核心解説
この問題は、
重症患者の栄養管理 (Nutritional Management in Critically Ill Patients) における
経腸栄養の適応と禁忌 (Indications and Contraindications for Enteral Nutrition) を問うています。経腸栄養は、腸管機能が保たれている患者に、経鼻胃管や胃瘻などを介して栄養剤を投与する方法です。一方、経静脈栄養(中心静脈栄養:TPN など)は、消化管が使用できない場合に選択されます。この選択の判断は、患者の病態生理を正確に理解することが鍵となります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! ②番の
機械的腸閉塞 (Mechanical Ileus / Intestinal Obstruction) は、腫瘍、癒着、ヘルニアなどによって腸管が物理的に閉塞された状態です。この状態で経腸栄養を投与すると、栄養剤が閉塞部位より先に進めず、腸管内圧が上昇します。これにより、
腸管破裂 (Bowel Perforation) や腹膜炎 (Peritonitis)、敗血症 (Sepsis) のリスクが著しく高まるため、
絶対的禁忌 (Absolute Contraindication) です。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! ①番の
ショック状態からの離脱後 (Post-Shock Resuscitation): ショック状態では腸管血流が低下し、粘膜バリアが脆弱になりますが、循環動態が安定した後は、
早期経腸栄養 (Early Enteral Nutrition) が推奨されます。これは、腸管免疫機能の維持とバクテリアルトランスロケーション(細菌の腸管外移行)の予防に有効だからです。
③番の
意識障害による誤嚥リスク (Aspiration Risk due to Impaired Consciousness): 誤嚥リスクは高いですが、経腸栄養そのものの禁忌ではありません。
禁忌ではなく、注意点 です。対策として、
半坐位 (Semi-Fowler's Position: 30~45度) の保持、
胃瘻 (PEG) や経鼻胃管の先端位置確認、
投与速度の調整、場合によっては
経腸栄養の中断や経静脈栄養への変更 を検討します。
④番の
低アルブミン血症 (Hypoalbuminemia): これは栄養状態の指標であり、経腸栄養の適応を制限する因子ではありません。むしろ、栄養改善のために経腸栄養を積極的に検討すべき状態です。ただし、重度の低アルブミン血症があると、腸管浮腫により下痢などの消化管不耐性が生じやすくなるため、
禁忌ではなく、注意深い観察と投与計画が必要な状態 です。
⑤番の
急性膵炎の回復期 (Recovery Phase of Acute Pancreatitis): 近年のガイドラインでは、重症急性膵炎においても、
早期経腸栄養 (特に経鼻空腸管による栄養) が膵臓を刺激せず、感染性合併症や死亡率を低下させることが示されています。回復期はもちろん、安定した重症例でも禁忌ではありません。
混同注意! 「急性膵炎=絶食」という古い固定観念は改めましょう。
概念整理:
経腸栄養 vs 経静脈栄養
| 項目 | 経腸栄養 (Enteral Nutrition) | 経静脈栄養 (Parenteral Nutrition) |
|---|
| 投与経路 | 消化管(経鼻胃管、胃瘻、経鼻空腸管など) | 静脈(末梢静脈:PPN、中心静脈:TPN) |
| 生理的適応 | 消化管機能が保たれている場合 | 消化管が使用できない場合(絶対的禁忌時) |
| メリット | 腸管粘膜の萎縮防止、免疫維持、安価、感染症リスク低減 | 消化管の状態に関係なく栄養投与可能 |
| 絶対的禁忌 | 機械的腸閉塞、消化管出血、消化管穿孔、重症ショック | 静脈アクセス不能、重度の高脂血症など |
看護過程ポイント: 経腸栄養を開始・継続する際の看護過程
-
アセスメント (Assessment):
バイタルサイン (Vital Signs)(特に血圧・脈拍・呼吸)、
腹部所見 (Abdominal Assessment)(腸蠕動音、腹囲、腹部膨満、圧痛)、
栄養状態の指標(血清アルブミン値、体重、BMI)、
消化管症状(嘔気・嘔吐、下痢、便秘)。
-
看護診断 (Nursing Diagnosis):
栄養摂取量低下リスク (Risk for Imbalanced Nutrition: Less Than Body Requirements)、
誤嚥リスク (Risk for Aspiration)、
下痢 (Diarrhea)、
非効果的健康維持 (Ineffective Health Maintenance) など。
-
計画・実施 (Planning & Implementation): 投与前の胃残渣(Residual Gastric Volume)測定、半坐位の保持、投与速度の段階的増量(10~20mL/hから開始)、注入後の体位保持。
-
評価 (Evaluation): 投与後の消化管症状の有無、体重の変化、栄養指標の改善、誤嚥性肺炎の有無。
暗記のコツ: 「腸が動いているか?安全に通るか?」で覚えましょう。「
腸閉塞 = 通れない = 絶対禁忌」。逆に「
腸が動いていて通るなら、使うべき」が基本です。特にショック後の腸管、急性膵炎の腸管は「使う」方向へガイドラインが変わっています。「絶食」と「経腸栄養」を天秤にかける発想が重要です。
国試頻出ポイント: 「経腸栄養の絶対的禁忌」は、看護師国家試験で毎年と言っていいほど出題される必須項目です。選択肢に「機械的腸閉塞」「消化管穿孔」「重症ショック(未補正)」が含まれていたら、それらが禁忌であると疑ってください。逆に「低アルブミン血症」「意識障害」「急性膵炎回復期」は「禁忌ではなく、注意すべき状態」と理解しておきましょう。状況設定問題(事例問題)では、「経腸栄養投与中に腹部膨満と疼痛が出現した」場合の看護介入(投与中断、医師報告など)が問われることも多いです。
出題パターン注意!: 単純な知識問題だけでなく、「経腸栄養を開始する前に確認すべきことはどれか」や「経腸栄養を継続するための観察項目はどれか」という形で、アセスメントの視点が問われることもあります。また、「経静脈栄養から経腸栄養へ移行する時期の判断基準」や「経腸栄養の合併症とその対策」も関連して出題されます。