看護臨床実践ガイド
臨床シナリオ (Clinical Scenario)
救急外来に搬送された28歳の1型糖尿病患者。2日前から感冒様症状があり、食事が摂れずインスリン注射を数回省略。その後、悪心・嘔吐・腹痛が出現。バイタルサインは、血圧 90/60 mmHg、脈拍 120回/分、呼吸数 28回/分(深く努力性)、体温 37.8℃。意識はやや混濁している。
看護介入戦略 (Nursing Intervention)
1.
一次アセスメント (Primary Assessment):
ABC(気道・呼吸・循環)の確保が最優先。特に、クスマウル呼吸は呼吸努力が大きいサインであり、疲労から呼吸不全に移行するリスクがあります。
2.
緊急対応:酸素投与、モニター装着(心電図、SpO2)、
2本の太い静脈路確保(大量輸液とインスリン持続静注のため)。血液ガス分析、血糖、電解質、ケトン体の緊急採血を依頼・実施。
3.
継続的モニタリング:意識レベル、呼吸状態、バイタルサイン、尿量を頻回に観察。インスリン持続静注開始後は、
血糖値の急激な低下(特にカリウム値の変動)に注意。
患者の安全と注意事項 (Precautions)
DKA治療の3本柱は、「
輸液」「
インスリン」「
電解質補正(特にカリウム)」です。輸液開始により血糖値が下がり、インスリン投与によりカリウムが細胞内に移動するため、治療開始後数時間で
低カリウム血症 (Hypokalemia)が生じるリスクが高まります。心電図モニターでT波の変化に注意し、医師の指示に従いカリウム補充を行います。
看護処置と与薬フロー
| 段階 | 看護ケアの焦点 | 注意点 |
|---|
| 初期対応 | ABCの確保、酸素投与、静脈路確保×2、緊急採血 | クスマウル呼吸は「呼吸苦」の訴えがない場合もあり、観察が重要。 |
| 治療開始 | 指示された等張液(生理食塩水など)の急速輸液、インスリン持続静注の開始と厳密な速度管理 | インスリンポンプの設定をダブルチェック。血糖は1時間毎に測定。 |
| 継続管理 | バイタルサイン、意識レベル、尿量、検査値(血糖、電解質、動脈血ガス)のモニタリング | 血糖下降速度は50-75 mg/dL/hrが目安。急激な低下は脳浮腫のリスク。 |
先輩看護師からの一言
「DKAの患者さんは、『具合が悪くてインスリンを打てなかった』ということがよくあります。看護師は、患者さんの『フルーツの匂い』や『力強い深い呼吸』に気づくことで、検査結果を待たずに緊急性を察知できます。治療が始まってからが本当の看護の見せ所。血糖が下がるのは良いことですが、それに伴う電解質の乱列、特にカリウムの動きは命に関わります。数値の変化を先読みして、安全を見守るのが私たちの役目です!」