看護学のコア解説
この問題は、
肥厚性幽門狭窄症 (Hypertrophic pyloric stenosis)の術前管理における
優先度の高い看護介入 (Priority nursing intervention)を問うています。ポイントは、
ここがポイント!「
手術前」であり、かつ「
嘔吐と脱水症状がある」という状況です。この状態での最優先目標は、
誤嚥 (Aspiration)のリスクを除去し、安全に手術に導くことです。
重要概念の分析 (Key Concept)
肥厚性幽門狭窄症は、胃の出口(幽門)の筋層が肥厚し、胃内容物が十二指腸へ通過できなくなる疾患です。その結果、
噴水様嘔吐 (Projectile vomiting)が特徴的で、これにより
代謝性アルカローシス (Metabolic alkalosis)、脱水、電解質異常(低カリウム血症、低クロール血症)が生じます。術前管理の原則は、
①胃内容物の除去による誤嚥防止と
②脱水・電解質異常の是正です。このうち、
緊急性と安全性の観点から、胃内容物の除去が最優先されます。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解の③「
胃管を挿入し胃減圧を行う (Insert nasogastric tube for gastric decompression)」が最優先される理由は以下の通りです。
1.
誤嚥リスクの即時軽減:嘔吐を繰り返している乳児は、麻酔導入時や術中・術後に胃内容物を誤嚥するリスクが極めて高いです。胃管を挿入して胃内容物を吸引・減圧することで、この致命的な合併症を予防します。
2.
手術操作の安全性向上:胃が拡張していると、腹部手術の際に視野が妨げられ、操作が困難になります。胃減圧は外科医が安全に手術を行うための前提条件です。
3.
嘔吐の悪循環の断ち切り:胃内に貯留した内容物が嘔吐を誘発するため、その除去自体が症状の緩和にもつながります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 他の選択肢は重要ですが、優先順位が異なります。
① 経口電解質液の投与:脱水・電解質異常の是正は非常に重要です。しかし、
嘔吐が持続している状態で経口投与すると、かえって誤嚥リスクを高め、効果も期待できません。まず胃減圧を行い、その後、
静脈内輸液 (IV infusion)によって水分と電解質を補充するのが標準的な管理です。
② 腹臥位での体位管理:嘔吐時の誤嚥予防策の一つではありますが、
根本的な解決策ではありません。また、乳児突然死症候群 (SIDS) のリスクも考慮すると、術前管理中に腹臥位を継続することは現実的ではなく、胃管挿入による確実な減圧に優先しません。
④ 持続的心臓モニタリング:代謝性アルカローシスに伴う電解質異常(特に低カリウム血症)では不整脈のリスクがあります。しかし、これは胃減圧と輸液による是正が行われた
後の管理であり、
最初に行うべき介入ではありません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
術前管理の流れは「
NPO(絶飲食)→ 胃管挿入・減圧 → 輸液による是正 → 手術」です。術後は、胃管を抜去し、経口摂取(通常は少量の糖水から開始)を段階的に再開します。この疾患では、術後の経口再開が非常にスムーズであることが特徴の一つです。
概念のまとめ
・肥厚性幽門狭窄症の3大特徴:噴水様嘔吐、代謝性アルカローシス、右上腹部のオリーブ様腫瘤。
・術前最優先ケア:
胃管挿入による胃減圧 (NG tube insertion for gastric decompression)(誤嚥防止)。
・脱水是正:経口ではなく、
静脈内輸液 (IV fluid therapy)で行う。
一目で比較!
| 介入 | 目的 | 優先順位と理由 |
|---|
| 胃管挿入・減圧 | 誤嚥防止、手術視野の確保 | 最優先。安全な麻酔導入と手術の絶対条件。 |
| 静脈内輸液 | 脱水・電解質異常の是正 | 高優先度だが、胃減圧の後に行う。経口投与は禁忌。 |
| 体位管理(腹臥位) | 誤嚥リスクの軽減 | 補助的な方法。根本的解決策ではない。 |
解剖生理と薬理のポイント
・病態生理:幽門筋の肥厚 → 胃内容物の通過障害 → 胃内圧上昇 → 強力な噴水様嘔吐 → 胃酸(H+、Cl-)の喪失 →
低クロール性代謝性アルカローシス (Hypochloremic metabolic alkalosis) → 代償的にK+、H+が尿中へ排泄 →
低カリウム血症 (Hypokalemia)も合併。
・輸液の組成:生理食塩水(NaCl)が第一選択。Cl-を補充してアルカローシスを是正する。
暗記のコツとゴロ合わせ
優先順位の覚え方:「
まずは胃を空に、そのあとお水(輸液)を」。誤嚥は命に関わるので、まず胃管(NG)でリスクを取り除く、とイメージしましょう。
国試頻出ポイント
「肥厚性幽門狭窄症の術前管理」は超頻出テーマです。必ず「胃管挿入(胃減圧)」が最優先であることを押さえましょう。また、「経口補水はしない(静脈内輸液で行う)」という点もセットで出題されます。
国試出題パターンの変化に注意!
同じ「術前ケア」でも、状況設定が「嘔吐持続中」なのか、「脱水是正後で嘔吐が落ち着いている」のかで正解が変わる可能性があります。本問のように「嘔吐があり脱水症状を示している」場合は、
誤嚥防止が最優先です。単に「手術前の準備」とだけ書かれている場合も、この疾患では胃減圧が必須であることを思い出しましょう。