核心解説
この問題は、
ビタミン欠乏症 (Vitamin Deficiency) による特徴的な症状の鑑別を問うています。ビタミンは生体内で微量で重要な役割を果たし、それぞれ欠乏すると特異的な症候を呈します。特に
ビタミンB1(チアミン、Thiamine) は
糖質代謝(解糖系およびTCA回路) における補酵素として不可欠です。欠乏すると、エネルギー産生が障害され、特にエネルギー需要の高い神経組織や心筋に影響が及びます。選択肢の中で、ビタミンB1欠乏症でみられるのは
末梢神経障害 です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
ビタミンB1(チアミン)欠乏症の代表的な疾患は
脚気(Beriberi) です。脚気には主に2つの病型があります。
1.
乾性脚気(Dry Beriberi): 末梢神経障害が主体。四肢のしびれ、感覚鈍麻、筋力低下、腱反射の減弱・消失などがみられます。
2.
湿性脚気(Wet Beriberi): 高拍出性心不全を主体。浮腫、呼吸困難、頻脈、心肥大などをきたします。
また、中枢神経症状として
ウェルニッケ脳症(Wernicke Encephalopathy)(意識障害、眼球運動障害、運動失調)や
コルサコフ症候群(Korsakoff Syndrome)(記憶障害、作話)も有名です。これらの症状は、特にアルコール依存症患者や極端な偏食、吸収不良症候群で出現しやすいため、看護師は栄養状態のアセスメントが重要です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ビタミン欠乏症は、その症状からどのビタミンが不足しているかを問う頻出問題です。以下のように整理しましょう。
-
①番:骨軟化症 →
ビタミンD (Vitamin D) 欠乏。カルシウム・リンの吸収障害による骨の石灰化不全。成人では骨軟化症、小児ではくる病を生じます。
-
②番:夜盲症 →
ビタミンA (Retinol) 欠乏。網膜の杆体細胞におけるロドプシン(視紅)の再合成障害による暗順応障害。
-
③番:出血傾向 →
ビタミンK (Vitamin K) 欠乏。肝臓での凝固因子(第II、VII、IX、X因子)の合成に必須。新生児や抗凝固薬(ワルファリン)内服患者で注意。
-
⑤番:口角炎 →
ビタミンB2(リボフラビン、Riboflavin) 欠乏。口唇炎、口角炎、舌炎、脂漏性皮膚炎などを生じます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
ビタミンB1欠乏がなぜ末梢神経障害を引き起こすのか、病態生理を深く理解しましょう。
チアミンは、解糖系で生成される
ピルビン酸 (Pyruvate) を
アセチルCoA (Acetyl-CoA) に変換する
ピルビン酸脱水素酵素 (Pyruvate Dehydrogenase) や、TCA回路内の
α-ケトグルタル酸脱水素酵素 (α-Ketoglutarate Dehydrogenase) の補酵素です。チアミンが不足すると、これらの代謝経路が滞り、ATP産生が低下します。エネルギー不足に陥った神経細胞は正常に機能できず、変性・障害を受けるため、末梢神経障害が出現します。
概念整理: ビタミンB1(チアミン)は糖質代謝の補酵素。欠乏するとエネルギー産生が低下し、高エネルギー要求組織(神経・心筋)が障害される。結果、末梢神経障害(乾性脚気)と高拍出性心不全(湿性脚気)が主症状。
一目で比較!:
| ビタミン | 主な欠乏症 | 症状 |
| A (レチノール) | 夜盲症、角膜乾燥症 | 暗順応障害、皮膚乾燥 |
| B1 (チアミン) | 脚気、ウェルニッケ脳症 | 末梢神経障害、心不全、意識障害 |
| B2 (リボフラビン) | 口角炎、舌炎 | 口唇・口角のびらん、皮膚炎 |
| B3 (ナイアシン) | ペラグラ | 皮膚炎、下痢、認知症(3D) |
| B12 (コバラミン) | 悪性貧血 | 巨赤芽球性貧血、脊髄後索・側索障害 |
| C (アスコルビン酸) | 壊血病 | 歯肉出血、皮下出血、創傷治癒遅延 |
| D (カルシフェロール) | くる病、骨軟化症 | 骨変形、骨痛、筋力低下 |
| E (トコフェロール) | 溶血性貧血、神経障害 | 赤血球脆弱性亢進 |
| K (フィロキノン) | 出血傾向 | プロトロンビン時間延長、新生児メレナ |
看護過程ポイント:
-
アセスメント: 栄養状態(食事内容、嗜好、アルコール摂取量)の聴取。神経症状(しびれ、筋力、歩行)と循環器症状(浮腫、呼吸困難、疲労感)の観察。
-
看護診断: 「栄養バランスの変化:必要量以下」「活動耐性低下」「歩行障害」など。
-
計画・介入: ビタミンB1を多く含む食品(豚肉、うなぎ、玄米、豆類)の摂取促進。食事摂取が困難な場合は、チアミン製剤の投与(経口または注射)。アルコール依存症患者には離脱治療との連携。
-
評価: 神経症状の改善、心不全症状の消退。
暗記のコツ:
- 「B1(チアミン)」は「
1番最初のエネルギー代謝(糖質)」に関わる → 「
1番の神経(神経障害)」
- 覚え方:「
B1チアミン、米ぬかから発見、脚気の原因」
- 脚気の「
脚」は足の末梢神経障害を連想。ウェルニッケ脳症の「
脳」は中枢神経障害を連想。
国試頻出ポイント:
- 各ビタミンの欠乏症と過剰症(特にAとDの過剰症)をセットで問う問題。
- 症状から逆算して「どのビタミンが不足しているか」を問う問題。
- 特定の患者背景(アルコール多飲者、胃切除後、透析患者、高齢者)におけるビタミン欠乏リスクのアセスメント。
- 状況設定問題では、「しびれや歩行障害を訴える患者」に対して、神経学的所見と併せて栄養歴を確認する重要性が問われる。
出題パターン注意!:
- 単純な「ビタミンB1欠乏症の症状はどれか」から、「アルコール依存症患者にみられるウェルニッケ脳症の初期症状はどれか」「脚気心の患者のアセスメントで優先すべき項目はどれか」など、臨床推論を要する問題へ発展します。