看護学のコア解説
この問題は、
心原性ショック (Cardiogenic shock)の患者における、
優先度の高いアセスメント (High-priority assessment)と
臓器灌流 (Organ perfusion)の評価について問うています。
重要概念の分析 (Key Concept)
心原性ショックは、心臓のポンプ機能が著しく低下し、全身の臓器に十分な血液(酸素)を送り出せない状態です。この患者は急性心筋炎を原因としており、低血圧(
BP 82/50 mmHg)、頻脈(
HR 112 bpm)というショックの典型的なバイタルサインを示しています。この状態で最も恐ろしいのは、
多臓器不全 (Multiple organ failure)への進展です。その中でも、
腎臓 (Kidney)は灌流圧の低下に非常に敏感で、早期に機能障害(
腎前性腎不全 (Prerenal acute kidney injury))を起こします。
正解の根拠 (Answer Rationale)
ここがポイント! 選択肢①「過去2時間の尿量が15mL」は、
乏尿 (Oliguria)の明確な所見です。成人の正常な尿量は約0.5-1 mL/kg/hrであり、この患者(体重を仮に60kgとすると)では少なくとも30-60mL/hr、2時間で60-120mLが期待されます。15mL/2時間はこれを大幅に下回り、
腎臓への灌流が極めて不十分であること、すなわちショックが進行していることの最も重要な客観的指標です。これは、循環動態の悪化を示す他の徴候(皮膚所見や心拍数のわずかな変動)よりも、
臓器障害の直接的な証拠 (Direct evidence of organ damage)であり、直ちに医師に報告し、治療方針の見直し(強心剤の増量、輸液の再検討、利尿剤の投与など)を促す必要があります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ②「両下肢の末梢浮腫」:これは
心不全 (Heart failure)、特に
右心不全 (Right-sided heart failure)の慢性所見です。心原性ショックでは、ポンプ機能の低下により「全身への血液送出ができない」ことが主問題であり、浮腫は二次的所見です。現在の急性期の優先度は低いです。
③「30分で心拍数が110から118bpmに増加」:確かに心拍数の増加は心機能悪化のサインですが、8bpmの増加は臨床的に大きな変化とは言えず、また心拍数はストレスや疼痛など他の要因でも変動します。乏尿のような臓器障害の直接指標と比べると、報告の緊急性は低くなります。
④「冷たく湿潤した皮膚と遅延した毛細血管再充満時間」:これは
末梢血管収縮 (Peripheral vasoconstriction)を示し、ショックの重要な徴候です。しかし、この所見は既に患者の低血圧・頻脈という状態から推測される所見であり、
新たな臓器障害を意味するものではありません。ショック患者では皮膚所見は常にモニタリングすべきですが、それ単独で治療方針を劇的に変えるほどの「新規かつ重大な所見」とはなりにくいです。
関連概念の整理 (Related Concepts)
ショック患者の看護では、「
ABCアプローチ (Airway, Breathing, Circulation)」に基づき、
バイタルサイン (Vital signs)だけでなく、
臓器灌流の指標 (Indicators of organ perfusion)を定期的に評価することが必須です。具体的には、
意識レベル、尿量、皮膚の色・温・湿潤度、毛細血管再充満時間です。特に尿量は、
インデックス (Index)として最も信頼性が高く、客観的な指標です。
概念のまとめ
心原性ショックでは、ポンプ機能低下→心拍出量減少→血圧低下→臓器灌流不全の流れが核心。看護アセスメントの最優先は、
臓器障害の早期発見。その中で、
尿量(乏尿)は腎灌流不全の最も鋭敏で重要な指標。
一目で比較!
| アセスメント所見 | 意味と優先度 | 報告の緊急性 |
|---|
| 尿量 15mL/2時間 | 臓器灌流不全の確実な証拠。腎前性腎不全のリスク。 | 最優先(直ちに報告) |
| 冷感・湿潤皮膚 | 末梢血管収縮。ショックの一般的徴候。 | 重要だが、既知の病態を裏付ける所見。 |
| 心拍数8bpm増加 | 代償機転または悪化の可能性。他の要因でも変動。 | 継続観察。単独では緊急度低い。 |
| 末梢浮腫 | 慢性の体液貯留(右心不全)。急性ショックの主徴候ではない。 | 緊急性は低い。 |
解剖生理と薬理のポイント
腎臓は、
自己調節能 (Autoregulation)を持ち、ある程度の血圧変動(平均動脈圧80-180mmHg程度)では灌流量を維持できます。しかし、心原性ショックのように平均動脈圧が大きく低下すると、この調節能を超え、
糸球体濾過量 (GFR)が急激に減少します。これが乏尿のメカニズムです。治療では、
ドパミン (Dopamine)や
ドブタミン (Dobutamine)などの強心剤で心拍出量を増やし、腎灌流を改善させることが目標となります。
暗記のコツとゴロ合わせ
ショック患者の優先アセスメントは「
おしっこ(尿量)は命のバロメーター」。臓器の中で一番早くSOSを出すのが腎臓です。また、ショックの徴候を覚えるゴロとして「
冷たく・湿って・蒼白(はく)・尿出ない」があります。
国試頻出ポイント
ショックに関する問題では、「どの所見が最も緊急性が高いか」「最初に行う看護ケアは何か」が頻出です。その際、
「生命の直接的な危険(ABCの障害)」「新たな臓器障害の証拠」を最優先で選ぶようにしましょう。バイタルサインの数値変化よりも、尿量や意識レベルの変化の方が重み付けが高い傾向があります。
国試出題パターンの変化に注意!
同じ心原性ショックでも、
「患者の症状から、どのタイプのショックか鑑別する」問題や、
「与薬中の看護師の対応(例:ドパミン持続点滴中にラインが外れた場合の対応)」など、様々な角度から出題されます。基本の病態生理(心拍出量低下)と、それに伴う全身の変化(臓器灌流不全)をしっかり押さえておけば、応用問題にも対応できます。