看護学のコア解説
この問題は、
肥厚性幽門狭窄症 (Hypertrophic Pyloric Stenosis, HPS) の乳児に対する術前の最優先看護ケアについて問うています。HPSは、胃の出口(幽門)の筋肉が異常に厚くなることで、胃内容物の十二指腸への通過が妨げられる疾患です。持続的な
噴水様嘔吐 (Projectile vomiting)が特徴で、これにより
代謝性アルカローシス (Metabolic alkalosis)と
脱水 (Dehydration)が引き起こされます。
重要概念の分析 (Key Concept)HPSの病態生理の核心は「嘔吐による胃酸(塩酸:HCl)の喪失」です。胃酸には水素イオン(H+)と塩素イオン(Cl-)が含まれます。これらを失うことで、体内はアルカリ性に傾き(代謝性アルカローシス)、同時にナトリウム(Na+)とカリウム(K+)も喪失します。また、嘔吐による水分摂取不足と喪失から、循環血液量の減少(脱水)も生じます。
正解の根拠 (Answer Rationale)ここがポイント! 術前の最優先ケアは、
体液・電解質バランスの是正 (Correction of fluid and electrolyte imbalances)です。これは、
患者の安全を確保するためです。未是正のアルカローシスや低カリウム血症は、麻酔導入時のリスクを高め、不整脈を引き起こす可能性があります。また、脱水状態では麻酔薬の分布や排泄に影響を与え、血圧低下などの合併症リスクが高まります。したがって、
安全な麻酔と手術のためには、まず体液・電解質バランスを正常に近づけることが絶対条件となります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)①
混同注意! 乳児を腹臥位(うつ伏せ)にすることは、
乳幼児突然死症候群 (SIDS: Sudden Infant Death Syndrome)のリスクを高める可能性があり、安全な体位とは言えません。また、嘔吐物による誤嚥を防ぐ体位としては、
頭部を高くした側臥位が推奨されます。
② 持続的な嘔吐がある状態で経口補水を開始することは、
禁忌です。胃の出口が閉塞しているため、経口摂取は嘔吐を悪化させ、誤嚥のリスクと電解質のさらなる喪失を招きます。HPSの術前管理では、通常は経口摂取を中止し、
静脈内輸液 (IV infusion)が必須です。
④ 制吐薬の投与は、根本的な閉塞を解除するものではありません。症状を一時的に緩和する可能性はありますが、
最も危険な病態(脱水と電解質異常)を直接是正する介入ではないため、優先度は低くなります。
関連概念の整理 (Related Concepts)HPSの診断には、
超音波検査 (Ultrasonography)で肥厚した幽門筋を確認する方法や、
噴水様嘔吐、
右上腹部のオリーブ様腫瘤 (Olive-shaped mass)の触知、胃蠕動波の視認などがあります。治療は
幽門筋切開術 (Pyloromyotomy)が標準です。
概念のまとめ
| 概念 | ポイント |
|---|
| 病態 | 幽門筋の肥厚による胃出口閉塞 |
| 主症状 | 噴水様嘔吐(非胆汁性) |
| 生じる異常 | 代謝性アルカローシス、低Cl血症、低K血症、脱水 |
| 術前最優先ケア | 静脈路確保と輸液による体液・電解質是正 |
| 根本治療 | 幽門筋切開術 |
一目で比較!
| 乳児期の嘔吐をきたす疾患 | 嘔吐の特徴 | その他の特徴・優先ケア |
|---|
| 肥厚性幽門狭窄症 | 噴水様、非胆汁性、授乳後 | 代謝性アルカローシス。優先:輸液・電解質是正 |
| 腸回転異常・中腸軸捻転 | 胆汁性嘔吐(黄緑色) | 緊急手術が必要な外科的緊急事態 |
| 胃食道逆流症 | 溢乳(少量のダラダラ吐き) | 体位管理、濃厚ミルク、薬物療法 |
解剖生理と薬理のポイント
嘔吐によるHCl喪失:H+とCl-が失われる → 血液中のHCO3-が相対的に増加 →
代謝性アルカローシス。身体はアルカローシスを是正しようと、尿中へのHCO3-排泄を増やすが、その過程でNa+とK+も一緒に排泄されてしまうため、
低Na血症、低K血症も併発する。治療では、
生理食塩水 (Normal saline)の輸液が第一選択。生理食塩水はCl-濃度が血漿より高いため、Cl-を補充し、アルカローシスの是正に直接寄与する。
暗記のコツとゴロ合わせ
HPSの術前管理は「まず輸液」と覚えましょう。症状は「
噴水ポンプ(噴水嘔吐)、オリーブ(オリーブ様腫瘤)、アルカリ君(代謝性アルカローシス)」とイメージすると特徴をまとめて覚えられます。
国試頻出ポイント
肥厚性幽門狭窄症は、
生後3〜5週の男児に好発する点、
噴水様嘔吐の症状、そして術前ケアとして
体液・電解質バランスの是正が最優先である点が、看護師国家試験の超頻出テーマです。嘔吐の性状(胆汁性か非胆汁性か)の鑑別も重要です。
国試出題パターンの変化に注意!
単に「正しい看護はどれか」を問うだけでなく、「術前の状態アセスメントとして最も注意すべき検査値は何か」という形(例:血清Cl値、HCO3-値、K値)や、「輸液開始後、看護師が効果を評価するための観察項目は何か」という形(例:皮膚ツルゴールの改善、尿量の増加、血液ガスデータの改善)で出題されることもあります。常に「なぜそれが優先されるのか」の根拠を理解しておきましょう。