核心解説
この問題は、腎臓による水分と電解質調節のメカニズム、特に
血漿浸透圧 (Plasma Osmolality) の調節に関わるホルモンについて問うています。
体内の水分バランスを維持するためのフィードバックシステム を理解することが鍵となります。血漿浸透圧が上昇すると、体内は「脱水状態」であると感知し、水分を保持しようとするホルモンが分泌されます。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): この問題は、水分と電解質のバランスを司るホルモンのうち、
浸透圧変化 に直接反応するものを特定する問題です。
浸透圧受容体 (Osmoreceptor) は視床下部に存在し、血漿浸透圧のわずかな変化(1-2%程度)を感知します。この刺激が、下垂体後葉からのホルモン分泌を促します。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): 正解は
バソプレシン (Vasopressin / 抗利尿ホルモン ADH) です。
最重要! 血漿浸透圧が上昇(または循環血液量が減少)すると、視床下部の浸透圧受容体が刺激され、下垂体後葉からバソプレシンが分泌されます。バソプレシンは腎臓の
集合管 (Collecting Duct) に作用し、水の透過性を高めて水の再吸収を促進します。これにより尿量が減少し、体内に水分が保持され、血漿浸透圧は正常範囲に戻ります。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
②
混同注意! レニン (Renin) は、血圧低下や腎血流量の減少を感知して腎臓の傍糸球体細胞から分泌されます。浸透圧上昇は直接的な分泌刺激ではありません。
③
混同注意! アルドステロン (Aldosterone) は副腎皮質から分泌され、ナトリウム (Na⁺) の再吸収とカリウム (K⁺) の排泄を促進します。これは
レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系 (RAAS) の一部で、主に循環血液量(血圧)の調節に関与します。
④
混同注意! アンジオテンシンII (Angiotensin II) は強力な血管収縮作用とアルドステロン分泌促進作用を持ち、血圧上昇に寄与します。浸透圧を直接感知して分泌されるホルモンではありません。
⑤
混同注意! 心房性ナトリウム利尿ペプチド (ANP) は心房の伸展(循環血液量増加)を感知して分泌され、ナトリウムと水の排泄を促進(利尿作用)して血圧を下げます。浸透圧上昇時には逆の作用が必要です。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): 浸透圧調節と循環血液量調節は密接に関連していますが、センサーとエフェクターが異なります。
浸透圧調節 は主にバソプレシン(ADH)と口渇中枢(Thirst Center)によって行われ、
循環血液量調節 は主にRAASとANPによって行われます。バソプレシン分泌は、強い循環血液量減少(例えば出血時)にも刺激されます。
概念整理: 血漿浸透圧上昇(体内水分不足) → 視床下部浸透圧受容体刺激 → 下垂体後葉 →
バソプレシン(ADH)分泌↑ → 腎集合管での水再吸収↑ → 尿量↓ → 浸透圧低下。これに対し、循環血液量減少(血圧低下)は、RAAS(レニン→アンジオテンシンII→アルドステロン)を活性化し、Na⁺と水の再吸収を促進します。
一目で比較!:
| ホルモン | 主な分泌刺激 | 主な作用 |
|---|
| バソプレシン (ADH) | 血漿浸透圧↑ 循環血液量↓ | 水再吸収↑ (集合管) |
| アルドステロン | アンジオテンシンII K⁺↑ | Na⁺再吸収↑ K⁺排泄↑ |
| ANP | 心房伸展 (循環血液量↑) | Na⁺排泄↑ 利尿 |
看護過程ポイント:
アセスメント: 脱水時(口渇、皮膚ツルゴール低下、尿量減少)は血漿浸透圧上昇を疑い、バソプレシンの分泌促進状態をアセスメント。逆に、水中毒時(低ナトリウム血症、意識障害)はバソプレシンの過剰分泌(SIADH)を疑う。
看護介入: 脱水患者への輸液療法(特にバソプレシン分泌を抑制する低張液の適応を理解)や、術後のバソプレシン分泌亢進状態(ストレス、疼痛)を考慮した水分管理が重要。
暗記のコツ: 「バソプレシン(ADH)は『水を保有する』ホルモン」と覚えましょう。「A(Anti)D(Diuretic)H(Hormone)= 抗利尿ホルモン」は、文字通り「尿を出さない(水を再吸収する)」ホルモンです。血漿が濃くなった(浸透圧↑)時に出て、水を薄めようとします。
国試頻出ポイント: 各ホルモンの「分泌を促進する因子」と「作用部位・作用機序」が頻出です。特に「何を感知して分泌されるか(刺激)」と「その結果、体内で何が増減するか」をセットで覚えておくと、問題が解きやすくなります。事例問題では「高Na血症患者の尿量減少」からバソプレシン作用亢進を推測する問題もよく出ます。
出題パターン注意!: 単純なホルモンと作用の組み合わせ問題から、
「心不全患者の肺水腫に対し、ANPとバソプレシンの作用の違いを踏まえた看護介入を選べ」 といった、病態と複数のホルモン作用を統合する問題へと発展します。