核心解説
この問題は、
大腿骨頸部骨折 (Femoral Neck Fracture) に対する緊急手術を受ける高齢患者への手術前オリエンテーションにおいて、患者の個別性(特に身体的特徴)を考慮した適切な説明内容を問うています。単に手術の一般的な説明をするのではなく、Aさんの
軽度の円背 (Mild Kyphosis) という身体的特徴に着目し、術後の安楽と合併症予防に直結する説明を選択する必要があります。
最重要! 看護師は画一的な説明ではなく、患者個々の状態に応じたオーダーメイドの情報提供が求められます。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は「手術後は背中にクッションを当てます」です。
Aさんは
軽度の円背 (Mild Kyphosis) があります。これは胸椎が後弯した姿勢であり、背中が丸まっている状態です。術後は患部の安静と脱臼予防のために
仰臥位 (Supine Position) での安静が指示されることが一般的です。しかし、円背のある患者が通常のベッド上で仰臥位になると、背部(特に肩甲骨周辺や腰部)がベッド面に十分に接触せず、腰部が浮いてしまい、腰部に大きな負担がかかります。これが
腰痛 (Low Back Pain) や筋緊張、疲労、ひいては
褥瘡 (Pressure Ulcer) のリスクを高めます。そこで、背部にクッションやタオルなどを当てて
空隙を埋め、体圧を分散 させることで、安楽な体位を確保し、合併症を予防することができます。この説明は、患者の個別的な身体特性に基づいた、まさに看護の専門性を発揮する内容です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 各誤答の選択肢がなぜ不適切なのかを、病態と術後管理の観点から分析します。
①「手術はすぐに終わります」:
大腿骨頸部骨折手術(例:人工骨頭置換術)は、一般的に1~2時間程度を要する手術です。「すぐに終わる」という表現は、患者に過度な期待や不安の軽減を与える可能性があります。実際の手術時間は、術式や患者の状態、合併症の有無によって変動するため、具体的な時間を伝えるか、あるいは「手術室でしっかりと治療を受けていただきます」といったように、不確かな情報で安心させない説明が適切です。
②「手術後はすぐに水を飲めます」:
術後は麻酔(特に全身麻酔または脊椎麻酔)の影響で、嚥下機能 (Swallowing Function) が低下しているため、誤嚥性肺炎 (Aspiration Pneumonia) を防ぐために、飲水は医師の指示に基づいて開始されます。通常は、麻酔が完全に覚醒し、意識レベルが清明で、嘔気・嘔吐がないことを確認した上で、少量の水から開始します(経口摂取開始のプロトコルに従う)。「すぐに飲める」と伝えるのは誤りです。
③「手術後は両足とも動かしてはいけません」: 手術直後は、
患側(手術した側)の股関節に脱臼予防のための制限(例:90度以上の屈曲禁止、内転・内旋禁止)がありますが、健側の足は自由に動かせることが多いです。また、
術後の 深部静脈血栓症 (Deep Vein Thrombosis, DVT) 予防のために、健側も含めて足関節の運動や下肢の挙上など、積極的な運動が推奨されます。「両足とも動かしてはいけない」と伝えると、患者は過度に安静を取ってしまい、DVTや筋力低下、関節拘縮のリスクを高める可能性があります。患側の可動域制限と、それを除いた積極的な運動を組み合わせて説明する必要があります。
概念整理: この問題の核心は「患者の個別性を考慮した術前オリエンテーション」です。特に
高齢者 の手術においては、
既存の身体機能(円背、筋力、ADL)や生活背景(1人暮らし)をアセスメントし、術後の安静やリハビリテーションに影響を与える可能性のある因子を特定して説明に活かすことが重要です。
一目で比較!:
| 身体的特徴 | 術後安静時の問題点 | 看護介入 |
|---|
| 円背 (Kyphosis) | 仰臥位で腰部が浮き、腰痛や褥瘡リスク増大 | 背部にクッションやタオルを当てて空隙を補填、安楽な体位を調整する |
| 正常な脊柱 | 仰臥位で全身の体重が分散されやすい | 褥瘡予防のための体位変換が主体となる |
看護過程ポイント:
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アセスメント (Assessment): Aさんの「軽度の円背」は術後の体位管理において重要なアセスメント項目です。術前から姿勢や可動域、既存の腰痛の有無を評価しておきましょう。
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看護診断 (Nursing Diagnosis): 「術後の安楽障害 (Risk for Impaired Comfort)」や「褥瘡リスク状態 (Risk for Pressure Ulcer)」が優先されます。
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計画・実施 (Planning/Implementation): 術後の体位調整として、背部へのクッション挿入、膝下への枕挿入による軽度屈曲位の保持、定期的な体位変換(ただし患側の禁忌肢位を守る)などを計画します。
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評価 (Evaluation): 患者が「楽だ」「痛みが軽減した」と感じているか、背部に発赤や褥瘡がないかを確認します。
暗記のコツ: 「円背=背中が丸い=仰向けで背中がベッドに合わない=クッションで隙間を埋める」とセットで覚えましょう。「丸いものには丸いクッション」というイメージです。
国試頻出ポイント: 高齢者の大腿骨頚部骨折は頻出です。術前オリエンテーションでは、
脱臼予防のための禁忌肢位(股関節90度以上屈曲禁止、内転・内旋禁止)の説明が最も重要ですが、この問題のように患者の個別性(円背)を踏まえた説明も出題され得ます。単に「脱臼予防」だけを覚えるのではなく、患者を全人的に捉える視点が問われています。
出題パターン注意!: 事例問題では、患者の情報(年齢、既往歴、ADL、身体的特徴など)が多数提示されます。その中から、
問題解決に直接関連する情報(今回で言えば「軽度の円背」)を抽出することが求められます。「1人暮らし」という情報は術後の退院支援に関わりますが、この設問では直接的な回答根拠にはなりません。情報を取捨選択する力が重要です。