看護学のコア解説
この問題は、
肺動脈カテーテル (Pulmonary artery catheter, Swan-Ganz catheter)を用いた
血行動態モニタリング (Hemodynamic monitoring)のデータを解釈し、
ここがポイント! 病態に応じた最優先の看護介入を判断する能力を問うています。
重要概念の分析 (Key Concept)
提示されたデータは、
心原性ショック (Cardiogenic shock)の典型的な血行動態を示しています。
- 中心静脈圧 (CVP: Central Venous Pressure) 18 mmHg:正常値は2-8 mmHgです。上昇は右心系の前負荷増加(うっ血)を示唆します。
- 肺動脈楔入圧 (PAWP: Pulmonary Artery Wedge Pressure) 22 mmHg:正常値は6-12 mmHgです。上昇は左心系の前負荷増加、つまり左心不全 (Left-sided heart failure)による肺うっ血を強く示唆します。
- 心拍出量 (Cardiac Output, CO) 3.2 L/min:正常値は4-8 L/minです。低下しています。
- 血圧 88/52 mmHg:明らかな低血圧です。
これらのデータを総合すると、「心臓のポンプ機能が低下(CO↓)し、その結果、前負荷が上昇(CVP↑, PAWP↑)し、末梢への灌流が維持できない(血圧↓)」という
心原性ショックの状態です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は③「医師に直ちに通知し、強心薬投与の準備をする」です。
ここがポイント! 心原性ショックの初期管理の目標は、低下した心機能をサポートし、臓器灌流を改善することです。そのための第一選択治療は、
強心薬 (Inotropic agents)(例:ドブタミン、ドパミン)の投与です。看護師は、この危機的なデータを迅速に医師に報告し、指示に基づいて強心薬投与の準備(薬剤の準備、ラインの確認、モニタリング体制の強化)を行うことが最優先の介入となります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 他の選択肢は、この病態では不適切または危険な可能性があります。
① フロセミド(ループ利尿薬)の静注:PAWP上昇(肺うっ血)があるため利尿は理にかなっているように見えますが、
血圧が既に低下している状態で利尿薬を投与すると、循環血液量をさらに減少させ、ショックを悪化させるリスクがあります。肺うっ血の治療は、血圧が安定してから考慮されます。
② ドパミン点滴の増量:ドパミンは強心・昇圧作用がありますが、
医師の指示なく看護師の判断で点滴速度を変更することは絶対に禁止されています。特にこの患者のように血行動態が不安定な場合、安易な調整は危険です。
④ トレンデレンブルグ体位(頭部を低くする):これは
分布異常性ショック (Distributive shock)(例:敗血症、アナフィラキシー)で血管拡張と相対的循環血液量不足がある場合の一時的な処置です。心原性ショックでは、
頭部を下げると心臓への静脈還流量が増え、既にうっ血している心臓にさらに負荷をかけ、肺うっ血を悪化させる可能性があります。
関連概念の整理 (Related Concepts)
血行動態モニタリングのデータは、ショックの種類を鑑別する上で極めて重要です。
| ショックの種類 | CVP / PAWP | 心拍出量(CO) | 末梢血管抵抗(SVR) | 第一選択治療の方向性 |
| 心原性ショック | 上昇 (↑) | 低下 (↓) | 上昇 (↑) | 強心薬、原因治療(PCIなど) |
| 循環血液量減少性ショック | 低下 (↓) | 低下 (↓) | 上昇 (↑) | 輸液、出血源のコントロール |
| 分布異常性ショック(敗血症) | 低下 or 正常 (↓/→) | 上昇 or 正常 (↑/→) | 低下 (↓) | 輸液、抗菌薬、昇圧薬 |
概念のまとめ
・心原性ショック:心ポンプ機能低下 → CO↓、前負荷(CVP/PAWP)↑、血圧↓。
・優先介入:医師への迅速な報告と、強心薬投与の準備。
・禁忌/注意:低血圧時の利尿薬、無許可の点滴速度変更、心原性ショックでのトレンデレンブルグ体位。
一目で比較!
| 介入 | 適応となる主な病態 | 心原性ショックでのリスク |
| フロセミド静注 | うっ血性心不全(血圧安定時) | 循環血液量減少→ショック悪化 |
| トレンデレンブルグ体位 | 分布異常性/循環血液量減少性ショック(一時的) | 静脈還流増加→心負荷/肺うっ血悪化 |
| 強心薬(ドブタミンなど) | 心原性ショック、低心拍出量症候群 | 適応となる第一選択治療 |
解剖生理と薬理のポイント
・
PAWPは、肺動脈カテーテルの先端を肺毛細血管で楔入させて測定する圧で、
左心房圧 (Left atrial pressure)を間接的に反映します。これが上昇するということは、左心室の拡張末期圧が高く、血液が左心系にうっ滞している(=左心不全)ことを意味します。
・強心薬(ドブタミン、ドパミン)は、心筋のβ1受容体を刺激して収縮力(変力作用)を高め、COを増加させます。
暗記のコツとゴロ合わせ
ショックの鑑別:「心原性は
心臓がパンパン(前負荷↑)でも
ポンプ力不足(CO↓)」。データを見たら「CVP/PAWP↑ + CO↓ + BP↓」の組み合わせを思い出しましょう。
国試頻出ポイント
肺動脈カテーテルの各測定値の意味(CVP, PAWP, CO, SVR)と、それらを統合してショックの種類を鑑別する問題は超頻出です。数値の正常範囲と、上昇/低下が意味する病態生理をセットで暗記することが必須です。
国試出題パターンの変化に注意!
単に「PAWPが上昇しているのはなぜか?」と問う問題から、本問のように「具体的なデータを示し、最優先の看護介入を選択させる」という、
臨床判断力を試す応用問題へと変化しています。データを読むだけでなく、そのデータが患者に何を意味し、看護師として何をすべきかを考えられるように学習しましょう。