核心解説
この問題は、
肝硬変 (Liver Cirrhosis) による
腹水 (Ascites) のアセスメント、特に身体所見の捉え方を問うています。肝硬変では、門脈圧亢進症と低アルブミン血症により、腹腔内に体液が貯留します。これを適切に評価する身体診察技術の知識が鍵となります。
1.
核心概念の分析 (Key Concept): 肝硬変の合併症である腹水は、体液量が増加するにつれて腹部が膨隆し、診察上「波動」や「濁音界の移動」などの特徴的な所見が出現します。特に、
最重要! 腹部を一方の側から軽く弾くと、貯留した腹水を介して反対側の手掌に振動が伝わる「波動 (Fluid Wave)」が陽性となるのが特徴です。これは、腹水が多量(500ml以上)に存在することを示す典型的な所見です。
2.
正解の根拠 (Answer Rationale): ②番「波動の触知」が正解です。波動は、腹水による液体の振動が腹部の反対側に伝わる現象で、肝硬変患者の腹水アセスメントにおいて非常に重要な身体所見です。この所見は、腹水と腸管ガスによる鼓腸を鑑別する上でも役立ちます。
3.
誤答の分析 (Distractor Analysis):
- ①番「腸雑音の亢進」:
混同注意! 腸雑音亢進は、腸閉塞初期や下痢など、腸蠕動が亢進している状態で見られます。腹水では腸雑音はむしろ減弱する傾向があります。
- ③番「腹壁静脈の怒張」: これは腹水そのものではなく、肝硬変による門脈圧亢進症の他の徴候です。腹壁の皮下静脈が蛇行し怒張する「メデューサの頭 (Caput Medusae)」と呼ばれる所見で、門脈大循環短絡路を示しますが、腹水の直接的な所見ではありません。
- ④番「腹部全体の圧痛」: 圧痛は炎症や腹膜刺激症状を示唆します。肝硬変の腹水自体は通常無痛性ですが、
細菌性腹膜炎 (Spontaneous Bacterial Peritonitis, SBP) を合併すると圧痛や反跳痛が出現するため、注意が必要です。
- ⑤番「腹部全体の鼓音」: 鼓音は消化管内にガスが存在することを示す打診音です。腹水では、打診上「濁音(Dullness)」が認められます。特に、側腹部が濁音で、中央部が鼓音となる「濁音界の移動 (Shifting Dullness)」が腹水の特徴です。
4.
関連概念の整理 (Related Concepts): 腹水のアセスメントには、波動の触知、濁音界の移動のほか、腹囲測定、体重測定が重要です。また、腹水の原因として、肝硬変以外にも心不全、ネフローゼ症候群、悪性腫瘍(腹膜播種)などがあるため、全身的な鑑別が必要です。肝硬変患者では、腹水穿刺による検査(細胞数、蛋白、培養)でSBPの有無を確認します。
概念整理: 肝硬変の腹水は、門脈圧亢進と低アルブミン血症による膠質浸透圧低下で生じる。身体所見では波動と濁音界の移動が特徴的で、腹部超音波やCTで確認する。
一目で比較!:
| 所見 | 腹水 | 鼓腸(ガス貯留) |
|---|
| 波動 | 陽性 | 陰性 |
| 打診音 | 濁音(側腹部) | 鼓音(全体) |
| 濁音界移動 | あり | なし |
看護過程ポイント: アセスメントでは、腹囲・体重・バイタルサインを毎日測定。呼吸困難の有無、浮腫の程度、SBPの兆候(発熱、腹痛)を観察。看護診断は「体液過剰」「非効果的呼吸パターン」など。ケアでは、減塩食、安静、必要時腹水穿刺の介助。
暗記のコツ: 「波動=水の波」とイメージしよう!お風呂で手で水を叩くと波が伝わるように、腹水が溜まると腹部を叩いた振動が反対側に伝わる。これが「波動」です。
国試頻出ポイント: 肝硬変の身体所見(波動、クモ状血管腫、手掌紅斑、女性化乳房、腹壁静脈怒張)は頻出。特に「波動」と「腹壁静脈怒張」の違いは必ず区別すること。
出題パターン注意!: 「肝硬変の患者、腹部膨満あり。看護師のアセスメントで適切なのは?」という単純知識問題から、「肝硬変患者が腹痛と発熱を訴えた。まず行うべき観察は?」のようなSBP合併を疑う状況設定問題へ発展します。