治療を受ける高齢者への看護
問題
82歳の女性。閉塞性動脈硬化症で左第5趾に潰瘍があり、近医で保存的治療を受けていたが、疼痛が増強し当院を受診した。主治医より「左第5趾切断術」の説明があり、患者は手術に同意した。術前の看護師の対応として最も適切なのはどれか。
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1
手術後は車椅子生活になることを説明する。
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2
退院後のフットケアの指導を開始する。
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3
術後の創部痛に対する鎮痛薬の使用方法を説明する。
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4
手術のリスクについて医師から再度説明を受けるよう促す。
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5
手術に向けての患者の不安や思いを傾聴する。
✓ 正解
解説
手術前の患者は、手術そのものや今後の生活に対する不安を抱えている。看護師はまず患者の不安や思いを傾聴し、患者の気持ちを受け止めることが重要である。術後の生活やケアの説明は、患者の不安が軽減された段階で行う方が効果的である。
詳細解説
核心解説
この問題は、閉塞性動脈硬化症 (Arteriosclerosis Obliterans, ASO) による足趾切断術を受ける高齢患者の 術前看護 (Preoperative Nursing) における 看護師の対応の優先順位 を問うています。特に、手術を受ける患者の心理的準備状態をアセスメントし、まず何を行うべきかを理解することが鍵となります。
最重要! 術前看護の第一歩は、患者の 不安や思いを傾聴し、信頼関係を築くこと です。患者は手術への恐怖、今後の生活への不安、身体イメージの変化など、様々な感情を抱えています。これらの気持ちを受け止めずに、いきなり情報提供や指導を行うと、患者は十分に理解できず、かえって不安を強めてしまう可能性があります。
1. 核心概念の分析 (Key Concept): この問題の核心は「術前看護における看護過程の優先順位」です。まずは心理社会的アセスメントとしての 傾聴 (Active Listening) が最優先され、その後に具体的な情報提供や指導へと移行します。これは看護過程の「アセスメント」段階の一部であり、患者の準備状態を評価することなしに、次の「計画」「実施」に進むことはできません。
2. 正解の根拠 (Answer Rationale): ⑤「手術に向けての患者の不安や思いを傾聴する」が最も適切です。患者は82歳と高齢で、切断術という大きな侵襲を伴う手術を受けます。疼痛が増強して受診したという背景もあり、心理的なストレスは極めて高い状態です。看護師はまず、患者が何を感じ、何を心配しているのかを 傾聴によって引き出し、共感的に受け止める ことが、その後の効果的な看護支援の基盤となります。
3. 誤答の分析 (Distractor Analysis):
- ①「手術後は車椅子生活になることを説明する」: 混同注意! 術後の生活についての説明は重要ですが、それは患者の不安が受け止められ、患者が情報を求めている段階で行うべきです。術前にいきなり「車椅子生活」という否定的なイメージを与える言葉を伝えると、患者の不安を増大させる可能性が高いです。まずは傾聴が優先されます。
- ②「退院後のフットケアの指導を開始する」: フットケア指導は重要な看護介入ですが、術前のこのタイミングでは優先度が低いです。術後の創部管理やリハビリテーションの情報の方が緊急性が高く、退院後の指導は回復期に持ち越すことも可能です。まずは患者の心理状態のアセスメントが優先です。
- ③「術後の創部痛に対する鎮痛薬の使用方法を説明する」: 鎮痛薬の説明は、術後の具体的なケア計画の一部です。これも患者の不安が軽減され、情報を理解できる心理状態にあることが前提です。術前の不安が強い段階では、説明が効果的に伝わらない可能性があります。
- ④「手術のリスクについて医師から再度説明を受けるよう促す」: 患者が手術に同意しているため、医師からの説明は既に実施されています。患者が疑問を感じているのであれば、看護師が医師に確認することはありますが、「再度説明を受けるよう促す」ことは、患者に「あなたは説明を理解できていない」と暗に伝えることになり、患者の自尊心を傷つけ、不安を強める可能性があります。まずは患者の不安や疑問を傾聴し、必要であれば医師とのコミュニケーションを調整するのが看護師の役割です。
