看護学のコア解説
この問題は、
乳児肥厚性幽門狭窄症 (Hypertrophic Pyloric Stenosis, HPS) の特徴的な身体的所見について問うています。HPSは、胃の出口である幽門の筋層が異常に肥厚し、胃内容物の十二指腸への通過が妨げられる疾患です。生後2〜8週の乳児、特に男児に多く見られます。
重要概念の分析 (Key Concept)
問題の核は、HPSの診断に最も特異的な
身体的所見 (Physical finding)を選ぶことです。HPSの病態生理は、幽門筋の肥厚による機械的閉塞です。これにより、胃内容物(特にミルク)が通過できず、特徴的な症状が現れます。
正解の根拠 (Answer Rationale)
ここがポイント! 正解の③「右上腹部に触知可能なオリーブ様の腫瘤」は、HPSの
診断的所見 (Diagnostic finding)です。これは肥厚した幽門筋そのものを指し、
触診 (Palpation)によって確認されます。特に授乳後や嘔吐直後、リラックスした状態の乳児で触知しやすくなります。この所見は、HPSを他の嘔吐をきたす疾患と鑑別する上で極めて重要です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
① 胆汁性嘔吐と腹部膨満:
混同注意! 胆汁性(緑色)の嘔吐は、
腸回転異常 (Malrotation) や
腸閉塞 (Intestinal obstruction) など、より緊急性の高い「外科的腹部」を示唆する重要なサインです。HPSの嘔吐は胃内容物(ミルク)であり、通常は胆汁を含みません。
② 血便・粘液便を伴う下痢:これは
細菌性腸炎 (Bacterial enteritis) や
壊死性腸炎 (Necrotizing enterocolitis)、
腸重積症 (Intussusception) などで見られる所見であり、HPSの症状ではありません。
④ 金属音様の腸雑音と可視的蠕動:これは腸閉塞で見られることがあります。HPSでは、胃の出口が閉塞しているため、胃の蠕動が強まり、
胃蠕動波 (Visible peristaltic wave)が左季肋部から右へ移動するのが見えることがありますが、④の記述はより腸管全体の閉塞を示唆する表現です。
関連概念の整理 (Related Concepts)
HPSの臨床的特徴は「非胆汁性・噴水様嘔吐」「空腹感が強い」「体重増加不良」「脱水・電解質異常(代謝性アルカローシス)」です。診断は、身体所見(オリーブ様腫瘤の触知)に加え、
腹部超音波検査 (Abdominal ultrasonography)で幽門筋の肥厚と長さを測定することで確定します。治療は、
幽門筋切開術 (Pyloromyotomy)です。
概念のまとめ
・
乳児肥厚性幽門狭窄症 (HPS):生後2-8週の男児に多い。幽門筋の肥厚による胃出口の閉塞。
・
主症状:
非胆汁性の噴水様嘔吐、強い空腹感、体重増加不良。
・
診断的所見:
右上腹部のオリーブ様腫瘤の触知。腹部超音波で確定診断。
・
治療:幽門筋切開術(外科手術)。
一目で比較!
| 疾患 | 好発年齢 | 嘔吐の特徴 | 特徴的所見 | 緊急性 |
|---|
| 肥厚性幽門狭窄症 | 生後2-8週 | 非胆汁性・噴水様 | 右上腹部オリーブ様腫瘤 | 緊急(脱水・栄養管理) |
| 腸重積症 | 生後6ヶ月〜2歳 | 胆汁性(進行すると) | イチゴゼリー様血便、腹部ソーセージ様腫瘤 | 緊急(外科的処置) |
| 胃食道逆流症 | 新生児期〜乳児期 | 溢乳、非噴水様 | 特異的腫瘤なし、成長は良好なことが多い | 経過観察・体位管理 |
解剖生理と薬理のポイント
・
幽門 (Pylorus):胃の出口で十二指腸につながる部分。輪状筋が発達して括約筋を形成し、食物の排出を調節する。
・HPSでは、この幽門の輪状筋が原因不明に肥厚・硬化し、内腔が狭くなる(狭窄)。
・嘔吐による胃酸の喪失→
低クロール血症 (Hypochloremia)、
低カリウム血症 (Hypokalemia)、
代謝性アルカローシス (Metabolic alkalosis)を引き起こす。術前には輸液による是正が必須。
暗記のコツとゴロ合わせ
・「
オリーブを探せ!」:HPSの診断は、オリーブ様の腫瘤を触知すること。
・症状のゴロ:「
噴水、男の子、オリーブ」→ 噴水様嘔吐、男児に多い、オリーブ様腫瘤。
国試頻出ポイント
HPSは小児看護学の頻出疾患です。「生後数週の乳児の噴水様嘔吐」というキーワードからHPSを連想し、「オリーブ様腫瘤」が診断の決め手であることを押さえましょう。また、術前の看護として「脱水・電解質異常の是正」が最優先である点もよく問われます。
国試出題パターンの変化に注意!
単に「特徴的な所見は?」と問うパターンから、「術前の患児のアセスメントで最も優先すべきことは?」(脱水・電解質異常の評価)、「手術後、初回授乳で観察すべきことは?」(嘔吐の有無)など、看護ケアに焦点を当てた応用問題への変化にも対応できるようにしましょう。