核心解説
この問題は、
副腎 (Adrenal Gland) の構造と、各部位から分泌されるホルモンの作用を理解しているかを問う、基礎的な内分泌系の知識問題です。副腎は、外側の
副腎皮質 (Adrenal Cortex) と内側の
副腎髄質 (Adrenal Medulla) に分かれており、全く異なるホルモンを分泌します。この問題の鍵は、「心拍数増加」「血糖上昇」という
交感神経系のストレス応答 の症状から、副腎髄質ホルモンを特定できるかにあります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 副腎髄質は、交感神経節が変化した組織であり、
カテコールアミン (Catecholamines) である
アドレナリン (Epinephrine) と
ノルアドレナリン (Norepinephrine) を分泌します。これらは「闘争か逃走か (Fight or Flight)」の反応を引き起こし、心拍数・血圧上昇、気管支拡張、瞳孔散大、血糖上昇(グリコーゲン分解促進)などの作用があります。特に問題文にある心拍数増加と血糖上昇は、アドレナリンの主要な作用です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 正解は
アドレナリン (Adrenaline / Epinephrine) です。アドレナリンは副腎髄質から分泌される主要ホルモンであり、心臓のβ1受容体を刺激して心拍数を増加させ、肝臓や筋肉のβ2受容体を刺激してグリコーゲン分解を促進し血糖値を上昇させます。これらは問題文の「心拍数増加」「血糖上昇」に合致します。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis): 各選択肢がなぜ誤りかを、分泌部位と作用の違いから明確に区別しましょう。
- ①
混同注意! テストステロン (Testosterone) は男性ホルモンで、主に
精巣 (Testes) から分泌されます。二次性徴の発現や筋肉増強作用がありますが、急性のストレス反応には関与しません。
- ②
アルドステロン (Aldosterone) は副腎皮質の
球状帯 (Zona Glomerulosa) から分泌される鉱質コルチコイドです。主な作用は腎臓での
ナトリウムと水分の再吸収促進 とカリウム排泄で、血圧と電解質バランスの長期調節に関わります。心拍数や血糖への即時的影響はありません。
- ③
コルチゾール (Cortisol) は副腎皮質の
束状帯 (Zona Fasciculata) から分泌される糖質コルチコイドです。血糖上昇作用(糖新生促進)や抗炎症作用がありますが、ストレス応答としては比較的ゆっくりとした作用であり、心拍数を直接増加させる作用はアドレナリンほど強力ではありません。
- ⑤
エストロゲン (Estrogen) は女性ホルモンで、主に
卵巣 (Ovary) から分泌されます。二次性徴や月経周期の調節に関わり、問題文の急性作用とは無関係です。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): 副腎皮質と髄質のホルモンは、よく混同されるため、以下のように分泌部位と作用を整理して覚えましょう。
| 区分 | 分泌部位 | ホルモン名 | 主な作用 |
|---|
| 副腎髄質 | 髄質(交感神経由来) | アドレナリン、ノルアドレナリン | 心拍数増加、血圧上昇、血糖上昇、気管支拡張(急性ストレス反応) |
| 副腎皮質 | 球状帯 | アルドステロン | ナトリウム・水分貯留、血圧維持(電解質・体液調節) |
| 副腎皮質 | 束状帯 | コルチゾール | 血糖上昇、抗炎症、免疫抑制(代謝・ストレス緩徐応答) |
| 副腎皮質 | 網状帯 | 副腎アンドロゲン | 弱い男性ホルモン作用(思春期の体毛発育など) |
概念整理: 副腎は皮質(球状帯・束状帯・網状帯)と髄質に分かれ、分泌されるホルモンと作用が全く異なる。問題文に「心拍数増加」「血糖上昇」などの急性ストレス反応のキーワードがあれば、即座に
副腎髄質 と
アドレナリン を想起すること。
一目で比較!:
-
混同注意! 「血糖を上げるホルモン」は、アドレナリンとコルチゾールの両方にある。違いは作用発現速度。アドレナリンは即時的(グリコーゲン分解)、コルチゾールは持続的(糖新生)。
-
混同注意! 「血圧を上げるホルモン」は、アドレナリン(心拍出量増加)とアルドステロン(循環血液量増加)の両方にある。作用機序と時間経過を区別すること。
看護過程ポイント: 副腎髄質の異常(
褐色細胞腫 (Pheochromocytoma))では、アドレナリン/ノルアドレナリンの過剰分泌により、発作性の高血圧、動悸、頭痛、発汗などの症状が現れる。アセスメントでは、症状発現のパターン(発作性か持続性か)と誘因を詳細に聴取することが重要。
暗記のコツ: 「副腎=ふくじん」を「フク(服)」と「ジン(人)」に分けてイメージ。「皮質=外套(コート)」はゆっくり調節、「髄質=中身(インナー)」は素早く反応、と覚えると混乱しにくい。アドレナリンの「アドレ」は「アド(追加)+レナ(腎臓)」→「腎臓の上(副腎)から追加で出るホルモン」と語呂合わせも有効。
国試頻出ポイント: 副腎ホルモンは、分泌部位(皮質vs髄質)と各ホルモンの作用をセットで問う問題が頻出。特に、
クッシング症候群 (Cushing's Syndrome)(コルチゾール過剰)、
原発性アルドステロン症 (Primary Aldosteronism)(アルドステロン過剰)、
褐色細胞腫 (Pheochromocytoma)(アドレナリン/ノルアドレナリン過剰)の3大疾患の症状を対比して覚えると、応用問題にも対応できる。
出題パターン注意!: この問題のような単純なホルモン名称と作用の組み合わせ問題に加えて、「副腎皮質刺激ホルモン(ACTH)の過剰分泌で生じるのは?」といった上位中枢(視床下部-下垂体-副腎軸)を含めた連鎖的な問題、あるいは「褐色細胞腫患者の手術前後の看護で最も注意すべきことは?」といった状況設定問題へと発展する。基礎知識を確実にすることで、複雑な事例問題にも対応できる思考力が身につく。