看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
救急外来に交通事故後の30歳男性が搬送されました。血圧90/50 mmHg、心拍数130回/分、呼吸数28回/分、SpO2 94%(room air)。腹部に打撲痕があり、表情は不安で、少しぼんやりしているように見えます。看護師として最初に行うべきことは?
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
一次評価(ABCDEアプローチ):気道(A)は開通しているか、呼吸(B)の回数とパターンは? 循環(C)では、
脈拍の触知(橈骨動脈、頸動脈)、皮膚の色・温・湿潤度、毛細血管再充満時間(CRT)を即座に評価。この患者では、頻脈、弱い橈骨動脈脈、冷たく湿潤した皮膚、CRTの延長(>2秒)が認められます。
2.
緊急モニタリングの確立:自動血圧計、心電図モニター、パルスオキシメーターを装着。この時点で計算されるMAPが
55 mmHgで、呼びかけに対する反応が鈍い(意識状態の変化)ことに気づきます。
3.
最優先介入の実施とチーム連絡:
ここがポイント! MAP 55 mmHgと意識状態の変化は、
直ちに医師に報告し、急速輸液(乳酸リンゲル液など)の準備と開始が必要な緊急サインです。同時に、酸素投与を開始し(目標SpO2 >94%)、採血用の太い静脈ラインを確保します。
4.
継続的アセスメント:輸液負荷に対する反応(血圧、心拍数、尿量、意識レベルの変化)を頻回に評価します。反応が不十分な場合は、輸血や昇圧薬の使用が必要となるため、チームと連携を密にします。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
・ 急速輸液を行う際は、
過剰輸液による肺水腫のリスクにも注意が必要です。特に高齢者や心機能が元々低下している患者では、聴診で肺のラ音(湿性ラ音)の出現に注意します。
・ 出血源が明らかでない場合(腹腔内出血など)、血圧が上がりすぎると出血が再開・増悪する可能性があるため、
「許容性低血圧(Permissive hypotension)」の概念を理解し、医師の指示に従った目標血圧管理を行います。
看護処置と与薬フロー
| ステップ | 看護アクション | 根拠と注意点 |
|---|
| 1. アセスメント | ABCDE評価。特に意識レベル(JCSやGCS)、脈拍の質、皮膚所見、尿量を迅速に評価。 | 脳灌流と末梢灌流の状態を把握する。尿量は腎灌流の指標。 |
| 2. ライン確保 | 太い径(18G以上)の静脈ラインを2本確保。中心静脈ラインが必要な場合も。 | 急速輸液と薬剤投与のルートを確立する。 |
| 3. 酸素投与 | 酸素マスクなどで酸素投与を開始し、SpO2をモニター。 | 組織の酸素化を補助し、低酸素血症を是正する。 |
| 4. 輸液開始 | 医師の指示に基づき、等張性晶質液(生理食塩水、乳酸リンゲル液)を急速投与。 | 循環血液量を補充する。初期は晶質液が第一選択。 |
| 5. モニタリング | 血圧(特にMAP)、心拍数、尿量(カテーテル挿入)、意識レベルを5-15分毎に評価。 | 治療への反応を評価し、次の治療方針を決定する。 |
先輩看護師からの一言
「ショックの患者さんを看護する時は、『数字』と『患者さんの様子』の両方をしっかり見ることが命です。血圧計の数字が低くても、患者さんがはっきり話せているならまだ代償が効いている証拠。逆に、数字が『それほど悪くなくても』、急にぼんやりし始めたら、それは脳への血流が危険なレベルに落ち始めたサイン。看護師のあなたがその変化に最初に気づき、迅速にアクションを起こすことで、患者さんの命を救える瞬間がたくさんあります。国試で『最優先』を問う問題は、まさにこの臨床判断力を試しているんですよ!」