看護学のコア解説
この問題は、
トリアージ (Triage)における
優先順位決定の原則を問う、救急看護の基本中の基本です。複数の患者が同時に来院した際、看護師は誰を最初に診るべきかを瞬時に判断する能力が求められます。その判断の根幹となるのが、
ABCアプローチ (Airway, Breathing, Circulation)に基づく生命の危機の度合いの評価です。
重要概念の分析 (Key Concept)
トリアージの目的は、限られた医療資源を、最も緊急性の高い患者に最速で提供することです。そのための世界的に用いられる基準が、
緊急度・重症度分類 (Emergency Severity Index: ESI など)です。これに基づけば、
呼吸 (Breathing) と循環 (Circulation) の障害は、最も優先度が高い「緊急 (Emergent)」または「瀕死 (Resuscitation)」に分類されます。選択肢②の患者は、「呼吸困難」「チアノーゼ」「補助呼吸筋の使用」という3つの徴候から、
呼吸不全 (Respiratory failure)に陥る危険が極めて高く、数分以内の介入が必要な状態です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
ここがポイント! 選択肢②が最優先となる理由は、
気道 (Airway) と呼吸 (Breathing) の障害は、循環 (Circulation) の障害に先行して、より迅速に死に至るからです。チアノーゼは組織への酸素供給が不十分であることを示し、補助呼吸筋の使用は呼吸努力が極限に達している証拠です。この患者は酸素投与や気管挿管などの緊急処置がなければ、短時間で心肺停止に至る可能性があります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 他の選択肢も緊急ではありますが、優先度の観点から比較します。
① 45歳、激しい腹痛・嘔吐(6時間持続):
腹部緊急事態 (Abdominal emergency)(例:虫垂炎穿孔、腸閉塞)の可能性があり緊急性は高いですが、直ちに気道・呼吸が脅かされる状態ではありません。疼痛管理と迅速な診断・治療が必要な「緊急」カテゴリーです。
③ 65歳、胸痛(2時間前から)、発汗・不安:
急性冠症候群 (Acute Coronary Syndrome: ACS)、特に
急性心筋梗塞 (Acute Myocardial Infarction: AMI)が強く疑われます。循環障害の代表であり、
呼吸障害に次ぐ高優先度です。実際の現場では、②の患者に次いで、または同時並行で対応が必要なケースです。本問題では「最優先」を選ぶため、②が正解となります。
④ 35歳、前腕深部裂傷、活動性出血だがコントロール済み:出血はコントロールされているため、生命に直ちに危険が及ぶ状態ではありません。創部の洗浄・縫合が必要ですが、優先度は最も低い「待機的 (Non-urgent)」または「準緊急 (Less urgent)」に分類されます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
トリアージでは、患者の訴えだけでなく、
バイタルサイン (Vital signs)と
一次調査 (Primary survey)の所見が決定的です。一次調査は「ABCDE」で覚えます:A (気道), B (呼吸), C (循環), D (意識レベル), E (全身露出と体温管理)。この順番で異常を探し、最初に見つかった重大な異常に対処することが基本です。
概念のまとめ
・トリアージの第一原則:
生命の危機が最も切迫している患者から対応する。
・優先順位判断の基本:
ABC (気道→呼吸→循環)の順。
・高優先度の徴候:気道閉塞、重度の呼吸困難・チアノーゼ、ショック症状(意識低下、蒼白、冷感、脈拍微弱)、大量出血。
・中優先度の徴候:激痛(心筋梗塞、腹部緊急事態など)、コントロールされていない出血、意識変容。
・低優先度の徴候:軽微な外傷、慢性疾患の軽度増悪、発熱など。
一目で比較!
| 患者 | 主症状 | 緊急度の根拠 | 優先度 |
|---|
| ② 呼吸困難・チアノーゼ | 気道・呼吸の直接的な脅威 | 数分以内の対応が必要 | 最優先 (Resuscitation) |
| ③ 胸痛・発汗 | 循環(心臓)の重大な脅威 | 速やかな対応が必要(「ゴールデンタイム」内) | 高優先 (Emergent) |
| ① 激しい腹痛 | 内臓疾患による疼痛・合併症リスク | 迅速な診断と治療が必要 | 中~高優先 (Urgent) |
| ④ コントロールされた裂傷 | 生命に直ちに危険なし | 待機的処置で可 | 低優先 (Non-urgent) |
解剖生理と薬理のポイント
・
チアノーゼ (Cyanosis):血液中の
還元ヘモグロビン (Deoxyhemoglobin)が5g/dL以上になると出現。中心性(口唇・舌)は動脈血酸素飽和度低下、末梢性(手足)は末梢循環不全を示す。
・
補助呼吸筋 (Accessory muscles of respiration):胸鎖乳突筋、斜角筋、大胸筋など。安静時呼吸でこれらが使われるのは、呼吸仕事量が著しく増大している証拠。
・急性冠症候群の「ゴールデンタイム」:心筋虚血が始まってから再灌流療法(カテーテル治療など)を行うまでの時間は短いほど心筋壊死を軽減できる。
暗記のコツとゴロ合わせ
優先順位の基本は「
気道(A)・呼吸(B)・循環(C)・意識(D)」の順!「
あ(A)ぶ(B)な(C)い(D)?」と覚えると、評価の順番を忘れません。トリアージで迷ったら、この順番で患者を見てください。
国試頻出ポイント
トリアージと優先順位決定は、
毎年のように出題される超重要テーマです。特に「複数患者が同時に来院した場合、誰を最初に見るか?」という形式が典型的です。呼吸障害(気道閉塞、喘息重積発作、緊張性気胸など)と循環障害(急性心筋梗塞、大動脈解離、ショックなど)のどちらがより切迫しているかの比較が出題されます。原則として、
「気道・呼吸」の異常は「循環」の異常より優先されます。
国試出題パターンの変化に注意!
近年は、単純な症状比較だけでなく、
バイタルサインの数値(例:SpO2
88%、収縮期血圧
70 mmHg)や、
小児・
高齢者の非典型的な症状を組み合わせた問題も増えています。また、「最初に行う看護ケア」を問う問題では、トリアージの「評価」の次に行う「酸素投与」「モニター接続」などの具体的な介入が選択肢に並びます。