核心解説
この問題は、
尿崩症 (Diabetes Insipidus, DI) の病態生理を理解し、それに基づく看護上の注意点を正しく選択する力を問うています。尿崩症は、
抗利尿ホルモン (ADH, Vasopressin) の分泌不足(中枢性尿崩症)または
腎臓でのADH感受性低下(腎性尿崩症)により、
大量の低張尿(1日4~20L)が排泄される疾患です。この病態を理解すれば、患者に生じる症状と看護介入の優先順位が明確になります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
正解は
⑤ 多尿と脱水の予防 です。
尿崩症では、ADHの作用不足により腎臓での水分再吸収が障害されるため、
多尿 (Polyuria) が生じます。この結果、体内の水分が過剰に失われるため、患者は強い口渇を感じ、大量の水分を摂取します(多飲)。しかし、何らかの理由で水分摂取が不十分な場合や、意識障害などで口渇を感じられない患者では、
容易に高ナトリウム血症を伴う脱水 (Hypernatremic Dehydration) をきたします。最重症例では
高張性昏睡 (Hyperosmolar Coma) に至る危険性もあるため、
最重要! 水分バランスの厳密な管理と脱水予防が看護の最優先課題となります。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
① 高血圧と脳出血の予防:
混同注意! これは
クッシング症候群 (Cushing's Syndrome) や
本態性高血圧症 (Essential Hypertension) の管理目標です。尿崩症の主症状は多尿と脱水であり、高血圧は典型的な随伴症状ではありません。
② 肥満と耐糖能異常の管理:
混同注意! 肥満と耐糖能異常(糖尿病)は、
メタボリックシンドローム (Metabolic Syndrome) や
クッシング症候群 の管理項目です。尿崩症の病態とは直接関連しません。
③ 低血糖と意識障害の観察:
混同注意! 低血糖と意識障害は
糖尿病 (Diabetes Mellitus) の治療中や
インスリノーマ (Insulinoma) で観察される症状です。尿崩症では、むしろ高ナトリウム血症による意識障害のリスクがあります。
④ 乏尿と浮腫の観察:
混同注意! 乏尿と浮腫は、
急性腎障害 (Acute Kidney Injury) や
ネフローゼ症候群 (Nephrotic Syndrome)、
心不全 (Heart Failure) などでみられる所見です。尿崩症は全く逆の「多尿」が特徴です。
関連概念の整理 (Related Concepts)
尿崩症と
混同注意! 心因性多飲症 (Psychogenic Polydipsia) との鑑別は重要です。心因性多飲症は過剰な水分摂取によりADH分泌が抑制され、結果的に多尿となるため、検査所見(血液検査:血清Na、浸透圧)が逆になります。また、
SIADH (Syndrome of Inappropriate Antidiuretic Hormone, 抗利尿ホルモン不適合分泌症候群) はADH過剰分泌により乏尿・低ナトリウム血症となる点で、尿崩症とは真逆の病態です。これらを比較することで理解が深まります。
概念整理:
尿崩症 (Diabetes Insipidus) はADH不足による水分再吸収障害 →
多尿 → 脱水リスク。治療は
デスモプレシン (Desmopressin, DDAVP) 補充(中枢性)または原因薬剤の中止(腎性)です。
一目で比較!:
| 疾患 | ADH分泌 | 尿量 | 尿浸透圧 | 血清Na | 看護の焦点 |
|---|
| 尿崩症 (DI) | 低下/抵抗性 | 多尿 | 低値 | 高値 | 脱水予防 |
| SIADH | 過剰 | 乏尿 | 高値 | 低値 | 水分制限 |
看護過程ポイント:
アセスメント:24時間尿量、体重変化、口渇の有無、皮膚・粘膜の乾燥、血清Na値と浸透圧。
看護診断:「体液量不足リスク (Risk for Deficient Fluid Volume)」。
計画・実施:正確な入出量測定、指示に基づく水分補給、必要時の
デスモプレシン 投与と効果判定。
暗記のコツ: 「
尿崩症 = 尿が崩れる = ドバドバ出る」と覚えましょう。SIADH(水分ためる)と真逆です。「
DI(多尿) vs SIADH(乏尿)」のペアで暗記すると混乱しにくいです。
国試頻出ポイント: 尿崩症とSIADHの症状・検査値・看護介入の違いが比較問題として頻出です。特に「尿量」「血清Na濃度」の違いは必ず押さえてください。
出題パターン注意!: 頭部外傷後や脳腫瘍術後に発症する中枢性尿崩症の事例問題がよく出ます。術後の「多尿」を見逃さず、適切に評価できるかが問われます。