核心解説
この問題は、
肺胞 (Alveoli) における
ガス交換 (Gas Exchange) の物理的メカニズムを問う、基礎的な生理学の問題です。看護師国家試験では、呼吸器系の機能を理解するための必須知識です。肺胞で行われる
酸素 (O₂) と二酸化炭素 (CO₂) の交換 は、
単純拡散 (Simple Diffusion) という受動的な過程によって行われます。これは、
肺胞気と肺毛細血管血液の間のガス分圧差 (Partial Pressure Gradient) に依存しており、濃度の高い方から低い方へと分子が移動する物理法則に従います。この過程にはエネルギー(ATP)を必要としません。
正解の根拠 (Answer Rationale):
肺胞壁は非常に薄く(約0.2~0.5μm)、
肺胞上皮細胞 (Alveolar Epithelial Cells) と
肺毛細血管内皮細胞 (Capillary Endothelial Cells) の2層からなる
呼吸膜 (Respiratory Membrane) で構成されています。この構造が、ガス分子が効率よく拡散するための理想的な環境を提供します。酸素は肺胞気(酸素分圧約100mmHg)から肺毛細血管血液(酸素分圧約40mmHg)へ、二酸化炭素はその逆(血液中約46mmHg → 肺胞気中約40mmHg)へと、それぞれの分圧差に沿って単純拡散します。
最重要! この
ガス分圧差 が拡散の原動力であり、これがなければガス交換は成立しません。
誤答の分析 (Distractor Analysis):
混同注意! 他の選択肢は、細胞内への物質取り込みや水分・イオンの移動メカニズムですが、肺胞でのガス交換には該当しません。
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①番の飲作用 (Pinocytosis): 細胞が細胞外液を小さな小胞で取り込む現象で、ガス交換とは無関係です。
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②番の浸透 (Osmosis): 半透膜を介した溶媒(水)の移動であり、ガス分子の移動ではありません。
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③番の能動輸送 (Active Transport): 濃度勾配に逆らって物質を運ぶため、エネルギー(ATP)を必要とします。ガス交換は濃度勾配に沿って進む受動過程なので、能動輸送は該当しません。腎臓でのナトリウム再吸収などが代表例です。
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⑤番のろ過 (Filtration): 圧力勾配によって水と溶質が膜を通過する現象で、腎臓の糸球体での血液ろ過が代表的です。
関連概念の整理 (Related Concepts):
ガス交換を促進する因子としては、
呼吸膜の面積と厚さ、
換気血流比 (V/Q比) が重要です。肺気腫などで呼吸膜の面積が減少したり、肺水腫で呼吸膜が肥厚したりすると、ガス交換が障害されます(拡散障害)。また、肺塞栓症などで血流が途絶えると、V/Q比が異常になり、ガス交換効率が低下します。これらの病態は、すべて「単純拡散」の効率が低下している状態と捉えることができます。
概念整理:
肺胞ガス交換 =
単純拡散(受動過程、エネルギー不要)。原動力は
ガス分圧差。酸素は肺胞から血液へ、二酸化炭素は血液から肺胞へ拡散。呼吸膜の構造が効率的な拡散を可能にしている。
一目で比較!:
| 移動の仕組み | エネルギー | 物質の方向 | 代表的な例 |
|---|
| 単純拡散 | 不要(受動的) | 高濃度→低濃度 | 肺胞でのO₂/CO₂交換 |
| 浸透 | 不要(受動的) | 低濃度→高濃度(水のみ) | 赤血球の水分移動 |
| 能動輸送 | 必要(ATP使用) | 低濃度→高濃度 | Na⁺/K⁺ポンプ |
| ろ過 | 不要(圧力差) | 高圧→低圧 | 腎糸球体での原尿生成 |
看護過程ポイント: アセスメントでは、
動脈血液ガス分析 (ABG) を用いて
PaO₂(酸素分圧) と
PaCO₂(二酸化炭素分圧) を評価します。PaO₂低下(低酸素血症)や PaCO₂上昇(高二酸化炭素血症)は、肺胞でのガス交換が障害されているサインです。看護介入としては、酸素療法(Oxygen Therapy)の適応判断、体位変換(例:腹臥位療法によるV/Q比改善)、呼吸リハビリテーションなどが挙げられます。
暗記のコツ: 「肺胞でのガス交換は『坂道を転がるボール』のように、自然に(エネルギーを使わずに)高いところ(高濃度)から低いところ(低濃度)へ移動する」とイメージしましょう。ボールが坂を上る(能動輸送)わけではありません。
国試頻出ポイント: 「ガス交換の機序は?」という単純知識問題のほか、
肺水腫 (Pulmonary Edema) や
間質性肺炎 (Interstitial Pneumonia) など呼吸膜が障害される疾患の病態理解の基礎として頻出します。「なぜこの患者で低酸素血症が起こるのか」を考えるための土台となります。
出題パターン注意!: 「肺胞でのガス交換が障害される病態はどれか」という応用問題や、「肺気腫患者のPaO₂低下の原因は呼吸膜の何の変化か」というような、病態と機序を結びつける問題としても出題されます。