核心解説
この問題は、
脂質異常症 (Dyslipidemia) の食事療法における具体的な指導内容の正誤を問うています。脂質異常症は、
LDLコレステロール (LDL-C)、
HDLコレステロール (HDL-C)、
トリグリセリド (Triglyceride, TG) のいずれか、または複数の異常をきたす病態です。治療の基本は生活習慣の改善、特に食事療法であり、異常の種類によって重点的に指導するポイントが異なります。病態に応じた栄養指導を理解することが鍵です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
③の「高トリグリセリド血症では、アルコールを制限する」が正解です。
最重要! アルコール(エタノール)は肝臓で代謝される過程で、
VLDL(超低比重リポ蛋白)の合成を促進し、血中のトリグリセリド(中性脂肪)を上昇させます。そのため、
高トリグリセリド血症 (Hypertriglyceridemia) の患者には、飲酒制限(場合によっては禁酒)が必須の指導項目です。これは食事療法の基本原則であり、ガイドラインでも推奨されています。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
①
混同注意! 「不飽和脂肪酸の摂りすぎに注意する」は誤りです。不飽和脂肪酸(特にn-3系多価不飽和脂肪酸や一価不飽和脂肪酸)は、血中LDLコレステロールやトリグリセリドを低下させる働きがあり、積極的な摂取が推奨されます。注意が必要なのは、飽和脂肪酸やトランス脂肪酸の過剰摂取です。
② 「コレステロール摂取量は1日600mg未満とする」は誤りです。現在の日本人の食事摂取基準(2020年版)では、健常人・脂質異常症患者ともに、
コレステロールの摂取目標量は設定されていません。これは、食事性コレステロールが血中コレステロール値に与える影響が個人差や他の栄養素に比べて小さいと判断されたためです。重要なのは飽和脂肪酸の摂取制限です。
④ 「高LDLコレステロール血症では、トランス脂肪酸の摂取を促す」は誤りです。
トランス脂肪酸 (Trans Fatty Acid) は、LDLコレステロールを上昇させ、HDLコレステロールを低下させる悪影響があるため、摂取を控えるよう指導します。マーガリン、ショートニング、加工食品などに多く含まれます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
脂質異常症の食事療法では、以下の3つの異常型を区別して指導します。
| 脂質異常のタイプ | 優先される食事指導 |
| 高LDL-C血症 | 飽和脂肪酸の制限、コレステロールを含む食品(卵黄、内臓など)の過剰摂取注意、 不飽和脂肪酸・食物繊維の積極的摂取 |
| 高TG血症 | 総エネルギー摂取量の適正化、炭水化物(糖質)・果糖の過剰摂取制限、 アルコール制限、n-3系脂肪酸(青魚)の摂取促進 |
| 低HDL-C血症 | 肥満改善、適度な運動、禁煙、n-3系脂肪酸・適度なアルコール(TG高値でない場合) |
混同注意! 高TG血症におけるアルコール制限は「絶対的な禁止」ではなく「制限」ですが、重症例や治療抵抗性の場合は禁酒が推奨されることもあります。
概念整理: 脂質異常症の食事療法は「何を控え、何を積極的に摂るか」を病態別に覚える。高LDL-Cは飽和脂肪酸制限、高TGはアルコール・糖質制限。
一目で比較!: 飽和脂肪酸(動物性脂肪・バター・ラード)→制限。不飽和脂肪酸(植物油・魚油)→推奨。トランス脂肪酸(マーガリン・加工油脂)→制限。
看護過程ポイント:
アセスメント:患者の食習慣(外食頻度、飲酒量、間食内容)、BMI、脂質プロファイル(LDL, HDL, TG)を評価。
看護診断:「非効果的健康維持(Noncompliance)」や「栄養バランスの異常:過剰摂取」のリスク状態。
計画:患者の嗜好や生活スタイルに合わせた、具体的で実行可能な食事目標(例:「週3回の飲酒を週1回に減らす」「揚げ物を週2回までにする」)を設定。
実施:フードモデルや食品交換表を用いた視覚的な指導、栄養士との連携。
評価:3ヶ月後の脂質プロファイルの変化、体重変化、自己管理行動の継続状況。
暗記のコツ: 「高TG(高いトリグリセリド)=高いアルコール(制限)」と語呂合わせで覚える。または「TGは肝臓で作られる。アルコールは肝臓で代謝される。なので、アルコールを飲むとTGが上がる」という因果関係で覚えると忘れにくい。
国試頻出ポイント: 脂質異常症の食事指導は毎年1問程度出題される定番テーマ。特に「飽和脂肪酸vs不飽和脂肪酸」「コレステロール摂取目標量の改定(目標量なし)」「高TG血症とアルコール制限」は三大頻出事項。
出題パターン注意!: 単純知識問題として「正しい組合せはどれか」だけでなく、事例問題「LDL160mg/dL、TG350mg/dLの患者への指導で最も優先すべきは?」のように、複数の異常値が混在した事例で優先順位を問う形でも頻出。TGが高い場合はアルコール制限が最優先になるケースが多い。