核心解説
この問題は、
ストレス反応 (Stress Response)における主要な内分泌系である
視床下部-下垂体-副腎皮質系 (HPA Axis)の活性化を問うています。生体が身体的・精神的ストレスにさらされると、生体防御機構としてこの系が作動し、最終的に副腎皮質から分泌されるホルモンが何かを理解することが鍵となります。これはストレス生理学の基本中の基本であり、看護師国家試験でも頻出のテーマです。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): この問題の核心は、ストレスに対する生体の主要な内分泌反応を理解することです。特に、即時反応である
交感神経-副腎髄質系 (SAM Axis)(アドレナリン、ノルアドレナリン)と、持続的な適応反応である
視床下部-下垂体-副腎皮質系 (HPA Axis)を明確に区別する必要があります。HPA軸では、視床下部からCRH(副腎皮質刺激ホルモン放出ホルモン)が分泌され、下垂体前葉からACTH(副腎皮質刺激ホルモン)が放出され、この刺激を受けて副腎皮質から
コルチゾール (Cortisol)が分泌されます。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! ⑤番の
コルチゾール (Cortisol)が正解です。コルチゾールは
糖質コルチコイド (Glucocorticoid)の一種で、ストレス時に分泌が亢進し、血糖値を上昇させる(糖新生の促進)、抗炎症作用、免疫抑制作用などを介して、生体をストレスから防御し、恒常性(ホメオスタシス)を維持する役割を担います。この反応をハンス・セリエは「汎適応症候群 (GAS: General Adaptation Syndrome)」として体系化しました。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
混同注意!
①番の
プロラクチン (Prolactin):乳汁分泌を促進するホルモンであり、ストレスによる直接的な主要な分泌亢進ホルモンではありません。
②番の
メラトニン (Melatonin):松果体から分泌され、睡眠・覚醒リズム(サーカディアンリズム)を調節するホルモンです。ストレス反応の中心的な役割は担いません。
③番の
甲状腺刺激ホルモン (TSH):下垂体前葉から分泌され、甲状腺を刺激してサイロキシン(T4)やトリヨードサイロニン(T3)の分泌を促します。ストレス時にはむしろ分泌が抑制される傾向があります。
④番の
成長ホルモン (Growth Hormone, GH):下垂体前葉から分泌され、成長促進や代謝調節に関与します。ストレス初期には一過性に分泌が亢進することもありますが、HPA軸の中心的なホルモンではありません。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): ストレス反応では、HPA軸と同時に
交感神経-副腎髄質系 (SAM Axis)も活性化され、カテコールアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)が分泌されます。これにより心拍数増加、血圧上昇、気管支拡張、瞳孔散大などの「闘争・逃走反応 (Fight or Flight Response)」が引き起こされます。コルチゾールとカテコールアミンは、それぞれ異なる時間経過と役割でストレス適応に寄与することを押さえておきましょう。
概念整理:
ストレス反応の主要内分泌系
| システム | 主なホルモン | 作用 |
| 視床下部-下垂体-副腎皮質系 (HPA Axis) | コルチゾール (糖質コルチコイド) | 持続的ストレス適応、血糖上昇、抗炎症、免疫抑制 |
| 交感神経-副腎髄質系 (SAM Axis) | アドレナリン、ノルアドレナリン | 即時的ストレス反応、心拍数増加、血圧上昇、気管支拡張 |
一目で比較!:
コルチゾール vs アドレナリン
| 項目 | コルチゾール | アドレナリン |
| 分泌部位 | 副腎皮質 | 副腎髄質 |
| 反応時間 | 遅い (数分~数時間持続) | 速い (数秒~数分) |
| 主な作用 | 代謝調節、抗炎症 | 循環器系の興奮、気管支拡張 |
看護過程ポイント: ストレスが強い患者さん(術後、重症患者、精神的ストレスの高い患者)では、コルチゾールの過剰分泌に伴う血糖上昇、免疫能低下(感染リスク上昇)、創傷治癒遅延、消化管潰瘍などのリスクをアセスメントします。バイタルサインの変動、血糖値、感染徴候の観察が重要です。
暗記のコツ:
「ストレス=コルチゾール」と覚えましょう。「コルチゾール」の「コルチ」は「副腎皮質(Cortex)」から来ています。ストレスで副腎皮質が活性化されるとイメージしてください。
国試頻出ポイント: ストレス反応の内分泌系(HPA軸、SAM軸)の流れを問う問題は毎年必出です。また、コルチゾールの過剰分泌によるクッシング症候群(Cushing's Syndrome)や、不足によるアジソン病(Addison's Disease)の症状と看護も頻出です。
出題パターン注意!: 単純なホルモン名を問うだけでなく、「ストレス状態にある患者の血糖値が上昇した理由は?」という形で、コルチゾールの作用(糖新生促進)を問う応用問題や、「長期ステロイド(コルチゾール)投与中の患者の観察項目は?」という臨床状況設定問題にも発展します。