臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario):
脳外科病棟に勤務する看護師のあなた。下垂体腫瘍の摘出手術を受けた患者さんの担当になりました。術後、患者は「のどが渇いて仕方がない」と訴え、尿量が1時間に300ml以上と異常に多くなっています。バイタルサインは安定していますが、尿の色は薄く、尿比重が低値(1.002)を示しています。看護師としてどのようにアセスメントし、対応すべきでしょうか?
看護介入と判断戦略 (Nursing Intervention & Clinical Judgment):
最重要! この症状は、下垂体後葉の機能低下または視床下部-下垂体路の障害による
尿崩症 (Diabetes Insipidus)の典型的なサインです。手術操作によりADHの分泌が障害されたと考えられます。
1.
観察: 1時間ごとの正確な尿量測定、尿比重、血清ナトリウム値、浸透圧を確認。意識レベル、バイタルサインの変動(特に血圧低下や頻脈に注意)を観察します。
2.
アセスメント: 多尿(尿量 > 200ml/h)と口渇感、低尿比重(< 1.005)から尿崩症と判断します。水分がどんどん失われているため、高ナトリウム血症と脱水のリスクが高まります。
3.
報告(SBAR):
S(状況):「下垂体腫瘍術後の患者さんで、術後3時間目から尿量が1時間300mlと増加しています。」
B(背景):「尿比重は1.002と低く、口渇を強く訴えています。」
A(アセスメント):「尿崩症の可能性が高いと考えられます。高ナトリウム血症や脱水のリスクがあります。」
R(提案):「ADH製剤(デスモプレシン)の投与指示と、輸液計画の見直しをお願いします。」
4.
介入: 医師の指示に従い、
デスモプレシン (Desmopressin)の投与を準備。患者の口渇を緩和するために、経口摂取が可能な場合は水分摂取を促します。輸液は、不足している水分を補うために、低張液や生理食塩液が使用されます。
患者安全・注意事項 (Patient Safety & Precautions):
警告! 尿崩症を放置すると、重度の高ナトリウム血症による意識障害や痙攣、循環血液量減少性ショックを引き起こす可能性があります。また、ADH製剤(デスモプレシン)を投与した後は、逆に水分貯留による低ナトリウム血症(水中毒)を起こさないよう、尿量と血清ナトリウム値を厳重にモニタリングする必要があります。特に高齢の患者では注意が必要です。
看護プロトコル: 尿崩症が疑われる場合の観察項目と報告基準を整理します。
- 観察項目: 1時間ごとの尿量、尿比重、血清Na値、口渇の程度、意識レベル、体重変化。
- 報告基準: 尿量が200ml/h以上、または尿比重が1.005以下の状態が2時間以上続く場合。
- 記録のポイント: 正確なI/Oバランス、尿の色・性状、投与したADH製剤の種類・用量・投与時間、投与後の尿量変化。
先輩看護師の一言: 「『術後患者の多尿』は、麻酔の影響、輸液負荷、利尿薬など様々な原因があります。でも、『尿が薄くて量が多い=尿崩症』は、特に脳外科では超重要な急変サインです!国試の知識を活かして、『いつもと違う』を見逃さない目を養ってください。現場では、患者さんの『のどが渇いた』という訴えが最初のサインになることも多いんですよ。」