核心解説
この問題は、脊髄損傷の重症度評価に用いられる
ASIA impairment scale (AIS)の正しい理解を問うています。ポイントは、脊髄損傷における「完全麻痺 (Complete Injury)」と「不完全麻痺 (Incomplete Injury)」の定義を正確に把握することです。
核心概念の分析 (Key Concept):
ASIA impairment scaleは、脊髄損傷の程度をA(完全麻痺)からE(正常)まで5段階で分類します。最も重要なのは、
完全麻痺と不完全麻痺の境界は、最も尾側に位置する仙髄節(S4-S5)の機能残存の有無で判定されるという点です。仙髄節は肛門括約筋の随意収縮(運動機能)と肛門周囲の感覚(感覚機能)を司っています。この領域にわずかでも機能が残っていれば、下肢が完全に麻痺していても不完全麻痺と分類されます。
正解の根拠 (Answer Rationale):
最重要! 問題文では「仙髄節の運動機能および感覚機能は全く認められない」と明記されています。これは、ASIA impairment scaleにおける
A(完全麻痺)の定義そのものです。AIS Aは「仙髄節S4-S5に運動機能と感覚機能が全くない」状態です。よって、本患者は
完全麻痺 (Complete Injury)のAに分類されます。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
- ①、②、④のB、D、Cは全て不完全麻痺のカテゴリーです。仙髄節の機能が一部でも残存している場合に該当します。本例のように仙髄節機能が完全に消失している場合は該当しません。
- ⑤のE(正常)は、全ての神経学的機能が正常である状態です。本患者は上肢筋力低下と下肢完全麻痺があるため、明らかに正常ではありません。
関連概念の整理 (Related Concepts):
混同注意! 「完全麻痺 (Complete Injury)」は「脊髄の完全横断」を意味するわけではありません。あくまで仙髄節機能の有無で判定されます。また、AIS A(完全麻痺)でも、損傷高位より下位の脊髄反射(球海綿体反射など)は残存することがあり、これは脊髄ショックからの回復の指標となります。
概念整理: ASIA impairment scaleの分類基準は以下の通りです。
| AIS | 分類 | 定義(最重要ポイント) |
|---|
| A | 完全麻痺 | 仙髄節S4-S5に運動・感覚機能なし |
| B | 不完全麻痺 | 仙髄節S4-S5に感覚のみ残存(運動はなし) |
| C | 不完全麻痺 | 仙髄節S4-S5に運動機能残存(主要筋群の筋力がMMT 3未満) |
| D | 不完全麻痺 | 仙髄節S4-S5に運動機能残存(主要筋群の筋力がMMT 3以上) |
| E | 正常 | 全ての神経機能正常 |
一目で比較!: 完全麻痺(AIS A) vs 不完全麻痺(AIS B-D)。鑑別の鍵は、仙髄節S4-S5(肛門括約筋・肛門周囲感覚)の機能の有無です。「下肢が動くかどうか」ではありません。
看護過程ポイント: 脊髄損傷患者のアセスメントでは、
ASIA impairment scaleを評価するために、肛門括約筋の随意収縮(指示に従って肛門を締めてもらう)と肛門周囲の感覚(針や綿棒での刺激に対する反応)を必ず確認します。これは神経学的評価の一部であり、看護師も実施可能な観察項目です。
暗記のコツ: 「A(完全)=仙髄(S4-S5)なし」と覚えましょう。「仙髄(肛門)が機能していなければ、どんなに上肢が動いてもA(完全麻痺)」です。B以上は「仙髄(肛門)に何か(感覚または運動)が残っていれば不完全」と連想します。
国試頻出ポイント: ASIA impairment scaleの分類は、特にA(完全麻痺)の定義(仙髄節機能の完全消失)が頻出です。事例問題で「下肢完全麻痺だが肛門括約筋の収縮が認められる」といったケースで、不完全麻痺(B~D)を選ばせる問題もよく出題されます。
出題パターン注意!: 「脊髄損傷患者のリハビリテーション計画を立案する際、予後予測としてAISの情報がどのように活用されるか」といった、より応用的な状況設定問題へ発展する可能性があります。完全麻痺(AIS A)は機能回復の見込みが非常に低い一方、不完全麻痺(AIS B-D)は残存機能によって回復目標が異なります。