核心解説
この問題は、高齢者の
大腿骨頸部内側骨折 (Femoral Neck Fracture) に対する
人工骨頭置換術 (Bipolar Hip Arthroplasty) 後における代表的な合併症の鑑別を問うています。術後2日目という時期と、患側下肢の腫脹・疼痛増強、そして
足背動脈 (Dorsalis Pedis Artery) 触知微弱という末梢循環障害の兆候が診断の鍵となります。高齢者では下肢静脈の血流がうっ滞しやすく、手術による不動や脱水も加わり、血栓が形成されやすい状態です。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! ③番
深部静脈血栓症 (Deep Vein Thrombosis: DVT) が最も疑われます。
術後2~5日目はDVTの好発時期であり、患肢の腫脹、圧痛、皮膚の光沢、そして静脈還流障害による足背動脈の触知微弱(触れにくくなる)が特徴的な所見です。DVTが進行すると血栓が遊離し、致命的な
肺血栓塞栓症 (Pulmonary Thromboembolism: PTE) を引き起こす可能性があり、早期発見と対応が極めて重要です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ①番の
脂肪塞栓症候群 (Fat Embolism Syndrome) は、大腿骨や骨盤などの長幹骨骨折後に骨髄脂肪が血管内に入ることで発症します。症状は呼吸不全、意識障害、皮膚の点状出血(ペチキア)が主体であり、下肢単独の腫脹や足背動脈微弱は典型的ではありません。発症時期も骨折直後~48時間以内が多いです。
②番の
人工骨頭脱臼 (Dislocation of Bipolar Head) は、患側下肢の短縮、外旋または内旋変形、股関節部の激しい痛みが主徴で、足背動脈の触知が直接影響を受けることは稀です。
④番の
創部感染 (Surgical Site Infection) は、通常術後3~5日以降に発熱、創部の発赤、腫脹、排膿、圧痛を認めますが、足背動脈の触知微弱は来しません。
⑤番の
コンパートメント症候群 (Compartment Syndrome) は、下肢のギプス包帯や筋膜切開後の強い圧迫によるもので、骨折後の腫脹が原因となることはありますが、人工骨頭置換術後2日目で発症する頻度は低く、異常な疼痛と感覚障害(しびれ)が前景に立ちます。
関連概念の整理 (Related Concepts)
DVTのリスク因子として、高齢、肥満、長期臥床、悪性腫瘍、経口避妊薬内服、手術・外傷、脱水などがあります。術後は弾性ストッキングや間欠的空気圧迫装置(IPC)による予防が標準的です。DVTが疑われた場合、ドプラ聴診器による血流確認、Dダイマー(D-dimer)測定、静脈エコー検査が行われます。
概念整理: 高齢者の下肢骨折術後(特に術後2~5日)における患側下肢の腫脹・疼痛増強・足背動脈触知微弱 →
深部静脈血栓症 (DVT) を第一に考える。DVTは肺血栓塞栓症 (PTE) の原因となるため、予防と早期発見が看護の最重要課題である。
一目で比較!
| 合併症 | 発症時期 | 主症状 |
| 深部静脈血栓症 (DVT) | 術後2~5日 | 下肢腫脹・疼痛・足背動脈微弱・下腿圧痛 (Homan's sign) |
| 脂肪塞栓症候群 | 骨折直後~48時間 | 呼吸不全・意識障害・点状出血 |
| 人工骨頭脱臼 | 術後早期 | 股関節痛・下肢短縮・変形 |
| 創部感染 | 術後3~5日以降 | 発熱・創部発赤・腫脹・排膿 |
| コンパートメント症候群 | 受傷後24~48時間 | 異常な疼痛・感覚障害・筋力低下 |
看護過程ポイント
アセスメント:術後は下肢の色調、温度、腫脹の程度、足背動脈の触知(触れる・触れにくい・触れない)、下腿の圧痛(Homan's sign)、感覚・運動機能を定期的に観察する。
看護診断例:「
非効果的末梢組織灌流 (Ineffective Peripheral Tissue Perfusion)」
看護介入:弾性ストッキング装着、IPC使用、早期離床と足関節の自動運動(フットポンプ)、十分な水分摂取の促し、抗凝固薬(ヘパリン、ワルファリンなど)の指示に基づく確実な投与管理。
暗記のコツ
「DVT(深部静脈血栓症)」は「D(どろどろの血液が)V(ぶつかる)T(足の血管)」と覚えましょう。術後の患者さんの足が「太く・熱く・光って・痛い」時はDVTを疑う!特に「腫れ・痛み・足背動脈触れにくい」の3徴は絶対暗記です。
国試頻出ポイント
「術後の合併症」は毎年必出です。特にDVTとPTEの予防・観察項目・初期対応は事例問題で頻繁に問われます。DVT予防のための弾性ストッキングの着用方法や禁忌(末梢動脈疾患がある場合は慎重に)なども併せて学習しておきましょう。
出題パターン注意!
本問のように「高齢者の大腿骨頸部骨折術後」という典型的な事例に加え、「腹部大動脈瘤術後」「長期臥床中の脳卒中患者」「経口避妊薬内服中の若年女性」など、リスクの異なる様々な状況設定でDVTが問われる可能性があります。症状だけでなく、予防策(弾性ストッキング、IPC、早期離床、抗凝固薬)もセットで覚えましょう。