Pain)(状態に応じて)、転倒リスク状態 (Risk for Falls)(鎮痛薬による眠気やふらつき)、非効果的健康維持 (Ineffective Health Maintenance)(家族支援)
- 計画・実施:医師へ疼痛状態を報告し、鎮痛薬の調整指示を受ける。レスキュードーズ(頓用薬)の使用基準を確認。患者の安楽な体位調整(例:骨転移部位への荷重を避ける)、温罨法・マッサージなどの非薬物療法の併用。
- 評価:鎮痛薬投与後30~60分で疼痛スケールを再評価。副作用(便秘、嘔気、呼吸抑制)の有無を観察。
国試頻出ポイント: 緩和ケア・終末期看護の問題では、常に「患者の苦痛緩和(特に疼痛)」が最優先行動として問われます。事例問題で「終末期」「転棟」「情報収集」「優先」のキーワードを見たら、必ず疼痛コントロールを疑う習慣をつけましょう。
暗記のコツ: 「終末期の情報収集は『痛み』が最優先!」と覚えましょう。「痛みが取れて初めて、心のケアや家族ケア、退院支援の話ができる」という因果関係をイメージすると忘れません。
臨床シナリオ
臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
外科病棟から緩和ケア病棟へ転棟してきた53歳女性。大腸癌多発骨転移。夫が付き添い。転棟時の申し送りで、外科病棟看護師は「痛みはモルヒネ持続皮下注でNRS 3/10程度にコントロールできています。レスキューはモルヒネ皮下注2mg、1日2~3回使用しています。」と報告。あなた(緩和ケア病棟看護師)は、患者の表情がやや苦痛そうであることに気づきました。
看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment)
1. 観察:患者の顔色、表情、発汗、呼吸パターン、体動時の痛みの表情を確認。バイタルサイン(特に呼吸数と血圧)を測定。転棟時の移動による痛みの増強がないかアセスメント。
2. アセスメント:申し送り通りNRS 3/10であれば軽度~中等度の痛みだが、患者の表情からはそれ以上に苦痛を感じている可能性が高い(痛みの表現は主観的であり、表情や行動も重要な評価項目)。
3. 報告(SBAR):医師へ「転棟後の初回アセスメントで、患者はNRS 5/10の疼痛を訴え、顔をしかめています。前病棟からはNRS 3/10でコントロールできていると報告がありましたが、転棟時の移動で痛みが増強した可能性があります。モルヒネレスキューの投与を提案します。」
4. 介入:医師の指示のもと、レスキュードーズ(モルヒネ皮下注2mg)を投与。同時に、患者が楽な姿勢(セミファーラー位、クッションで骨転移部位の荷重を軽減)を調整。声かけやタッチングで心理的安心を提供。
5. 評価:投与30分後に再度NRS評価。NRSが2/10に低下、表情が緩和したことを確認。記録に残す。
患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions)
- 危険所見! オピオイド鎮痛薬の副作用である呼吸抑制(呼吸数 < 8回/分、SpO2 < 90%)や過度の鎮静(眠気で覚醒困難)に注意。特に初回投与時や増量時は頻回の観察が必要。
- 標準ケア 便秘はほぼ必発の副作用。下剤の予防的投与や排便状況の確認を忘れずに。
- 転棟直後は環境変化によるせん妄や転倒リスクも高い。ベッド柵の使用、コールの位置確認、転倒予防策を徹底する。
先輩看護師の一言
「終末期の患者さんにとって、『痛み』はすべてのケアの土台です。痛みが取れなければ、その先の『大切な人と過ごす時間』や『自分の人生を振り返る時間』をしっかり持つことができません。情報収集で最も大切なのは、患者さんの今の『痛みの状態』。その上で、前の病棟から引き継がれたデータを照らし合わせて、ケアをスタートさせましょう!」
重要概念
- 緩和ケア (Palliative Care) — 生命を脅かす疾患による問題に直面する患者とその家族のQOLを向上させるアプローチ。疼痛、呼吸困難、嘔気などの身体的症状の緩和に加え、心理的・社会的・スピリチュアルなケアを含む全人的ケア。
- がん疼痛 (Cancer Pain) — がん患者が経験する痛み。骨転移による痛みは特に強度が高く、神経因性疼痛の要素も含む。WHOラダーに基づく薬物療法が基本。
- WHOラダー (WHO Analgesic Ladder) — がん疼痛治療の3段階ラダー。第1段階:非オピオイド(NSAIDs)+ 補助薬。第2段階:弱オピオイド + 非オピオイド + 補助薬。第3段階:強オピオイド + 非オピオイド + 補助薬。
- レスキュードーズ (Rescue Dose) — 定時投与の鎮痛薬でコントロールできない突出痛(ブレイクスルーペイン)に対して、頓用で投与する速効性の鎮痛薬。モルヒネの即効性製剤が代表的。
- SBAR (Situation, Background, Assessment, Recommendation) — 医療現場で用いられる情報伝達のフレームワーク。状況→背景→アセスメント→推奨の順で報告することで、情報の欠落や誤解を防ぎ、患者安全を向上させる。
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