核心解説
この問題は、
脱水症 (Dehydration) の分類とそれに対する適切な輸液療法 (Fluid Therapy) を問うています。特に、血清ナトリウム値 (Serum Na) の結果から脱水のタイプを判断し、看護介入として適切な輸液を選択する応用力が求められます。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 脱水症は、水分と電解質(特にナトリウム)の喪失バランスにより3つに分類されます。
・
高張性脱水 (Hypertonic Dehydration): 水分喪失 > ナトリウム喪失 → 血清Na > 145mEq/L。細胞内脱水が顕著。
・
等張性脱水 (Isotonic Dehydration): 水分とナトリウムが等しく喪失 → 血清Na 135~145mEq/L。細胞外液減少が主体。
・
低張性脱水 (Hypotonic Dehydration): ナトリウム喪失 > 水分喪失 → 血清Na < 135mEq/L。細胞外液が減少し、さらに細胞内へ水分が移動するため、循環血漿量減少が著しい。
本例では血清Naが
130mEq/L (低ナトリウム血症) であり、
低張性脱水 と判断します。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): 正解は④「低張性脱水 - 生理食塩液の静脈内投与」です。
低張性脱水では、細胞外液のナトリウム濃度が低下しているため、治療の第一選択はナトリウムを補充できる
生理食塩液 (Normal Saline / 0.9% NaCl) です。これにより循環血漿量が改善され、細胞内外の浸透圧バランスが是正されます。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
・①番:低張性脱水の分類は正しいが、
混同注意! 5%ブドウ糖液 は投与後、ブドウ糖が代謝されて自由水となるため、低張性脱水ではかえって低ナトリウム血症を増悪させる可能性があります。
・②番:
混同注意! 血清Naが130mEq/Lなので、等張性脱水ではなく低張性脱水です。Na値の基準範囲(135~145mEq/L)を正確に覚えておきましょう。
・③番:等張性脱水の分類が誤り。さらに、
蒸留水の静脈内投与は絶対禁忌 です。溶血 (Hemolysis) を引き起こし、生命の危険があります。
・⑤番:高張性脱水の分類が誤り。血清Naが低下しているため、高張性脱水ではありません。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts):
・脱水の評価には、血清Na値の他に、BUN/Cr比、尿量、尿比重、皮膚ツルゴール、口渇の有無なども重要です。本例ではBUN 28mg/dLと軽度上昇しており、脱水の存在を示唆しています。
・低張性脱水の原因としては、利尿薬の過剰使用、消化液喪失(嘔吐・下痢)、Addison病、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)などが挙げられます。
概念整理: 脱水の3分類と血清Na値の関係
・高張性脱水 (Na > 145): 治療は5%ブドウ糖液(自由水の補充)
・等張性脱水 (Na 135-145): 治療は生理食塩液(細胞外液の補充)
・低張性脱水 (Na < 135): 治療は生理食塩液(Naの補充)
一目で比較!:
| 脱水タイプ | 血清Na値 | 主な原因 | 第一選択輸液 |
|---|
| 高張性脱水 | >145mEq/L | 発熱・糖尿病性ケトアシドーシス・発汗 | 5%ブドウ糖液 |
| 等張性脱水 | 135-145mEq/L | 出血・嘔吐・下痢 | 生理食塩液 / 乳酸リンゲル液 |
| 低張性脱水 |
臨床シナリオ臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario): あなたは内科病棟で働く看護師です。79歳男性、糖尿病と高血圧で内服加療中。数日前から食欲が低下し、水分摂取量が減っていました。本日の採血結果でNa 130mEq/Lと低値を認めました。バイタルサインは血圧90/60mmHg、脈拍98回/分、体温36.8℃、SpO2 97%。皮膚ツルゴールは低下しており、口渇はありません。意識は清明ですが、少し倦怠感を訴えています。
看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment): 1. 最重要! まずはバイタルサインを再評価。血圧低下と頻脈は循環血漿量減少のサイン。医師に報告し、指示に基づき 生理食塩液 (Normal Saline) の投与を開始します。 2. 低張性脱水では細胞内への水分移動が起こるため、意識レベル変化や脳浮腫のリスクがあります。意識状態(JCS/GCS)の頻回な観察が必要です。 3. 経過中に 血清Naが急速に補正されると浸透圧性脱髄症候群 (Osmotic Demyelination Syndrome) を起こすリスクがあるため、Na値の補正速度は1日8~10mEq/L以内とし、頻回に電解質をモニタリングします。 4. 患者への説明:口渇感がないため水分摂取の必要性を理解してもらいにくいことがあります。「体の中の塩分と水分のバランスが崩れているので、点滴で調整しますね」と伝え、安心してもらいましょう。
患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions): ・高齢者は脱水を起こしやすく、症状も非典型的な場合があります。口渇がなくても脱水が進行している可能性を念頭に置きましょう。 ・心不全や腎不全の合併がある場合、輸液量に注意が必要です。肺水腫の兆候(呼吸困難、SpO2低下、頸静脈怒張)を観察します。
看護プロトコル: ・観察項目:バイタルサイン(15-30分毎)、意識レベル、尿量(1時間毎)、血清電解質(6-12時間毎)、体重(毎日)、浮腫・呼吸音の聴取。 ・報告基準(SBAR): S: 「低張性脱水の患者で、Naが130mEq/Lです」 B: 「79歳男性、糖尿病と高血圧で内服中、水分摂取不良」 A: 「現在のバイタルは血圧90/60、脈拍98、意識清明。生理食塩液の投与を開始しました」 R: 「Na値の補正速度と輸液量の再評価をお願いします」
先輩看護師の一言: 「国試で『脱水』と『輸液』の問題が出たら、まずは血清Na値を見るクセをつけましょう!たった1つの値で治療がガラリと変わります。そして現場では、高齢者の脱水は『気づきにくい』のが最大の落とし穴。『口渇がないから大丈夫』ではなく、バイタルサインや尿量、皮膚の状態を総合的に評価する力を磨いてくださいね!」
重要概念
- 低張性脱水 — ナトリウム喪失が水分喪失より多い脱水。血清Na < 135mEq/L。循環血漿量減少が著明で、ショックリスクが高い。
- 等張性脱水 — 水分とナトリウムが等しく喪失する脱水。血清Na 135-145mEq/L。細胞外液減少が主体。
- 高張性脱水 — 水分喪失がナトリウム喪失より多い脱水。血清Na > 145mEq/L。細胞内脱水が顕著で口渇が強い。
- 生理食塩液 — 0.9%塩化ナトリウム液。細胞外液補充液。低張性脱水と等張性脱水の第一選択輸液。
- 血清ナトリウム (Serum Na) — 血清中のナトリウム濃度。正常値 135-145mEq/L。脱水のタイプ分類に必須の指標。
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