核心解説
この問題は、
バソプレシン(抗利尿ホルモン:ADH)の分泌調節メカニズムを問うています。
体液の恒常性(ホメオスタシス)維持において、バソプレシンは腎臓での水分再吸収を促進し、体内の水分量と浸透圧を調整する重要なホルモンです。このホルモンの分泌は、主に血漿浸透圧と循環血液量の変化によって調節されています。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! バソプレシン分泌を最も強力に促進する刺激は、
血漿浸透圧の上昇(Hyperosmolality)です。
体内の水分が不足し、血液が濃縮(高張)されると、視床下部の浸透圧受容体が感知し、下垂体後葉からのバソプレシン分泌を促進します。これにより腎臓の集合管での水の再吸収が亢進し、体内に水分が保持され、浸透圧が正常化します。これは生体の重要な防御機構です。
5番「血漿浸透圧の上昇」が正解です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ①番「血漿浸透圧の低下」は、バソプレシン分泌を
抑制する刺激です。血液が希釈(低張)されると、余分な水分を排出するためにADH分泌が止まります。
②番「心房性ナトリウム利尿ペプチド(ANP)の増加」は、心房壁が伸展(循環血液量増加)された際に分泌され、
利尿(Naと水の排泄促進)を促し、バソプレシン分泌を抑制する方向に働きます。
③番「血圧の上昇」および④番「循環血液量の増加」は、いずれもバソプレシン分泌を
抑制する要因です。これらは動脈圧受容器(Baroreceptor)や心房の伸展受容器を刺激し、迷走神経を介してADH分泌を抑制し、利尿を促進して体液量を減少させます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
バソプレシン分泌の調節には、以下の2つの主要な経路があります。
| 調節因子 | 促進(分泌↑) | 抑制(分泌↓) |
| 浸透圧性調節 | 血漿浸透圧上昇(脱水) 口渇感も同時に生じる | 血漿浸透圧低下(水分過剰) |
| 圧/容量性調節 | 循環血液量減少(出血・下痢) 血圧低下 | 循環血液量増加 血圧上昇 |
特に、浸透圧変化は非常に鋭敏で、わずか1~2%の変化でもADH分泌が調節されます。一方、血液量の変化は浸透圧変化よりも大きな変化(5~10%以上)が必要ですが、いったん作動すると強力な分泌促進が起こります。これらは互いに協調して体液の恒常性を維持しています。
概念整理:
バソプレシン(ADH)は、腎臓の
集合管(Collecting Duct)に作用し、アクアポリン2(水チャネル)の発現を増加させて水の再吸収を促進します。分泌促進のトリガーは「浸透圧の上昇」と「血液量の減少」の2つです。
一目で比較!:
混同注意! アルドステロン(Aldosterone)は副腎皮質から分泌され、Na⁺の再吸収とK⁺の排泄を促進(血圧上昇)。一方、
ANP(心房性ナトリウム利尿ペプチド)は心房から分泌され、Na⁺と水の排泄を促進(血圧低下)。ADHは「水のみ」の再吸収を促進する点が異なります。
看護過程ポイント:
アセスメント:脱水患者のバイタルサイン(血圧低下、脈拍増加)、皮膚ツルゴール、口渇の有無、尿量・尿比重・尿浸透圧の確認。
看護診断:「体液量不足リスク状態」や「口渇」に関連した看護計画を立案。
介入:医師の指示に基づく輸液療法(Fluid Therapy)の正確な実施、経口摂取が可能な患者への水分摂取の促し、バイタルサインと尿量のモニタリング。
暗記のコツ: 「のどがカラカラ(浸透圧↑)で、血も足りない(血液量↓)→ADHを出せ!」と覚えましょう。逆に「水を飲みすぎた(浸透圧↓)か、血圧が上がった(血液量↑)→ADHは出さない」です。ADHが「水をため込むホルモン」と理解すれば、分泌条件がイメージしやすいです。
国試頻出ポイント: 「ADH分泌促進因子=血漿浸透圧上昇、循環血液量減少」の組み合わせは
超頻出です。また、SIADH(抗利尿ホルモン不適合分泌症候群)ではADHが過剰に分泌され、低Na血症(希釈性)と尿濃縮が起こることも併せて学習しましょう。
出題パターン注意!: 単純な分泌促進因子を問う選択問題に加え、「術後の患者で出血が続き、血圧が低下している。このとき体内で何が起きているか」という状況設定問題で、ADHの分泌増加をアセスメントさせる形式も頻出です。