4. 関連概念の整理 (Related Concepts): 術前看護における「心理的準備」は、単なる情報提供ではなく、患者の コーピング (Coping) を支援することです。また、閉塞性動脈硬化症 (ASO) では、下肢切断後に 幻肢痛 (Phantom Limb Pain) が生じる可能性もあり、術前からその知識を共有しておくことも、患者の不安軽減につながります。しかし、これらも全て「まずは傾聴」が土台となります。
概念整理: 術前看護の優先順位
1. 心理的準備:傾聴・共感・信頼関係構築
2. 情報提供:手術・麻酔の内容、術後の経過(必要な情報を患者の準備状態に合わせて)
3. 身体準備:術前検査、食事制限、皮膚・清潔ケア
4. 環境調整:手術室環境の説明、家族への説明
この順序は固定ではなく、患者の状態に応じて看護師が判断する必要があります。
看護過程ポイント
- アセスメント: 患者の表情、発言、態度から不安の程度や内容を評価する。特に高齢者では、認知機能や聴力の低下がコミュニケーションに影響するため、観察を丁寧に行う。
- 看護診断: 典型的な看護診断として「不安 (Anxiety)」「知識不足 (Deficient Knowledge)」「術後回復遅延リスク (Risk for Delayed Surgical Recovery)」などが挙げられる。
- 計画・実施: 傾聴後、患者の不安に応じて、医師への情報伝達や、他の医療専門職(理学療法士、医療ソーシャルワーカーなど)との連携を計画する。
- 評価: 患者の表情が和らいだか、自ら質問をするようになったかなど、不安の軽減を確認する。
国試頻出ポイント
術前看護では「まず傾聴」が鉄則です。術後の生活や治療の説明は「患者が求めているか」「理解できる状態か」を確認してから行います。「説明する」「指導する」といった選択肢は一見正しそうに見えますが、タイミングや優先順位を間違えると不正解になるパターンが頻出です。事例問題では「患者が不安を訴えている」という状況が必ずと言っていいほど設定されます。
臨床シナリオ
臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario): あなたは外科病棟の看護師です。82歳の女性患者が、左第5趾切断術のため入院してきました。主治医から手術の説明は済んでおり、患者は同意書にサインをしています。しかし、患者はベッド上で落ち着かず、何度も看護師を呼び止めようとします。あなたが「どうされましたか?」と声をかけると、患者は「足を切るなんて…この年で…本当に大丈夫なんだろうか」と言いました。この状況で、あなたはどのような看護を提供すべきでしょうか?
看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment):
1. 観察・アセスメント: 患者の表情は暗く、声は小さく震えています。発言から、手術の成功や今後の生活に対する漠然とした不安が読み取れます。まずは、この不安を言語化し、受け止める必要があります。
2. 介入: 患者のそばに椅子を置き、目線を合わせてゆっくりと「足を切ることが、とても不安なんですね。どんなことが心配ですか?」と質問します。患者の話を遮らず、うなずきながら聞きます。「大丈夫ですよ」と安易に励ますのではなく、共感的に「そうでしたか。それは本当に心配ですよね」と気持ちを認めます。
3. 判断・報告: 患者の具体的な不安内容(術後の痛み、歩行の見通し、家族の負担など)をアセスメントし、必要に応じて医師や理学療法士、病棟の先輩看護師に相談します。
4. フォローアップ: 患者が少し落ち着いたら、「術後は痛みを和らげるお薬もありますし、リハビリの先生が歩く練習を一緒にしてくれますよ」と、具体的な支援内容を伝えます。
先輩看護師の一言
「患者さんは、『同意書にサインしたから』といって、本当に心の準備ができているわけではありません。術前の看護で最も大切なのは、患者さんの『声なき声』を聴くことです。国試でも『まず傾聴』は必ず出ますが、現場ではそれが患者さんのその後の回復意欲に大きく影響することを実感しています。『説明』や『指導』は、患者さんがこちらの話を聞ける状態になってからで十分ですよ!」
重要概念
- 閉塞性動脈硬化症 — 下肢の動脈が粥状硬化などで狭窄・閉塞し、血流障害を引き起こす疾患。間欠性跛行や安静時疼痛、潰瘍・壊疽を生じる。
- 術前看護 — 手術を受ける患者に対し、身体的・心理的・社会的に準備を整えるための看護活動。特に心理的準備としての傾聴と情報提供が重要。
- 傾聴 — 相手の話を注意深く、共感的に聞くコミュニケーション技法。患者の感情やニーズを理解し、信頼関係を構築するために不可欠。
- 切断術 — 四肢の一部を外科的に切除する手術。血流障害や外傷、悪性腫瘍などが適応となる。術後は幻肢痛や機能障害に対するリハビリテーションが必要。
- 心理的準備 — 手術や治療を受けるにあたり、患者が心理的な不安や恐怖に対処できるよう支援すること。情報提供や傾聴、感情の受容が含まれる。
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