核心解説
この問題は、
肺胞 (Alveoli) の微細構造と、各細胞の機能を問うています。肺胞はガス交換の場であり、複数の細胞種がそれぞれ異なる役割を担っています。特に
サーファクタント (Surfactant) は、新生児呼吸窮迫症候群 (RDS) や成人呼吸窮迫症候群 (ARDS) の病態理解に直結する極めて重要な物質です。この問題の核心は、「肺胞を構成する細胞のうち、分泌機能を持つのはどれか」という点にあります。
正解の根拠 (Answer Rationale)
最重要! 正解は④番の
II型肺胞上皮細胞 (Type II Alveolar Epithelial Cells) です。II型肺胞上皮細胞は、肺胞腔内に
サーファクタント (肺表面活性物質) を産生・分泌する顆粒分泌細胞です。サーファクタントはリン脂質とタンパク質から構成され、肺胞の
表面張力 (Surface Tension) を低下させることで、呼気時の肺胞虚脱を防止し、肺のコンプライアンス(柔軟性)を維持する重要な役割を果たします。また、サーファクタントには肺胞マクロファージの貪食作用を促進するオプソニン効果もあり、局所の免疫防御にも関与します。
誤答の分析 (Distractor Analysis)
混同注意! 各選択肢の細胞機能を正確に区別しましょう。
①
クララ細胞 (Clara Cells) → 誤り。これは主に
細気管支 (Bronchioles) の上皮に存在する非繊毛性分泌細胞です。肺胞ではなく、終末細気管支から呼吸細気管支にかけて存在し、粘液やサーファクタント類似物質を分泌し、気道を保護します。肺胞の細胞ではありません。
②
肺胞マクロファージ (Alveolar Macrophages) → 誤り。これは肺胞腔内に存在する
貪食細胞 (Phagocytic Cells) であり、吸入された異物、細菌、死滅した細胞などを処理する免疫防御の最前線です。分泌は行いません。「掃除屋さん」とイメージすると覚えやすいでしょう。
③
杯細胞 (Goblet Cells) → 誤り。これは
気道粘膜 (Respiratory Mucosa) に存在する粘液分泌細胞です。産生する粘液(ムチン)は気道表面を潤し、吸入異物を捕捉する役割があります。肺胞には存在しません。
⑤
I型肺胞上皮細胞 (Type I Alveolar Epithelial Cells) → 誤り。これは肺胞表面積の約95%を占める
扁平上皮細胞 (Squamous Epithelial Cells) で、毛細血管内皮細胞とともに極めて薄い
血液-ガス関門 (Blood-Gas Barrier) を形成し、効率的な酸素と二酸化炭素の拡散を可能にしています。分泌機能はありません。
関連概念の整理 (Related Concepts)
サーファクタントの産生は胎生期には遅く、妊娠24~28週頃から産生が始まり、35週以降に急増します。このため、
早産児 (Preterm Infants) ではサーファクタントが不足し、
新生児呼吸窮迫症候群 (Respiratory Distress Syndrome, RDS) を発症します。これは国試でも頻出の関連知識です。また、成人では
急性呼吸窮迫症候群 (Acute Respiratory Distress Syndrome, ARDS) において、炎症などによりII型肺胞上皮細胞が障害され、サーファクタント産生が低下することで肺胞虚脱が進行します。
概念整理: 肺胞はガス交換の場であり、2種類の上皮細胞が存在する。
| 細胞 | 機能 | 割合 |
|---|
| I型肺胞上皮細胞 | ガス交換(血液-ガス関門の主体) | 約95% |
| II型肺胞上皮細胞 | サーファクタント産生・分泌、肺胞上皮の修復・再生 | 約5% |
一目で比較!: 気道の分泌細胞まとめ
| 部位 | 細胞 | 分泌物質 | 主な機能 |
|---|
| 気道(気管・気管支) | 杯細胞 | 粘液(ムチン) | 異物の捕捉と排除 |
| 細気管支 | クララ細胞 | 粘液様物質、サーファクタント類似物質 | 気道保護、異物代謝 |
| 肺胞 | II型肺胞上皮細胞 | サーファクタント | 表面張力低下、肺胞虚脱防止 |
看護過程ポイント:
アセスメント: サーファクタント不足のリスク因子(早産、ARDSの原因疾患)をアセスメントする。
計画・実施: RDSの新生児にはサーファクタント補充療法の実施や人工呼吸器管理が計画される。ARDSの患者では、肺胞虚脱を予防するために
PEEP (呼気終末陽圧) を設定した人工呼吸療法が行われる。
暗記のコツ: 「I型は
息を吸う(ガス交換)、II型は
二つの意味で重要(サーファクタント産生 + 再生能力)」と覚えましょう。また、サーファクタントは「
石鹸(界面活性剤)」のようなものとイメージすると、表面張力を下げる役割が理解しやすいです。
国試頻出ポイント: この問題は「細胞の機能を問う」基礎知識問題として頻出です。さらに発展して、「サーファクタント不足により起こる病態(RDS, ARDS)」や「その治療(サーファクタント補充療法、PEEP)」の組み合わせ問題、あるいは「呼吸窮迫のある新生児の看護(保温、酸素投与、モニタリング)」といった状況設定問題へとつながります。