核心解説
この問題は、
甲状腺全摘術 (Total Thyroidectomy) 後の最も注意すべき合併症の一つを問うています。術後2日目に出現した「手指のしびれ」「口周囲の違和感」は、
低カルシウム血症 (Hypocalcemia) によるテタニー症状 (Tetany) の典型的な初期徴候です。
核心概念の分析 (Key Concept): 甲状腺の後面には、左右上下に4つの
副甲状腺 (Parathyroid Glands) が存在します。副甲状腺から分泌される
副甲状腺ホルモン (Parathyroid Hormone, PTH) は、血中カルシウム濃度を上昇させる働きがあります。甲状腺全摘術の際に、これらの副甲状腺が血流障害や誤った摘出により損傷を受けると、PTHの分泌が低下し、血清カルシウム値が低下します(副甲状腺機能低下症)。
正解の根拠 (Answer Rationale): 正解は①番の
副甲状腺機能低下症 (Hypoparathyroidism) です。血清カルシウムが低下すると、神経筋の興奮性が亢進します。これにより、
手指のしびれ、口周囲の違和感(感覚異常)、筋肉のけいれん が出現します。これらはテタニー症状と呼ばれ、術後1~3日目に出現しやすいことから、この時期に本症状がみられた場合、最も強く疑うべき合併症です。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
②番の反回神経麻痺(Recurrent Laryngeal Nerve Palsy)は、声帯を支配する反回神経の損傷で生じ、主症状は
嗄声 (Hoarseness) や誤嚥です。手指のしびれはきたしません。
③番の創部血腫(Wound Hematoma)は、術後早期(数時間以内)に発生し、
頸部の腫脹、圧迫感、呼吸困難 を呈します。手指のしびれは主症状ではありません。
④番の気道狭窄(Airway Obstruction)も創部血腫や声帯浮腫などで生じ、主症状は
呼吸困難、喘鳴(Stridor) です。
⑤番の甲状腺クリーゼ(Thyroid Storm)は、甲状腺ホルモンの急激な血中増加により生じ、
高熱、頻脈、意識障害、血圧変動 などが主症状です。術後すぐではなく、甲状腺機能亢進症患者の術後や感染症が誘因となります。
関連概念の整理 (Related Concepts):
テタニー症状の確認には、
Chvostek徴候 (Chvostek's Sign)(耳の前の頬を叩くと口角がピクピクする)と
Trousseau徴候 (Trousseau's Sign)(血圧計のカフで上腕を締めると手が攣る)があります。低カルシウム血症の治療には
カルシウム製剤 の静脈内投与が行われます。また、
ビタミンD製剤 の内服も併用されます。
概念整理: 甲状腺全摘術後合併症の発生時期と症状のまとめ
| 合併症 | 発生時期 | 主な症状 |
|---|
| 副甲状腺機能低下症 | 術後1~3日 | 手指・口周囲のしびれ、テタニー、Chvostek徴候、Trousseau徴候 |
| 反回神経麻痺 | 術直後~数日 | 嗄声、誤嚥、呼吸困難(両側麻痺時) |
| 創部血腫 | 術後数時間 | 頸部腫脹、圧迫感、呼吸困難 |
| 甲状腺クリーゼ | 術後1~2日(まれ) | 高熱、頻脈、意識障害 |
一目で比較!混同注意! 副甲状腺機能低下症による「テタニー」と、過換気症候群による「テタニー」は症状が似ていますが、原因が全く異なります。前者は低Ca、後者は呼吸性アルカローシスによるCaの細胞内シフトが原因です。低Caは
血清Ca値<8.5mg/dL で診断されます。
看護過程ポイント:
アセスメント: 術後は
バイタルサイン に加え、定期的に手指や口周囲の感覚異常の有無を問診し、Chvostek徴候とTrousseau徴候を確認します。
看護診断 (Nursing Diagnosis): 術後合併症のリスク状態(副甲状腺機能低下症)
計画・介入: 異常発見時は直ちに医師へ報告し、血清Ca値測定の指示を受けます。カルシウム製剤の静脈内投与時は、血管外漏出に注意します。
評価: 症状の改善、血清Ca値の正常化を確認します。
暗記のコツ: 「甲状
腺の裏に
腺(副甲状腺)がくっついている!」→「取る時に一緒に傷つけやすい!」→「
Ca(カルシウム)が下がって
テ(手)
タ(口)
ニー(痺れ)」と覚えましょう。
国試頻出ポイント: 甲状腺全摘術後の合併症は、発生時期と症状をセットで問う頻出問題です。特に「術後1~3日目の手指のしびれ=低Ca血症」の関連性は必須知識です。状況設定問題では、看護師の最初の対応(医師への報告、カルシウム製剤の準備)を問われます。
出題パターン注意!: 本問のように症状から合併症を選ばせるパターンに加え、「術後2日目、患者が手指のしびれを訴えた。看護師の対応として適切なのはどれか。」のような実践的な出題も増えています。選択肢には「温罨法を行う」「安静を促す」「カルシウム製剤の準備をする」「嗄声の有無を確認する」などが含まれます。