核心解説
この問題は、
人工股関節全置換術 (Total Hip Arthroplasty, THA) の術後における
脱臼予防の生活指導を問うています。特に、後方アプローチで手術を受けた患者さんの場合、術後の関節不安定性を理解することが鍵となります。股関節の脱臼は、術後早期に発生しやすい重大な合併症であり、看護師は患者さんに具体的な動作の制限を指導する必要があります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept):
人工股関節全置換術 (THA) では、損傷した関節を人工のインプラントに置き換えます。後方アプローチでは、関節包の後方を切開するため、術後は特に
股関節の屈曲 (Flexion)・内転 (Adduction)・内旋 (Internal Rotation) の3つの複合動作が脱臼の危険肢位となります。この3つの動作を組み合わせた日常生活動作(例:足を組む、前かがみで靴下を履く、患側に身体をひねる)を避けることが最も重要です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 選択肢②「右側に身体をねじらないでください」は、患側(右側)への体幹の回旋を制限する指導です。この動作は股関節に
内旋 (Internal Rotation) の力を加え、脱臼の危険肢位に該当するため、避けるべき正しい指導です。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
- ①「靴はしゃがんで履いてください」:
混同注意! しゃがむ動作は股関節を大きく
屈曲させます。これは脱臼の危険肢位であり、禁忌です。正しくは、長い靴べらを使用するか、椅子に座って股関節を90度以上曲げずに靴を履くよう指導します。
- ③「椅子に座るときは足を組んでください」: 足を組む動作は、股関節の
屈曲と内転を同時に行うため、最も危険な動作の一つです。絶対に避けるべきです。正しくは、両足を床にしっかりつけて座ります。
- ④「浴室の椅子は膝の高さより低いものを使ってください」: 低い椅子(例:高さ30cm以下)を使用すると、立ち座りの際に股関節を深く屈曲させることになります。これは脱臼のリスクを高めます。正しくは、膝の高さよりも高い椅子(高さ40~45cm程度)を使用し、股関節の屈曲を90度以内に保つよう指導します。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts):
混同注意! 後方アプローチと前方アプローチでは、脱臼の危険肢位が異なります。前方アプローチでは「伸展・外転・外旋」が危険肢位となります。手術アプローチを確認してから指導することが重要です。また、脱臼予防のための装具(例:外転枕)の使用方法や、ベッド上での体位変換(仰臥位で両脚の間に枕を挟み、内転を防ぐ)も併せて指導します。
概念整理: 人工股関節全置換術(後方アプローチ)後の脱臼予防の核心は「
屈曲・内転・内旋」の3動作を避けることです。この3動作を「膝より高い椅子に座る」「足を組まない」「しゃがまない」「患側に体をひねらない」という具体的な生活指導に落とし込みます。
一目で比較!:
| 手術アプローチ | 脱臼危険肢位 | 避けるべき動作例 |
|---|
| 後方アプローチ | 屈曲・内転・内旋 | 足を組む、しゃがむ、低い椅子、患側に体をひねる |
| 前方アプローチ | 伸展・外転・外旋 | 仰向けで脚を大きく開く、アキレス腱を伸ばすストレッチ |
看護過程ポイント:
-
アセスメント: 手術記録でアプローチ(後方/前方)を確認。術後のレントゲンでインプラントの位置を確認。患者の理解度や生活環境(和式トイレ、低いソファなど)をアセスメント。
-
看護診断: 【転倒・転落リスク状態】、【術後合併症(脱臼)リスク状態】、【知識不足(術後の生活制限)】
-
計画・実施: ベッド上では外転枕の装着を徹底。離床時は、理学療法士と連携し、安全な移乗動作を指導。自宅退院を見据え、生活環境の調整(手すりの設置、高めの椅子の準備など)を指導。
-
評価: 患者が指導内容を実践できているか、脱臼の徴候(股関節の痛み、脚長差、脚の外旋位など)がないかを観察。
暗記のコツ: 「後方は後ろ(伸展)を切るので、反対の前屈み(屈曲)が危ない」と覚えましょう。「屈曲・内転・内旋」の3つを「クツナイ(靴内)」と語呂合わせで覚えるのも効果的です。靴を履く動作は危険、というイメージで。
国試頻出ポイント: THA術後の脱臼予防指導は、ほぼ毎年何らかの形で出題される頻出テーマです。特に「脱臼の危険肢位」「禁忌動作」「安全な動作(例:寝返り、立ち上がり、車の乗り降り)」の3点が問われます。状況設定問題では、「患者が〇〇している場面を見かけました。看護師の対応として適切なのはどれか」という形式で出題されることも多いです。
出題パターン注意!: 「後方アプローチ」「前方アプローチ」の違いを直接問う問題だけでなく、「人工股関節置換術後の患者さんが、ベッド上で足を組んでしまった」という事例問題で、看護師の適切な声かけを選ばせる問題にも注意が必要です。