核心解説
この問題は、遺伝性疾患の診断に用いられる検査法の違いを問うています。特に、「特定の遺伝子の塩基配列を直接調べて変異の有無を確認する」という記述が、どの検査法に該当するかを正確に理解することが鍵となります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 遺伝性疾患の診断には、大きく分けて
染色体検査 (Chromosome Analysis)、
遺伝子検査 (Genetic Testing)、
生化学検査 (Biochemical Testing) の3つのレベルがあります。染色体検査は染色体全体の数的・構造的異常(例:ダウン症候群の21トリソミー)を調べるものです。一方、問題文にある「特定の遺伝子の塩基配列」を直接確認するのは、
遺伝子検査の中でも特にDNAシークエンス (DNA Sequencing) と呼ばれる手法です。これは、目的の遺伝子の塩基配列(A, T, G, Cの並び)を一文字ずつ読み取り、正常な配列と比較して変異(ミスセンス変異、ナンセンス変異、欠失、挿入など)の有無を確認します。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 正解は
遺伝子検査 (DNAシークエンス) です。これは、問題文の「特定の遺伝子の塩基配列を直接調べて変異の有無を確認する」という定義に完全に合致します。例えば、
筋強直性ジストロフィー (Myotonic Dystrophy) や
家族性大腸腺腫症 (Familial Adenomatous Polyposis) などの診断では、原因遺伝子のシークエンス解析が確定診断に用いられます。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
-
混同注意! ①番の
病理組織検査 (免疫染色) は、組織や細胞内の特定のタンパク質(遺伝子産物)の有無や局在を調べるもので、遺伝子そのものの配列は見ません。
- ②番の
生化学検査 (酵素活性測定) は、遺伝子の変異によって機能が低下した酵素の活性値を測定するものです(例:
フェニルケトン尿症 (Phenylketonuria) でのフェニルアラニン水酸化酵素活性)。これも遺伝子の配列ではなく、遺伝子産物の機能を評価します。
-
混同注意! ③番の
染色体検査 (G分染法) は、染色体全体の数(トリソミー、モノソミー)や構造(欠失、転座、逆位)の大きな異常を調べます。特定の遺伝子レベルの塩基配列の変化(点突然変異など)は検出できません。
- ⑤番の
画像検査 (MRI) は、臓器や組織の形態的・構造的変化を画像化するもので、遺伝子レベルの情報は一切得られません。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): 遺伝子検査には、DNAシークエンス以外にも、
PCR法 (Polymerase Chain Reaction) による特定遺伝子の増幅検出や、
FISH法 (Fluorescence In Situ Hybridization) による特定遺伝子領域の欠失・重複の確認などがあります。特に、FISH法は染色体検査と遺伝子検査の中間的な位置づけで、特定の遺伝子座位の異常を調べるのに有用です。これら検査法の「対象(染色体全体 vs 特定遺伝子 vs 遺伝子産物)」と「検出できる異常の種類(数的異常 vs 構造異常 vs 点突然変異)」を整理しておくと、国試で混同しにくくなります。
概念整理: 遺伝性疾患診断の3段階
| 検査法 | 対象 | 検出可能な異常例 |
|---|
| 染色体検査 (G分染法) | 染色体全体 (数的・構造) | ダウン症候群 (21トリソミー)、慢性骨髄性白血病 (フィラデルフィア染色体) |
| 遺伝子検査 (DNAシークエンス) | 特定遺伝子の塩基配列 | 筋ジストロフィー (DMD遺伝子変異)、遺伝性乳癌 (BRCA1/2変異) |
| 生化学検査 (酵素活性) | 遺伝子産物 (タンパク質・酵素) | フェニルケトン尿症 (PAH酵素活性低下) |
一目で比較!: 遺伝子検査 (DNAシークエンス) vs 染色体検査 (G分染法) vs 生化学検査 (酵素活性)
| 項目 | 遺伝子検査 (DNAシークエンス) | 染色体検査 (G分染法) | 生化学検査 (酵素活性) |
|---|
| 調べるもの | DNAの塩基配列 | 染色体の数・構造 | タンパク質・酵素の機能 |
| 検出できる変異 | 点突然変異、小さな欠失/挿入 | トリソミー、欠失、転座などの大きな異常 | 遺伝子産物の機能低下・欠損 |
| 代表例 | 遺伝性癌、筋ジストロフィー | ダウン症候群、ターナー症候群 | フェニルケトン尿症、ゴーシェ病 |
看護過程ポイント:
最重要! 遺伝子検査の実施に際しては、
遺伝カウンセリング (Genetic Counseling) が必須です。看護師は、検査前後のインフォームドコンセント(結果の解釈、心理的影響、家族への影響を含む)を支援し、患者の自律性と心理的安全性を守る役割を担います。アセスメントでは、患者の家族歴(血族結婚の有無、遺伝性疾患の有無)、検査への理解度、不安や恐れの程度を評価します。
暗記のコツ: 「遺伝子=DNAの配列」とイメージしましょう。DNAシークエンスは「遺伝子の文字列(A, T, G, C)を読む機械」と覚えてください。一方、染色体検査は「染色体の本数(46本)や形(長腕、短腕)を顕微鏡で見る」、生化学検査は「遺伝子が作るタンパク質の働きを測る」と覚えると、3つの検査の違いが明確になります。
国試頻出ポイント: この問題は、遺伝性疾患の診断プロセスに関する基本的な理解を問うものです。国試では、各検査法の「対象(何を調べるか)」と「検出できる異常の種類」の組み合わせを問う形式(例:「染色体検査で診断できる疾患はどれか」「DNAシークエンスが必要な疾患はどれか」)で頻出します。また、遺伝子検査の倫理的側面(遺伝カウンセリングの必要性)と併せて出題されることもあります。
出題パターン注意!: 単純な知識問題に加えて、事例問題として「遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)が疑われる患者への検査説明」などの状況設定で出題される可能性があります。その場合、看護師として「検査の限界(全ての変異を検出できるわけではない)」「結果の心理的影響」「保険診療の適応」などを説明できる知識が求められます。